第百八話 シュメロンさんと議論爆発
108話です
シュメロンの鍛冶屋に行ったら、今日はこの前と違ってお店に人がたくさん集まっていて、驚いた。
中には人をよけて奥に進むと店主のシュメロンさんはカウンターに座っていた。
「おう、この前の」
シュメロンは新聞に落としていた目をずんぐりと持ち上げた。
「お金を持ってきたので、お仕事の話をしたいんです」
「わかったよ。付いてきな」
そういうと、シュメロンは立ち上がりカウンターの奥に来るように手招きした。
「こっちかな」
「うん」
とひそひそエリーナとこしょこしょ話して進んだ。
応接室と書かれた部屋でシュメロンは立ち止まった。
「ここで話をしようか。大事な話はここでよくするんだ」
「失礼しまーす」
黒を基調としたシックな色で鍛冶屋の工房と180度違う異空間のようだった。
俺はキラに欲しい武器をあらかじめリストに書いておいてもらった。
「これなんですけど作れそうですか?」
俺は予算と希望の範疇でできることをシュメロンさんと話し合った。
金属類は全く持っていないが、鞘やケースに使うための素材は《収納》に眠っているのが使えるので予算を削減できるようだ。
シュメロンさんは深く悩んでいたが、立ち上がり意を決したように言った。
「お前さんの依頼された武器を作ろう。足りない額は後で耳そろえて出してもらうけど、それでいいか?」
「はい。ありがとうございます!」
キラが一番に立ち上がって頭を下げた。
「「「ありがとうございます」」」
そう言って、決めごとをして鍛冶屋を後にした。
受取日に後払いの分のお金を持ってくること。受け取りは今日から8回陽が沈んだ日に来るようにと取り決めた。
俺たちは8日間はダンジョンに潜ることにしようと、話し合いで決めた。
今回は長期滞在を目的としていたから、非常食をたくさん用意した。
1日目、2日目、3日目と順調に過ぎ去った。
1日目の午前には蛇の魔物と対峙したが、これは最初から透明と土壁を用意したことで難なく倒すことができた。
ボス部屋は1日経たないとボスが再登場しないから、ここで軽くランチを取って上層から、中層に移った。中層の部屋に入った瞬間に感じたのは上層に入るときに感じた生ぬるさとは違って、肌を刺すような不気味な冷たさだった。
「こーと!」
エリーナは入るなり寒いというように俺が出していたコートを取ってすぐに身に羽織った。
「まだ寒いけど、まだましだね」
2日目は中層が初めてでゆっくり戦っていたが、魔法使い2人入る時点でここにいる魔物なんて目ではなかった。
3日目は中層のボス部屋に入ったけど、苦戦はなかった。上層のボス部屋には蛇がいてそのせいで種族的に怖がったが、中層のボス「ミノタウロス」は雑魚が3匹固まってるだけだった。
ミノタウロスは危険度Aの魔物らしいが、上級の魔法で瞬殺だった。
圧倒的過ぎて、蛇の部屋ではどれだけ弱体が入っていたのだろうと本気で悩んだ。
そんな感じで順調にダンジョンをめぐっていた。途中明らかにきれいすぎる宝箱があって、『人食い宝箱』と見ただけで分かるようなものをエリーナが一人で開けようとしていたのを見た時はびっくりしたがそれ以外特に問題もなく進んだ。
4日目になってダンジョンにも十分慣れ、少ーし油断してきたかな、とおもっているころだった。
中層のボス部屋(Ⅱ)にたどり着いた。
ここにはギルド情報で1000匹近いネズミ型のモンスター、『マウチュ』がいるらしい。
俺たちは金に困っていたのと、ボス部屋完成後のレアドロップ狙いで中に入ることにした。
もう、3日だけでとんでもない量の魔物の核が集まっていて大金が獲得できることは保障されていた。
ボス部屋はかなり広い面積を有していて、柱がないので地下化と一瞬疑ってしまった。
「「「チュウ」」」俺たちが中に入り込むと赤黒い目のネズミがこっちを向いた。
「「「いぎゃあーー」」」
3人の女子は大悲鳴を上げた。
「まあまあまあまあ」
俺は冷静になるよう説得して戦いを始めた。
広範囲系の氷魔法で俺はフィールドを凍らせた。サッと死ぬかと思ったが、中から体の周りの氷をかみ砕き、半分くらいのネズミたちがはい出てきた。
「まじでぇ」
エリーナも驚く。
「今度は土魔法で」
俺は100匹に狙いをかけて頭上に岩を設置、拘束で落下させて当てて倒した。
でもまだ4割近く残ってる。
「エリーナは水魔法を使って、マニラは”火の魔法を使うと空気が無くなる”からエリーナを守ってくれ。キラと俺は物理で攻撃しにいくぞ」
1000匹なんているのかと思っていたが、《収納》を使って集まった魔石がちょうど1000個だった。
「お疲れさま」
今日が4日目だから、あとは帰るだけだ。
これ以上長くいると買えりまでに間に合わなくなってしまうから。
(ちなみに1000匹の『マウチュ』からはレアドロップが落ちなかった。確率低すぎだろ!)
俺たちはまたボス部屋で飯を食べようとして油断していた。
男が2人、怪しげにこっちによってきていた。
体には大量の火薬と油。手に着火剤。
「ホウキ屋だ!」
頭の角ですぐに魔族と分かり、服でホウキ屋と分かった。
「「偉大なる目的のために!」」
二人は座っている俺たちの所に導火線に火をつけながら走りこんできた。
俺はとっさにエリーナの前に立った。
「ボコン!」
爆弾が爆発し、あたりに黒い煙が立ち込める。
「ゴホッゴホッ!」
風の魔法を使って、煙を集めて《ブラックホール》で吸い込んだ。
爆発地点の2か所には何も残っていなかった。
エリーナが嗚咽の混じった声で叫んだ。
「キラの腕がっ!?」
俺の視線はキラの左腕にくぎ付けになった。いや、正確にはキラの左腕があったところだ。
「ハイヒール」
俺は腕の付け根部分に魔法で回復をかけた。何度もかけた。
「・・これは俺に治せない」
「いいよ。どんくさい私が悪かったんだ・・」
腕がないのは治せない。部位欠損は俺の手には負えない。
ダウネとの戦いで傷ついた兵が下いた時、俺は何も考えずにハイヒールをかけれたが今は違う。
腕を治せない。亡くなったものを戻せないのがこんなにも、本当に大変なことだったとは。
俺は自分にできる止血と傷口の縫合だけやって、ジンギ―を呼びつけると決めた。
「急いで戻ろう!!」
俺たちは来た道を一睡もせず戻った。
エリーナや、キラも交代で起きていて俺の背中に乗っているキラを看病してくれていた。
やっとのことで地上に戻ったとき、俺はダンジョンの職員の人に速達でジンギ―に手紙を送るように指示をして、この街の一番大きな協会に駆け込んだ。
入るなり、修道女さんが
「はやくおはいりなさい」
と扉を開けて新婦のもとに連れて行かせてもらえた。
「神父様、この腕はまた動くように治りますよね・・」
神父はキラの左腕を見ていた。そして首を横に振って口を開いた。
「・・無理でしょう」
と言った。
「そんな無責任な!神の使いなら治してくれよ!!」
「何か勘違いされているかもしれませんがこの方がこの経験をするのはあらかじめ決まっていた事なんです。私たちは死者の復活なんてできません。それと同じで失った腕はもう2度ともどらない。わかりましたか」
神父によって無情にも俺たちの希望は投げつけられた
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