余り語られない撮影所のあれこれ(31) 「特撮以外の撮影現場」vol.1 海外ロケの撮影現場
★「特撮以外の撮影現場」vol.1 海外ロケの撮影現場
新型コロナウィルスの影響下の世界。
日本全国に緊急事態宣言が発令され、引きこもり必至の社会です。
他府県への移動自粛が叫ばれ、海外旅行なんて自粛の渦中。
だからこそ今回は、今まで特撮作品ばかりであったので、私が特撮作品以外で関わった映像作品の世界を紹介しようと思います。
まずは、特撮作品では余りみかけない「海外ロケ」から。
尚、例によって情報のほとんどが30年前ですw
今となっては変わっていることや、無くなっていることもあります。また、記憶の内容が30年の間に美化されたり劣化してしまっているものも存在しますwwその点をご理解の上、あらかじめご了承下さい。
●パスポート
撮影隊とはいえ一般人ですから、国外に出る時にはパスポートが必要です。
西村京太郎トラベルミステリーシリーズの撮影準備に入っていた私は、スタッフルームに斡旋会社の社長の訪問を受け「パスポート持っているか?」という質問に「持っていますよ」と答えてしまい「パスポート持ってこい。明日から別の組に移動」と言われて、撮影準備だった作品から引きずり降ろされてしまいましたw
そうです。私が全編海外ロケの作品のスタッフに選ばれたのは、このパスポートを持っていたからという一点でしたww
作品データ:
土曜ワイド劇場「特別企画 国境の女 バシー海峡連続殺人事件 台湾-東京-飯坂温泉、亡夫の足跡をたどるといつも女の影…」
1991年10月12日放送
主演「浅野ゆう子」さん。
監督「池広一夫」
台湾ロケ以外の撮影もありましたが、今回は台湾ロケオンリーでお話します。
●高雄
台湾ロケは、高雄国際空港に降り立ったことから始まり、台南~台北へと北上して行きました。
高雄での撮影は数日を費やしましたが、セット撮影は無いので、オールロケとロケセットでの撮影でした。
つまり、ロケ地での撮影と借り物の建物での撮影ということです。
この撮影で一番驚いたことは、警察署をロケセットで借りられた事。
本物の警察署の入口付近と表を私用しての撮影が、地元警察署公認で可能でした。
更に、この警察署の目の前で公道を塞いでの撮影もさせて貰えました。
更に更に、パトカーは本物を使用し、走らせても頂けました。
地元の撮影コーディネーターさんの手腕かもしれませんが、日本では考えられないロケセットでした。
●台湾の撮影コーディネーター
地元の撮影コーディネーターは年配の男性で、日本語は勿論、台湾語・中国語・英語も話せる人でした。
確か日本人だったと思います。
通訳だけという訳ではなくて、撮影の為の現地ロケ先との交渉からエキストラを含めた俳優さん達の手配、更に細かな事ではロケバスの手配までも行ってくれて、台湾での撮影がスムーズに行くように準備し、撮影中はずっと付き添って頂ける方でした。
日本における制作主任・制作進行のような仕事をしながら、現地俳優さんのマネージャー的なこともこなしていたことになります。
撮影現場の事を良く理解されている方で、日本と台湾の撮影の仕方の違いまで心得ていました。
例えば、台湾の撮影でもカチンコはカメラ前でシーンナンバーなどを撮影するのは日本と同じなのですが、全て欧米式だそうで同時録音といえどもカチンコはカメラ前で叩いて直ぐに引っ込めるなんてことはしないそうです。
ですから、台湾の俳優さんの出るシーンで、俳優さんのアップの時等は、カメラの回った直後に俳優さんの顔前でカチンコを鳴らすと、慣れていない俳優さんはビックリしてお芝居に差し支える為に、ケツボールド(尻ボールド、ケツカッチン、尻カッチン)と呼ばれるお芝居が終わりカットの声も出た直後にカチンコをカメラ前で叩くという方法にしていました。
このコーディネーターさんも忙しい方なのですが、そのコーディネーターさんが「サード助監督の方がもっと忙しいですね」と言っていましたが、コーディネーターさんみたいに一人で何でもはこなせませんww
でも、本当に私のことを心配して頂いたのか、撮影中でコーディネーターさん自身が暇な時は、フォース助監督か?という感じで動いてくれていましたから有り難かったです。
