余り語られない撮影所のあれこれ(53)「制作進行」
★「制作進行」
9月14日は、この「余り語られない撮影所のあれこれ」がアーカイブしているTwitterの「#余り語られない撮影所あるある」に、私が撮影所のことを呟き始めてから丁度一年となるようで、一年間の締めくくりとして「撮影所のあれこれ」らしいモノをということで…
なんていう特別感も何もないのですが、私の撮影所での原点である「制作進行」をお送りしますw
先にお断りしておきますが、アニメーションの制作にも「制作進行」の職業はありますが、仕事内容として根元は同じく「現場をスムーズに進行させる」なのですが、動きが全く違ったモノとなっています。
私はアニメーションの「制作進行」に関しては詳しくはありませんので、実写映像の撮影現場での「制作進行」さん達の仕事内容等をご説明させて頂きます。
尚、例によって情報のほとんどが30年前ですw
今となっては変わっていることや、無くなっていることもあります。また、記憶の内容が30年の間に美化されたり劣化してしまっているものも存在しますwwその点をご理解の上、あらかじめご了承下さい。
●私の原点
私は、京都の芸大の学生中に東映京都撮影所の「制作進行」のアルバイトを1ヶ月程勤めたことがあり、それが私の撮影所での原点でした。
いくら芸大のそれも映像学科で学んでいるとは言え、撮影現場のことなど教わるハズもなくて、そんな中途半端な学生バイトを引き受けてくれたのが「制作進行」という部所(=パート)でした。
●制作部の序列
制作部としては「制作担当」「制作主任」「制作進行」「制作助手」の役職があり、他の撮影部所の序列で言われるチーフ、セカンド、サード等の呼び方ではなく「制作担当」>「制作主任」>「制作進行」>「制作助手」となります。
尚、「制作進行」は単に「進行」とスタッフクレジットされたりしますし、「制作助手」という名前も「制作進行」と同じとされていたり「制作進行」の助手とされていたりするようです。
通常の特撮作品を含めたドラマ撮影の場合は、「制作進行」までしかいないですが、映画等の撮影自体が大変な撮影現場には「制作助手」が入る場合もあります。
通常は「制作部」と呼ばれますが、仕事として説明される際は「制作進行」という呼び方です。
これは「演出部」の仕事で「監督」ではなく「助監督」が仕事名として呼ばれている様なもので、面白い状態です。
尚、「制作担当」の上はアシスタントプロデューサー(=AP)、その上はプロデューサー(=P)となりますが、「制作担当」までは派遣社員扱いで、AP以上が正社員の場合が多いようです。
●制作部の仕事
制作部は、その役職によって仕事内容が違っていますが、基本的には「撮影現場をスムーズに進行させる」ことが責務になっています。
本当の意味での「縁の下の力持ち」的な存在であることには間違いはありません。
○制作担当の仕事
「制作担当」は、現場制作費の管理とその実行、ロケーション場所に関しての監督、制作部全体の指揮、他部署との折衝等が主な仕事となります。
殆ど撮影現場には顔を出しません。
私の記憶では、現場制作費の担当ということから撮影上で必要なモノの購入費用の精算をして貰ったことが、唯一と言ってよいモノです。
尚、「制作担当」は現場制作費の管理・実行の裁量権を持っていますが、天候や出演者のスケジュール、スタッフの登用等の決定権を持たない部分の影響が大きく現場予算に反映されるため、現場制作費に対しては表向きには責任を負わないのが通例のようです。
○制作主任の仕事
「制作主任」は撮影現場の撮影の進行状況の管理を行い、準備段階では「制作担当」と共にロケ地を探すロケハンを担当します。
また、その交渉に当たります。
そして、撮影許可の書類申請も担当します。
「制作主任」も撮影現場に余り顔を出しませんが、それはロケ地の交渉や書類申請の為に飛び回っている為であり、その手の仕事が落ち着いているのであれば、撮影現場にずっと居て「制作進行」を手伝ったりしています。
○制作進行の仕事
「制作進行」の仕事は、本当に多岐にわたります。
「制作進行」は常に撮影現場に居て、撮影対象となる映像部分以外の進行を任されています。
殆どの仕事は、「制作主任」の助手という位置付けですので、仕事には「制作主任」と共同するモノや分担するモノがあります。
ロケ地までの地図を作成し、前日までに「車輌部」さんへ渡します。
