プロローグ
「いらっしゃいませー」
自動ドアが開くと同時に反射的に声を出す。このコンビニでバイトを始めて半年になる。最初の頃は戸惑っていたが、だんだんと慣れてきた。
「川島君はよく働くね〜感心感心」
僕に話しかけてきたのは、このコンビニの店長の秋本さんだ。まだ高校生の僕をアルバイトとして雇ってくれた人だ。
「ありがとうございます……頑張ります」
「そんなに緊張しなくてもいいよ〜、気楽に気楽に〜」 秋本さんはそう言いながら手をせわしなく動かしていた。その手の中には様々な色をブロックごとに分けている立方体のものがあった。
「それって何ですか?」
すると、秋本さんがまるで未確認生物を見るように僕の顔を見た。
「ルービックキューブ知らないの?」
「ルービックキューブ?」
どうやら、秋本さんが持っているカラフルな立方体はルービックキューブと言うらしい。変な名前だ。
「やっぱり川島君は変わってるわ、後でやり方を教えてあげるよ」
秋本さんは笑いながら僕に向かってそう言った。
「ただいま」
バイトを終え家に着いた。誰もいない部屋に僕の声が響く。両親は居ない。父は僕が15歳の時に病死してしまった。母は去年から体の調子が悪くなり今は入院している。 いつものように僕の誕生日に父から貰った置き時計をみると10時を示していた。
「もう10時か……急がないとな」
朝には新聞配達の仕事がある。かなりのハードスケジュールだ。しかし、家族の為には我が儘を言っていられない。
僕はさっさと食事と風呂を済ませると、すぐさまベットに潜り込んだ。
ベットの中で目を閉じて昔のことを思い出していた。
僕は輝いていた。もちろん、金色に光っていたわけではない。ただ、輝いていた。
バスケットボールをゴールに入れる。たったそれだけのことなのに、僕にとっては嬉しかった。ゴールに入れれば仲間が喜んでくれる。そして、みんなが拍手をくれる。
あの頃の僕には翼があった。どこまでも行ける翼が……
目を開けるとなぜか涙が止まらなくなってしまった。
忘れたいと思うほどに鮮明に思い出してしまう。僕は一体どうしたらいいのだろうか。