余り語られない撮影所のあれこれ(63) 「撮影部」
★「撮影部」
●最初に
先日、スーパー戦隊シリーズをはじめ平成仮面ライダーシリーズ等の東映の特撮作品で長年キャメラマンを務めていらっしゃった「いのくままさお」さんが鬼籍に入られました。
私はお仕事を御一緒させて頂いたことはありませんが、撮影所の所内ではお顔は拝見していましたし、ご挨拶程度は交わしていました。ご冥福をお祈り申し上げると共に、いのくまさんがいらっしゃった「撮影部」という場所を掘り下げてみたいと思います。
実は以前から「撮影部」のことを語りたかったのですが、私にそこまで語れる部署かどうかが心配で二の足を踏んでしまっていました。
でも、そんなことを云っていたら「衣装部」さんのことだって「結髪」さんや「メイク」さんのことだって、私が語るには荷が重かったことだった訳なので、今回もお叱りや訂正覚悟で語ってみようと思いますw
尚、例によって情報のほとんどが30年前ですw
今となっては変わっていることや、無くなっていることもあります。また、記憶の内容が30年の間に美化されたり劣化してしまっているものも存在しますwwその点をご理解の上、あらかじめご了承下さい。
●必要不可欠な部署
どんな映像作品においても最低でも「キャメラマン」がいなければ撮影自体ができません。
「キャメラマン」がいなければ、そもそも映像自体が記録されず、映像作品としても成立しません。
映像媒体が16ミリフィルムだろうが、32ミリフィルムだろうが、フィルムからデジタルに変わろうがハイビジョンや4Kに変わろうが撮影機材が変わったことによる機材の取り扱いが多少変わるだけで、撮影の基礎は変わりません。
最低限の単位での撮影チームは、インサート用の景観等を撮影するというチームでカメラとキャメラマンが居ればなんとかなるのです。もう、チームとは呼べない最低単位ですw
そこには、演出部はおろか記録も付き添う必要も皆無なのです。
●カメラマンとキャメラマン
通常業界内では「カメラマン」と「キャメラマン」の呼び方は使い分けられています。
写真等の静止画を撮影するのが「カメラマン」で、動画等の映像を撮影するのが「キャメラマン」です。
分かりにくくなることを避ける為なのですが、それでも言葉に出して呼ぶときも表記の際にも「カメラマン」としてしまう方がいらっしゃいます。
私も「カメラマン」表記がほとんどです。
コレは「キャメラマン」表記と「カメラマン」を使い分けなくても私が書く場合はほとんど「キャメラマン」であることと、読まれる対象が一般の方々なので「キャメラマン」表記にすると間違っていると思われる可能性を考えてのことです。
尚、カメラ自体も本来は、映像を撮る「キャメラ」と静止画を撮る「カメラ」という呼び方が正しいのだと思いますが、この文章で扱うカメラは「キャメラ」のことを指していると固定して「カメラ」と表記させて頂きます。
●撮影部の序列と仕事
○キャメラマン=撮影監督
撮影される作品毎における撮影部のトップは、勿論「キャメラマン」であることは間違いありません。
「キャメラマン」の事を「撮影監督」と称する場合もある程、重要な役職の方なのです。
尚、スタッフテロップでは「撮影」とか「撮影監督」とかと表記されるのが通常です。
また、稀に「○○撮影監督」とか「撮影監督の○○さん」と呼ばれる場合もあるようですが、通常は「○○キャメラマン」や「キャメラマンの○○さん」と呼ばれる場合が一般的です。
基本的には年齢制限は無く、自身と会社の許す限り撮影現場に立つことが可能ですが、どんなに優秀なキャメラマンでも体力的な問題は付きまといます。
しかし、個人的にはどのキャメラマンにも願わくば長く務めて頂きたいと思うモノです。
さてキャメラマンは、現場にはひとりしか居ないのが一般的ですが、演出上や映像効果の点等からカメラがAカメ(=Aキャメ)・Bカメ・Cカメ等と複数セッティングされることが稀にあります。
コレにより一時的ですが複数のキャメラマンが存在する場合がありました。
ほとんどは、撮影助手のチーフカメラマンがBキャメを務めます。それ以上のキャメラマンが必要ならばセカンドキャメラマンの経験によってはCキャメをセカンドキャメラマンが担当しますが、セカンドキャメラマンの経験が浅い場合は臨時で撮影助手が追加されたりもしました。
○チーフキャメラマン=計測=撮影補=撮影助手
キャメラマンの助手のチーフで、既にサブのカメラを回せるだけの力を持っている方がほとんどです。
基本的にはキャメラマンの考えた映像を成立させる為に、照明部と協力して光の当て方などを話し合い「絞り(=明かり)」のコントロールをするのがチーフキャメラマンの仕事で、撮影機材の組み合わせや使い方やセッティングを考え、キャメラマンがカメラのファインダーを覗く前に他の格下の撮影助手を使い現場を仕切ります。
主な仕事としては、カメラのアイリス(=露出)を計測することで、カメラ側に居る格下の撮影助手に光量を伝え絞りを調整します。ですから、「露出計」は必需品で、撮影現場で「露出計」を持っていたり首から下げている人を見たら、ほぼ「チーフキャメラマン」だと思われます。
