余り語られない撮影所のあれこれ(62) ロケーション場所vol.1「大谷石」
★ロケーション場所vol.1「大谷石」
●ロケ場所
「またひとつロケ場所が無くなる。」
先日、「晴海客船ターミナル」の取り壊しの話を耳にして、最初に思った感想でした。
ロケーション場所=ロケ場所=ロケ地というのは、映画等の映像制作会社等の制作部等が、その作品の趣旨を現地責任者や会社に説明し交渉して、撮影場所としての使用許可を頂いてはじめて撮影が可能になる場所です。
交渉を担当する制作部等にとっても、自分が一から交渉して許可を得て、その撮影場所が長期に渡り使用され、また、自分達の会社だけではなく他社も撮影したいと思い使用許可を得に来る。そんなロケーション場所の発掘が出来ることが楽しみなのだと、とある制作部スタッフは良く口にしていました。
そんな場所が、またひとつ無くなるのです。
今回はそんなロケーション場所に敬意を評し、長年ロケ場所として使用されている中でも「大谷石」を取り上げて語ってみたいと思います。
尚、例によって情報のほとんどが30年前ですw
今となっては変わっていることや、無くなっていることもあります。また、記憶の内容が30年の間に美化されたり劣化してしまっているものも存在しますwwその点をご理解の上、あらかじめご了承下さい。
●大谷石地下採掘場跡
業界のロケ場所として「大谷石」や「大谷」とだけ呼ばれるのが「大谷石地下採掘場跡」です。
住所で言えば「栃木県宇都宮市大谷町909」の「大谷資料館」を中心とする場所となります。
撮影としては、スーパー戦隊、仮面ライダー、メタルヒーロー、等々の東映作品はもとより、ウルトラマンシリーズの円谷作品にも、雨宮監督作品にも多く使用されています。
そんな特撮作品だけでなく、ドラマやミュージックビデオでも数多く使用されています。
その最大の特徴は、洞窟状の内部という状況を自然な施設で撮影出来ることで、更にその規模が巨大だということです。
大谷資料館のある横にぽっかりと開いた坑道の入り口は、撮影用の機材トラックやロケバスがそのまま入って行ける程の余裕があり、坑道入口から緩やかな坂を下がると、地下30メートルに高さ20メートル程の空間が広がります。
横幅も数十メートルに及ぶ場所もあります。
そんな大空間だけではなく、坑道内部は入り組み多種多様な姿を見せる総面積2万平方メートルとも言われる空間が広がります。
ほとんどの石は、採掘の際に厚みのある四角い板状に切り出されますので、地下採掘場跡も基本的に四角い空間になっています。
壁面から天井までは、手堀の際に作られたスジが規則正しく岩肌に刻まれ、足下には細かく砕けた砂状の大谷石が敷き詰められています。
大空間から脇道まで、基本的に一般公開している場所にはライティングが施され、足下用に自分で懐中電灯等の照明を持つ必要などはありません。
場所によっては大きな空間として行き止まり、巨大祭壇が飾られるかの様なスペースが造られていたり、小さな空間で行き止まる場所はThis is洞窟であり、縦坑が掘られた場所は外部の緑が一部見えて、半分開放されている様な異種な空間を生み出しています。
また、地表への開口部から降り注ぐ雨等が作り出した地下の巨大な池や、縦坑に溜まった深さのわからない水溜まり等も異種さを生み出します。
このように、地下採掘場跡の施設内は多種多様な半密閉空間が既に造り出されていて、ライティングによっては異世界空間でも簡単に造り出せる気さえしてしまいます。
尚、坑道内はメチャクチャ寒いです。
外気温が30度近い日でも坑道内は20度以下なので、半袖でなければ汗が出てくるような外から坑道内に入れば、上に羽織るモノが必要になる程です。
しかし、冬場でも坑道内の気温は余り変わらない為に、外気温より少し高い位になり、風の入って来ない奥の方であれば、かえって快適に感じられました。
●大谷石地下採掘場の歴史
1919年の明治時代に、軽くて丈夫で耐火性に優れた「大谷石」を採掘する採掘場として開山しました。
採掘の傍ら空洞が大きくなると、天然の冷蔵庫の様な坑道内の気温から軍や政府の食糧貯蔵庫に使用されたり、第二次世界大戦時代には、地下軍需工場としても使用されていました。
