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余り語られない撮影所のあれこれ  作者: 元東△映助
83/203

余り語られない撮影所のあれこれ(82) ★「SFX(特撮)」その3「光学合成」

★「SFX(特撮)」その3

「光学合成」


●光学合成の中野稔氏

先日、円谷プロの中野稔さんが鬼籍に入られました。

中野稔さんは東宝や円谷の技術者であるだけに、私には接点はありませんでしたが、私が幼少期より数限りなく見てきた特撮作品の多くに「光学撮影」や「光学合成」の御名前でクレジットされていました。

その中野稔さんの「光学合成」は、特撮自主映画を撮っていた私達「アナログ世代」の特撮ファンとしては、ひとつの頂点であり目標でもありました。

今回は、中野稔さんを偲びつつ「光学合成」について語らせて頂こうと思います。


尚、例によって情報のほとんどが約30年前ですw

今となっては変わっていることや、無くなっていることもあります。また、記憶の内容が30年の間に美化されたり劣化してしまっているものも存在しますwwその点をご理解の上、あらかじめご了承下さい。

そして、ここでの意見は、あくまでも個人的な意見です。

東映をはじめとした各社や映像業界の直接的な意見ではありません。その点を予めご理解ご了承下さい。


●光学合成とデジタル合成

現在のデジタル技術下においては、その合成のほとんどをCGやデジタル合成と呼ばれるモノにとって代わられてしまっています。

これらは、以前ご説明しましたが「VFX」に属する技術になります。


これに対してフィルム時代の合成のほとんどが「SFX」であり、「光学合成」と呼ばれているモノでした。

そして、デジタル合成が主流となる前の1980年代後期から1990年代初頭頃という、私が東映に居た時期までぐらいの映画やフィルム撮影での作品における合成は、専らこの手法に依っていました。

そういった意味では、私は丁度「過渡期」に東映に居たのかもしれません。

ですが、現在ではほとんど使われない技術となりました。たまに映像演出上の効果として使用される場合もあるようですが、稀な技術となりました。


●光学合成とは

では、「光学合成」とはどういったモノなのかですが、一言でいえば、「複数のフィルムを光学的に合成する手法」となります。

オプチカル(もしくは、オプティカル)合成とも呼ばれています。

そして、ある意味では以前お話した「ブルーバック合成」や「グリーンバック合成」の基本になるモノとなります。


光学合成には「オプティカルプリンター」という機材が使われます。

本来の「オプティカルプリンター」は、フィルムを別のフィルムにコピーするための機械であり、単純なものであれば、ネガフィルムからポジフィルムを作成する為にも使われています。

この様に、コピー元のフィルムとコピー先のフィルムとがそれぞれ1本ずつの比較的単純な構造のモノが基本です。

それが、「光学合成」に使われる「オプティカルプリンター」になれば、コピー元のフィルムを複数本かける事ができるようにした特殊なものになります。

オーバーラップやワイプなどの基本的な「光学合成」を行うものから、複数の素材マスクを組み込んで合成する複雑なものまで、様々なものが存在しました。


●簡単な例

前提条件として、CGもパソコンによる技術的補助もなく、勿論デジタル画像でもない30年以上前のフィルム映像の時代とします。

そんな時代に「巨大な怪獣が山の向う側に登場する手前に逃げ惑う人々」という状況を撮影しようとすると、「怪獣」を撮影したフィルムと「逃げ惑う人々」を撮影したフィルムを別々のスケール(尺度)で撮影して、その2つのフィルムを重ねてひとつのフィルムに「オプチカル合成」することが必要となります。

しかし、そのまま「オプチカル合成」してしまっては「只の二重露光」されたダブった映像にしかなりません。

そこで、「マスク」というモノが必要になります。「マスク」は、「マスキング」つまり「覆い隠す」の略称でもあります。

因みに、「マスク」を施す事を「マスクを切る」と呼びます。この時には「マスキングを切る」とは呼んではいませんでした。

「怪獣」の映像の怪獣部分だけを残して山の稜線から下を黒く覆い隠した「マスク」を「怪獣」の映像と同時に撮影し、「マスク」によってフィルムが感光していない部分のあるフィルムを作ります。

