第1.1話 続きは鮮血とともに
目の前には上半身だけの人。
周りは赤黒く染まった光景。
さっきまでの平穏そのもののような場所が、突如として死と殺戮に満ちた戦場のような場所へと変貌したのだ。
わずかに離れた所では、まるで巨大な昆虫のような、しかし見たこともない化け物と対峙する二人の人間の姿があった。
一人は何かを必死に唱えているようなそぶりで、もう一人は必死に化け物からの攻撃を凌いでいた。
だがどう見ても不利であることは明白だった。力も速度もなにもかもが。このままだといずれやられしまうのでは―――
そう思った瞬間、攻撃を凌いでいた一人が巨大な爪のようなものに貫かれた。致命傷であることは間違いなかった、それでも最後の力を振り絞って振り払おうと必死にもがいていた。
しかしそんなわずかな抵抗も虚しく、そのまま化け物の目の前に運ばれると、粘液まみれの小さな突起が並んだおぞましい部分が露になったのだ。
嫌なことにその先のことを瞬時に想像してしまった。そして想像通りとなった。
肉が千切れ骨が砕け、血が周囲に垂れる嫌な音と、最後に残った一人の悲鳴が混ざり合った最悪な音楽は
この世界が現実であり、元居た世界とは全く別のものと認識させるのに十分だった。
僕はというと何もできず、ただただこの地獄のような場面を見ているだけしかできなかった。それ以外の選択肢が無いのだから。
状況はさらに悪化している。最後に残った一人が力なく崩れ落ちその場に座り込み、そこへ化け物がゆっくりと迫ってきている。このままだと最後の一人も同じような末路を辿るだろう。
どうにかしないと、そう思っても動かせる体なんて存在しない。
僕は今メガネになっているのだ。仮に手足が生えていてもこんな姿じゃあんな化け物に到底太刀打ちなんて不可能だ。おかしい、これは異世界転生、本来なら僕が主人公でチート能力を持っていてあんな化け物の一匹や二匹、指先一つでダウンどころか塵にできるはず。はずなのに。
混乱から来る空虚な妄想と非情な現実と、目を背けたい恐怖とどうにかして救いたいというちっぽけな正義感と、何も出来ない無力な自分への怒りとが混ざり合い言葉にできない感情が波のように押し寄せて心が潰されそうになっていた、その時である。
後方からゴウッと突風のようなのが起きたと思いきや、その瞬間凄まじい衝撃が後から続き、地面が化け物ごと大きく抉れたのだ。
突然の出来事で急激に力を失い沈む化け物の身体。僕は一体何が起こったのかと周囲を見渡してみる。
すると、
横に大きな剣を握りしめた女の子が立っていたのであった。