1979年に大谷資料館が開館すると、それまで関係者や軍や政府だけだった出入りが、一般にも開放され、発表会や展示会、映画の撮影等々にも貸し出されるようになりました。
1980年代後半まで採掘されていた大谷石は、安価なコンクリートブロック等に取って代わられてしまいました。
その後は、大谷資料館と共にイベントの会場や撮影場所としての貸し出しにも応じて頂いています。
●撮影条件
大谷石地下採掘場跡での撮影条件なのですが、あくまでも30年前です。今となっては条件が変更されている可能性もあります。
先ずは申請書類が必要で、正式な撮影ならば使用料金もかかります。一般の方のスナップ撮影等は対象外ですが、明らかに撮影だと思われる服、キグルミ、装飾、ポージング等での撮影行為は商業的や非商業的に関わらず使用料金が発生します。
場所がら大きな音がでるモノや爆発は御法度ですが、発砲ギミックや弾着程度ならば使用していました。
坑道内部への機材は勿論、車輌の持ち込みや発電機の使用も可能でした。
入口部分は車高によってクレーン車クラスでも入って行けますし、内部へ入れば天井も高く幅も取れますので、場所によってはクレーン車を使っての撮影も可能だったと思いますが、機材搬入にユニッククレーンを使用している以外、クレーン車を使用しての撮影というのは見たことはありませんでした。
使用場所も交渉によっては一般公開している場所以外でも使用可能ですが、本当に危険な場所には許可は下りませんでした。
そして、一般公開している時間帯でも見学者の予約状況やこちらの撮影場所によっては撮影が許可されました。
●大谷石の裏
大谷石の撮影の場合「裏に回って撮影」と言われることもありました。
実際に大谷資料館の裏手の方に位置しますが、「カネホン採石場」というのが本当の名称で、大谷資料のある大谷石地下採掘場跡とは違う場所です。
大谷石の採掘場の一ヵ所であるのは違いありませんが、また違った様相をしています。
規則正しく四角く採石された場所は切り立った岩の入口付近だけで、奥へ行くと岩のゴロゴロした奥行きの浅い洞窟という感じの場所となります。
こちらの採石場も一般公開されていて、多くの撮影でもロケ場所として使用されています。
更に、こちらの採石場は今でも採石されており、端材の掴み取りや板状にカットされた製品も購入可能だったりします。
●大谷石の思い出
とある作品の時に、大谷地下採掘場跡での撮影が数日間に渡り長期に渡る時がありました。
地下ということもあり、外光が届かない為に撮影時間の時間的制約も無く、夜遅くまで撮影可能がでしたので、撮影所への行き帰り時間と撮影期間の兼ね合いから、大谷資料館の近くに宿泊することになりました。
その際に、泊まったのは旅館でもなかった場所だったように思いますが、この辺りの名物料理だからといって鯉料理を出して頂いて食べた記憶があります。
初めての鯉料理でしたので、今でも鯉料理といえば大谷石の地下採掘場跡がセットで思い出されます。
大谷地下採掘場跡(=大谷石)へは、色々な作品で撮影に伺わせて頂きましたが、その作品毎に違った撮影場所が用意されていたり、同じ場所であっても照明やカメラのアングルによっては、全く違う場所に見えたりするという多彩さ魅力的なロケーション場所でした。
それだけに、私にとっては大好きな撮影場所です。
●あとがき
「大谷石」は、ナパーム爆発やセメント爆発といったハデなことの出来るロケーション場所ではないのですが、これだけ多彩で異空間な画面を作れるロケ場所は他に類が無く、本当に貴重で重要なロケ地です。
一般にも公開している点も良く、また申請すれば有料ですが小規模でも使用させて頂けるのも敷居が低くて良いロケ地と言えるでしょう。
アクセスです。
高速道路では、東北自動車道の鹿沼インターから車で約20分、宇都宮インターから車で約12分。
北関東自動車道の宇都宮/上三川インターから車で約40分、壬生インターから車で約30分。
路線バスでは、JR宇都宮駅西口6番乗場から大谷・立岩行きに乗車し約30分。東武宇都宮駅からは、東武駅前バス停で大谷・立岩行きに乗車し約20分。
資料館入口で下車して徒歩約5分だそうです。
お近くに行かれましたら、是非とも一度異空間を体験下さいw