そして、「怪獣」のフィルムとは別に「逃げ惑う人々」が撮影されたフィルムの中で、山の稜線より上を黒く覆い隠した「マスク」と「逃げ惑う人々」の映像を同時に撮影し、先程の「マスクによって山の稜線より下が黒い怪獣の映像」とは逆の「マスクによって山の稜線より上が黒い逃げ惑う人々の映像」をつくります。

その2種類の映像を「オプチカル合成」にかけて同時に撮影すると、ひとつのフィルムの中に「怪獣から逃げ惑う人々」の映像ができあがるのです。


●プロの仕事

実は、上記の様な「マスクによるオプチカル合成」は、映像の構図自体が動かないのならば、学生の自主制作映画でも作成が可能な技術なのです。

40年近く前の8ミリカメラによる自主制作映画でも、技術力のあるアマチュアや大学生はおろか、高校生でも「マスクによるオプチカル合成」は行われていました。

但し、固定されたカメラアングルである場合は比較的簡単なのですが、カメラアングル=映像の構図が動いたり、マスクの数が多くなったり、マスクの境目が複雑な形であればあるほど難易度は爆発的に跳ね上がります。


更に要求される合成の方法が複雑なものになればなるほど、コピー元になるフィルムとマスクのフィルムの本数はどんどんと増えて行きます。

安定した合成を行うためには、オプチカルプリンターを含む機械そのものの操作にもきわめて高い精度が求められることになってしまいます。

また、合成の内容によっては合成素材となるフィルムの作り方や撮影の構図は基より、更には構成も異なってしまうために、大変な職人芸が要求されました。


●マスキング作業

フィルムの1秒間のコマ数は24コマです。

この24コマ✕秒数の全てにマスキングが施される事となりますから、マスクの境界線に動きがあれば微妙に異なったマスクを全てのコマに施さなければなりません。

しかも、その境界線のフチに誤差が生じる幅が広くなればなるほど違和感が出てくることになりますから、大変な労力と職人技が要求される訳です。

因みに、合成部分が複数になれば、合成するフィルム本数✕24コマ✕秒数となりますから、作業料も膨大になります。

この多分にアニメーション的な作業が、「光学合成」を支えていたのです。

そんな事を考えると、フィルム時代の「光学合成」の費用が高くなるのは仕方ないと思ってしまいますw


●マスクは続くよ今までも

「ブルーバック合成」も「グリーンバック合成」にもこの「マスク作業」は存在します。

但し、背景をブルーやグリーンの1色にする事でバックになっている1色を消して透明化する事で、マスクが切れた状態になるのです。

マスクを切る作業が格段に楽になりますが、境界線にチラつきが出てしまう場合もありました。


さて、現在の「デジタル合成」でも「マスクを切る」作業は存在します。

「ブルーバック」でも「グリーンバック」でもない、普通の映像の一部分にマスクを切って合成を施す場合などでは、手作業で「マスクを切る」場合もあるのです。

まぁ、この場合はデジタルですからコンピューターの画面上でマウスを使っての手作業という事になりますがw


●あとがき

レーザー光線やスペシウム光線をはじめとする必殺光線や、バルタン星人の二重三重の露光による分身表現。

更には、ネガ反転や映像の歪みを利用しての未知の映像表現やミニマム化や巨大化の映像表現としても「光学合成」は利用されました。

つまりは、「非現実の視覚体験を視覚化させる為には不可欠な映像表現方法」と言っても過言ではないでしょう。


特に円谷プロや東宝の映像作品に多用されましたが、東映では出来る限り「光学合成」に頼る事の少ない映像創りをしてきた感覚があります。

そう言った意味では、東映は「光学合成」に関しては遅れを取っていたのか、もっと「泥臭く手作業な低予算の特殊撮影」をしようとしていたのかもしれません。


何にせよ、現在となっての「光学合成」は、ほとんどが使用されなくなってしまっています。

しかし、その「光学合成」の基礎が土台となって存在するからこそ、現在のVFXの合成技術がよりリアルさを増す方向に進化し、活用され続けていられるのではないかと思ってしまいます。


改めて偉大なる先人である「中野稔」氏の業績に驚愕すると共に、先達としての尊敬の念をお送りさせて頂きます。

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