「車輌部」は、所謂ロケバスの運転手さんや機材運搬のトラックの運転手さん達です。
スタッフへの撮影スケジュールや所々の連絡(近年はLINEグループでの連絡のようです)、弁当の発注、現場で使用する制作備品であるキャスト達の椅子、ガムテープ、ビニールテープの類、タオル、雑巾、雨具、車止めのパイロン、赤色灯、救急箱、お茶セットなどの購入と管理。
殆ど裏方全般です。
撮影現場によって異なりますが、「制作主任」や「制作進行」が先行してロケ現場まで車輌で行き、撮影車輌と撮影機材の置場所の確保、衣装やメイク場所をはじめキャストの控え室のセッティング、お茶の準備等を行い、後から来るスタッフの誘導を行う場合もあります。
撮影が終われば、その逆の動きをして撤収します。
まあ、少なくとも私の記憶の中にある特撮作品の撮影現場の場合、「制作主任」さんも「制作進行」さんもロケバスで他のスタッフやキャストと一緒に現場入りしていましたw
細かく書けば切りがありません。
ロケ現場近くに飲食店が見込めない、あってもスタッフやキャスト全員を賄いきれないとなると弁当を手配したり、今ではケータリングという方法もある様ですが、その準備をして、弁当の場合はゴミの分別・処理も行います。
昔は、冬のロケ撮影現場では、1日ロケ現場が動かない時等に「豚汁」を作ってくれたりもしていました。
冬の撮影現場に「ガンガン」と言われる一斗缶に孔を開けて薪を燃やす暖房器具をセッティングするのも「制作進行」の仕事でした。
この「ガンガン」が曲者で、撮影中はスタッフやキャストの暖を取るためにも必要ですから、撤収の際もできるだけ火を燃やしておきたいのですが、火を消しただけでは熱が有り過ぎで運ぶこともできません。
水を大量にかけると、薪は消えるのですが、「ガンガン」自体が乾くまで火が燃やしにくくなります。
対応としては、必要以上の数の「ガンガン」をロケ現場に持ち込み、小出しにして使用していました。
●縁の下の力持ち
撮影するキャストをはじめとする被写体自体に直接何らかの影響を与える他のスタッフと違い、その画像に直接関わらない部分を全てサポートする役割なのが「制作進行」なのです。
暑い夏の日のロケ地での撮影の時のジャグにキンキンに冷えた麦茶。
寒い冬の日のロケ地での撮影の時の温かいお茶。
その一杯が有るか無いかは、撮影のモチベーションに大きく関わってきます。
また、ロケセット等はキャストの控え室は当たり前として、使用可能なトイレの場所までリサーチされているので、定番のロケ現場以外では有難い存在です。
「制作進行」または「制作主任」はロケ現場の所有者との交渉も行ってくれるので、「○○は使用可能か?」「○○は撮しても良いのか?」「○○を撮したくないが、移動して貰えないか?」「○○を移動しても良いのか?」等の細かな対応も「制作進行」や「制作主任」に聞くことで答えが返ってきます。
ロケーション現場は「制作主任」や「制作担当」が交渉して撮影をさせて貰っている場所です。撮影スタッフもロケーション現場が撮影にずっと使用して行ければ撮影場所の選択肢が増えることは承知していますから、無茶な事をしてロケ地を減らしたくはありませんので、余計に交渉を「制作部」に委ねるのです。
まあ、ロケ地の担当者が直ぐ側で撮影を見学している場合等は、「これを少し動かしても宜しいですか?」等と直接交渉する場合もありますがww
●あとがき
当時は「制作主任」だった、とある「制作担当」が言っていました。
「俺は、他社が借りたことのあるロケーション先ではなくて、他人が見付けてきたロケ先でもなくて、全く新しいロケ先を見付けたい。何年も定番に使えて他の会社からも『あのロケ地を使いたい』と言われるロケ先が、自分が発掘した場所であれば誇りが出来るから」
素晴らしいことに、彼は自分が見付けたロケ先は、今では定番のロケ現場になっています。
今は現場を去った「制作進行」が言っていました。
「作品は好きだけど、映像製作の知識もない者が、作品の側でその一端に携われる職業が『制作進行』だった」
彼は、「制作進行」の激務に身体を壊してしまいます。
多岐に渡る仕事内容は、絶対に「雑用係」ではありません。
彼らが居てくれるから、撮影現場はスムーズに進行して行くのですから、撮影現場には無くてはならない存在なのです。
そうそう、
「○○さんから○○の差し入れを頂きました!」
これを言うのも「制作進行」だったりしますww