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余り語られない撮影所のあれこれ  作者: 元東△映助
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余り語られない撮影所のあれこれ(36) 「香盤表 」

★「香盤表」


今回は、以前に「撮影スケジュール」の回で一部取り上げた「香盤表」を掘り下げます。


尚、例によって情報のほとんどが30年前ですw

今となっては変わっていることや、無くなっていることもあります。また、記憶の内容が30年の間に美化されたり劣化してしまっているものも存在しますwwその点をご理解の上、あらかじめご了承下さい。


●香盤表とは

「香盤」は、本来「香」を焚く「香道」で使用する碁盤状の香炉のことで、升目状の枠が進行・スケジュール表に類似することから、こう呼ばれています。

ですが、そもそも何故「香盤」表と呼ばれ始めたかは定かではありません。

因みに、映像や演劇関係で呼ばれる以外に「映画館」と「落語」では意味合いが違っています。

「映画館」では、席次表のことを「香盤表」と言います。

「落語」では、落語家の序列を表す表のことを「香盤表」と呼ぶらしいのですが、表には出されていないということです。


撮影所の場合の「香盤表」は、主にチーフ助監督が作成します。

役者のスケジュール、機材のスケジュール、セットのスケジュール、スタッフのスケジュール、撮影のボリューム、天候、小道具や衣装の準備スケジュール、撮影の進行状況……これ以外でもまだまだある調整の必要なことを含めて把握した上で、「香盤表」は作成されます。


そして、撮影所の場合の「香盤表」は、その作品に関わる全スタッフ・キャストに関連し、共有する設計図でもあります。

紙製で作成されるのが本来の香盤表で、昔は撮影の数日前にスタッフ・キャストに配られていました。キャストには所属事務所にFAXをする等して連絡していました。ですが、現在では作品専用LINEグループ等によって全スタッフ・キャストに香盤表を添付して共有している様です。

一瞬で連絡が出来て、基本的に漏れが無い。

便利な世の中になったものですが、年配のスタッフやキャストには新たな機械への挑戦となっているようです。

キャストでマネージャーを持っていらっしゃるような方では、この「香盤表」のLINEは、マネージャーがなさっている場合が多いと思われます。


●香盤表内容

「香盤表」に明確なテンプレートは存在しません。

東映をはじめ各映画制作会社から学生のクラブ活動に至るまで、諸先輩方によって受け継がれてきた表の書き方や記入内容などの違いが千差万別に存在します。

ですから、別に自分のオリジナルの香盤表を作成しても何ら問題はありません。

昔は、枠こそは印刷でしたが、枠内の文字は手書きでした。

それがワープロ書きになり、パソコン書きになり、白黒の単純な印刷物だったものが、カラーで表現されるものすらも現れているようです。


但し、以下の基本記入内容を確認してもらい、スタッフ・キャストに戸惑いが生じない様になっていることが、最低限の条件になります。


☆以下の内容は「香盤表」の一番上に記入されます。


☆日付

撮影日を表します。

年は無く、月日と曜日の記載のみです。


☆組名

監督の名字+組で表されるのが組名です。

同じ作品でも監督名によって区別化をしています。

シリーズものでは、同一作品中に別監督の作品の撮影をすることは、基本的にスタッフが同じな為に、ごく一定期間を除いてありません。


☆作品名

通常は作品名だけですが、シリーズの場合は話数が加わります。


☆集合時刻&場所

ロケ先に出発する際には出発場所と出発時刻。

撮影所内の撮影であれば、撮影開始出来る状態にしてのスタッフとキャストの集合時刻です。


☆天気予報&気温予報&降水確率

撮影場所の気象台発表の天気、気温、降水確率の予報が記入されます。

「香盤表」が数日前~前日に配布される性質上、これらはあくまでも予報であり予想値ですので、書かない場合もあります。


□以下の内容は、基本的には「香盤表」の左側に下へ下へ書き足される様に記載されます。


□シーンナンバー&カットナンバー

撮影するシーンのナンバー。「#S」や「#」だけに数字を記入することでもシーンナンバーを表現します。

シーンナンバーは台本の「柱」と呼ばれる場面名が記載されている上部にある数字に対応しています。

予めカットナンバーが存在する細かい撮影であればカットナンバーも記入されます。

この場合は、シーンナンバーの数字の後にハイフンを付け、その後にカットナンバーの数字を記載していました。


場面(シーンタイトル)