このことによりスタッフテロップでは「計測」という名称で表示されることもあります。
○セカンドキャメラマン=ピントマン=撮影助手
チーフと同じく撮影助手のひとりで、チーフの下のアシスタントです。
主にフォーカスを担当します。
これは、撮影対象となる被写体との「距離の計測」と「ピントを合わせる」ことを意味します。
また、レンズやフィルターなど機材の管理も仕事となります。
ですから、「巻き尺」と「ブロア」は必需品です。
尚、「セカンドキャメラマン」はピントを合わせる仕事ということから「ピントマン」と呼ばれることもあります。
キャメラマンは、基本的にパン棒=パンバー=パンハンドルを持ってカメラをパン(左右横振り)したりティルト=縦パン(上下縦振り)をしたり、ズームを操作するだけで、ピントには手を出しません。まぁ、ピントにまで手が回りません。
今でこそデジタル化してモニターが付きましたから、フィルム時代にはファインダーを覗くキャメラマン以外には分からなかったフレームサイズやピントの甘さ等が目に見える様になりました。
この事でピントマンもサード助監督も確実に楽になりましたが、フレームサイズやピントの距離感を想像し身をもって知り身体へ覚え込ませていくという修行が、理解しやすくなった反面、身体に反復して覚える人によっては時間がかかる事になりました。
因みにオートフォーカスを使用できるカメラであっても、被写体へのフォーカスが思惑通りにオートセッティングされるとは限りませんので、フォーカスは「ピントマン」のお仕事なのです。
但し、スタッフテロップには「ピントマン」とは表記されません。撮影助手です。
○サードキャメラマン=サードアシスタント=撮影助手
基本的な仕事は、三脚やカメラ、フィルムなど機材の運搬や管理、清掃、チェックなどです。
カメラにフィルムをつめたり、フィルムの管理をする雑用的な扱いも行います。
また、カメラの電源であるバッテリーの残量管理と交換と再充電も大切な仕事です。
デジタルの場合では、デジタル媒体のチェックやカメラから他部署に伸びるケーブルの処理やさばきも行っています。
予算の少ない作品では、サードキャメラマンまでは付かない場合もありました。その場合は、セカンドがサードの仕事までこなしていました。
余談ですが、撮影現場で「サード」と呼ばれるのは「サード助監督」の事の場合がほとんどです。
他の部署にも「サード」のアシスタントさんはいらっしゃいますが、基本的には「サード」呼称はされません。
撮影部の場合も「チーフ=計測」「セカンド=ピントマン」と呼び分けをされますが「キャメラのアシスタント=キャメアシ」で括られる場合もありますから、サードキャメラマンは単に「キャメアシ」と呼ばれる場合の方が多かった様に思われます。
まぁ、いずれにせよ名字や名前やニックネームで呼ばれる事の方が断然多かったですがw
●撮影部のその他のお仕事
基本的な撮影部の仕事としては、画面を造るということになります。
その為には、被写体にあたる照明がカメラに写る光量かどうか?カメラに写るべきでないモノや人は写っていないか?光が反射等によってハレーションを起こしてはいないか?
他の部署と連係してひとつずつ解決していきます。
最初に書いた様に、キャメラマンは「撮影監督」と呼ばれます。それは、画面を創るという場合において演出部の監督と同じよう他のスタッフを指揮して理想の画に仕上げていくという事に他なりません。
ですから、時には被写体である役者さん達にも厳しい声をかけたりします。但し、演出的なモノは演出部の範疇ですから、キャメラマンとしては顔や身体の角度や立ち位置等の画面的な指摘が主になります。
この事で「○○キャメラマンは恐い」と云われる方がいらっしゃったりもするのです。
●海外の撮影部
日本の場合は、撮影部に入ってサードやセカンドからチーフを経てキャメラマンに成ることが目的となります。
キャメラマンへの道は、10年近くを要する場合も多い職人的な技術職です。
しかし、海外では事情が違います。
特にアメリカでは分業とプロフェッショナル化が進み、「計測」はずっと「計測」だし「ピントマン」は何歳になっても「ピントマン」として従事している様で、キャメラマンになる事が目的ではないのだそうです。
キャメラマンにしても、元々は他部署の出身であったり、キャメラマンが最終目的ではなくて監督や他部署への通過点である場合すらあるのです。
あ、他部署も同じようにプロフェッショナルですw
●あとがき
撮影部の面々は、TVシリーズ作品の現場においてはレギュラーとして毎回撮影に参加するスタッフです。
そして、キャメラマンは、撮影毎に変わる監督以上に撮影現場の繋がりをしっかりと監督している正に撮影監督なのです。
それだけに、スタッフにとっても中心的な役割なのがキャメラマンであり、撮影部の面々なのです。
私も撮影部の方々にはご迷惑をかけるやらお世話になるやらと、色々と御厄介になりました。
そんな大好きな方々の事ですから、語り尽くせないことばかりですが、そこは今後の個別のご紹介の時にでも語らせて頂きたいと思います。