シーンナンバーには各々シーンタイトルとして場面名がありますので、それを記入します。


□撮影開始時刻

撮影する場面毎に、大まかな撮影開始予定時刻が記入されます。

しかし、予定時刻と言ってもあくまでも予想時刻ですから、昼食の予定や撮影終了予定ですらズレ込んだり早くなったりします。

この時刻予想によって現在の撮影がスケジュールから遅れているのか前倒しされているのかをスタッフ・キャストが共有します。

時刻は24時間制で記載されていました。

昔でもほとんどありませんでしたが、25時とか26時とかの時刻が記載されている場合がありました。

これは、その日の撮影スケジュール内の時間だよという表現なのです。

元々ナイターシーン等の撮影では28時や29時とかの数字の表示もありました。


□D/N

Dはデイシーン。昼間のシーンであることを示します。

Nはナイターシーン。夜のシーンであることを示します。

そのシーンの撮影開始予定時刻から考えて、ライトの光量を考えての機材準備や暗幕の準備を考えます。


△以下の内容は、「香盤表」の上部に右へ右へ書き足される様に記載されます。


△キャスト名

役名で記載されます。

同一キャストが他の役を演じる場合もある為に、あえて役名で記載されているのが基本です。

同一役名で複数のキャストが存在する場合は、「◯◯(子役)」といった区別可能な名称で記載されています。


△キャラクター名

ヒーロー番組等ではキャラクターの名前が、キャスト名として並びます。

アップ用のスーツには「◯◯(UP用)」。アクション用のスーツには「◯◯(AC用)」等と記載されています。


△アクション監督&特機スタッフ

通常の撮影では参加しないスタッフが記載させる場合があります。


△エキストラ

エキストラの必要人数が記載されます。


△特殊機材(特機)&車

特殊機材が必要なシーンや車(劇用車両)及び撮影用車両等の通常使用しない機材が記載されます。


△備考

場面によって特別に用意が必要な小道具等の注意事項が記載されています。

欄を別に取って記載している場合もあります。

特殊機材や車等は、備考欄に記載される場合があります。



以上の□内容と△内容の交差する枠に◯印等の印を付けて必要であることを表現します。

エキストラ等のように複数必要になるものは、◯の中に数字を記入します。


●香盤表自体の順番

「香盤表」を作成する際に一番の問題は、キャストのスケジュールとロケ場所のスケジュールと天候です。

「香盤表」自体がスケジュールの塊ですから、他のスケジュールとの交差する場所を模索して作成されます。

その中でも最大の難所は「天候」です。

キャストやロケ場所のスケジュールは調整すればズラすことも可能ですが、自然現象である「天候」だけは交渉も効きませんから、「天候」が最優先されます。


連続ドラマ形式の作品の撮影は、30分作品ならば通常約2週間で2話分を撮影し、1時間作品ならば通常2週間で1話分の撮影をアップさせる撮影スケジュールで進行していました。それ以上撮影に日数をかけると、編集日数等を削ることになります。

ですから、撮影日数を大きく変更させてしまう天気の変動は、大敵です。


「香盤表」を作成するにあたって、ほとんどの場合は撮影所内でのセット撮影が最後の方の日程になっていました。

これは、天気等の自然現象による急なスケジュール変更が出来てしまった場合でも、少なくとも天気に左右されないセット撮影ならば、撮影スケジュールの入れ替えが比較的容易だからなのです。


月間や週間の天気予報は、長期間の撮影スケジュールを組む上での「香盤表」にとっては、最重要な要因です。


「香盤表」を書いたことのない私でも、撮影に大きく関わる天気に関しては、今でも週間天気予報を気にしてしまいますw


●香盤表から読み取ること

「香盤表」は、時間的な撮影スケジュールとしての側面と同時に、準備や用意しなければならない機材や小道具や衣装のチェックリストとしての側面も持っています。

ですから、書かれていない事でも撮影に関して必要最低限なものを読み取ることも要求されます。


例えば、ある役者さんの出番が予定されているならば、衣装は何を着ているのか?靴は?持ち物は?と、関連される準備物を読み取らなければなりません。

エキストラの警官隊10名と記載されているならば、その衣装や持ち物も準備物となりますが、そんなことは「香盤表」には記載されていません。


撮影に入る前には、台本に書かれている中で準備しなければいけないものは、チェックされて準備されています。

衣装さんなら出演者の服装。

小道具さんは持ち物の数量や看板製作等。

大道具さんならば背景の演出の為の装置や装飾品等。

これら台本から読み取れることは、既に打ち合わせ等で終わっていますから、「香盤表」が出て来て始めて用意しなければならなくなったモノなどは無いハズです。

にもかかわらず、前記した様に通常と違う準備物が必要な場合は、あえて「香盤表」の備考欄に記載すること等で注意を促しているのです。


●差し替え

野外でのロケーション撮影にも関わらず、天気予報でも表示していなかった急な雨。

こんな場合でも撮影内容自体を急遽変更して撮影スケジュールを消化するのが通常です。

その際「香盤表」も差し替えられます。

この差し替え撮影の「香盤表」が一番難しいのです。

本日出演予定の役者さんで、どこまで撮影できるのか?急遽で役者は呼べるのか?準備物は差し替えても全て整うのか?

雨の日用に事前準備されていた「香盤表」の内容を再検討して、差し替えられます。


毎年の事とはいえ、台風シーズンや雪のシーズンなんて、チーフ助監督と製作部は頭が痛いかもしれませんw

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