●ホテル
ロケ中は、ホテルで滞在か車での移動でした。
ホテルで泊まる際は、スタッフもキャストも同じホテルでした。
打ち合わせや連絡もし易く、翌日の出発時にも確認がし易い為なのです。
高雄のホテルを拠点にして台南市にまで撮影をするためにロケバス移動をしたこともありました。
基本的には、この高雄と台北市のホテルしか覚えていないくらいですw
高雄では、主演の浅野ゆう子さんだけが高級ホテルに宿泊されました。
別に特別扱いではなくて、ホテルのオーナーが浅野さんのファンで招待されてのことでした。
スタッフやキャスト全員が甘える訳にもいかず、地元撮影コーディネーターの用意してもらったホテル側にも悪いので、浅野さんにだけ宿泊して頂きました。
それでも、ホテルオーナーはスタッフとキャストを全員招待して中華式のディナーを振る舞ってくれました。
台北市のホテルは台湾最後の夜で、飛行機の時間合わせの為の一泊だけでしたが、高級ホテルでの宿泊でした。
まあ、自由時間を昼過ぎから頂けましたから、台北の街を散策する方が長かったですが…w
●撮影隊の自由時間
夕飯は宿泊先でも出来るのですが、高雄の夜の屋台に出かけるのが若手のスタッフやキャストの間で流行りました。
もつ煮込みの屋台で食べて飲むのが定番でした。
通訳さんが同行している訳ではないので、漢字を見て判断したつもりで注文していました。
このように海外でも国内でもロケ先では、撮影が終わり翌日の準備や打ち合わせが終わっていれば、特別な事がなければ自由時間でしたから、その時間だけは旅行気分でしたw
お土産も買いましたし、台湾のマクドナルドでさつまいものポテトを買ったりもしました。
宿泊してのロケでの楽しみでした。
こんな生活の上にほぼ同じ顔触れで、更にロケバスで移動中も一緒ですから、短い撮影期間にも関わらずキャストとスタッフは仲良くなる方も多く居てました。
●台湾の有名俳優さんの接待
地元台湾の役者さんもご出演されていました。
私は知らなかったのですが、台湾では超有名な俳優さんらしく、撮影中も地元の一般人に手を降って声をかけられていました。
その有名俳優が「理髪店へ行こう!」と助監督3人を誘って来ました。セカンド助監督と私が応じたのですが「何故に理髪店?」と思っていると、セカンド助監督が「台湾の理髪店は、アノ手の店と聞いたことがある」と耳打ちしてきました。
事実、台湾の理髪店には2種類あって、ひとつは真っ当な理髪店で、もうひとつは男性に特別サービスをする理髪店なのです。
しかし、この時には知識のない私達は、台湾の俳優さんから一度引き受けた接待を断った後を考えると心配で断れず、恐る恐る着いていきました。
とても綺麗で豪華な理髪店でした。
有名俳優さんは、女性店員さんしか居ない店で全員にキャーキャー言われて握手三昧。
不安な私達二人を置いて帰って行きました。
え?と思う二人を椅子に座らせ、余り伸びてもいない髪を軽くカットしセット。そして、2階の別の椅子へ。
こちらは言葉も分からずドキドキでした。
椅子に座らされ、シートを倒し、手先をマッサージして爪を整える。靴も脱がされ、足をマッサージ。肩もマッサージ。
と、これでおしまい。
真っ当な理髪店でしたww
台湾の高級理髪店では理容だけではなくて、爪切りからネイルアート、マニキュア、ペディキュアもマッサージもサービスの一環らしいです。
お代を支払おうとすると、ノーマネー。
俳優さんの顔で無料でした。
その俳優さんの人気の程を見せつけられましたw
俳優さんのおごり…かもしれませんが、言葉が分からないので聞き出せませんでしたww
●観光地
せっかくの海外撮影ですから観光地を巡らない訳にはいきません。
観光地をバックにしての撮影は、ロケ撮影の基本です。
でなければ何の為のロケなのか?になってしまいます。
但し、ロケ日数には限りがあり天気に恵まれないこともあります。まあ、誤魔化して撮影するのですが…
私達スタッフも観光地を訪れ、撮影に最適な綺麗な風景を眺めると観光客気分に成れますが、そこは仕事優先、撮影優先ですから写真を撮ったりはできませんが、役得には代わりありませんw
今でも思い出す台湾でのロケ先は、ロケセットで使用させて頂いた別荘と、「蓮池潭」「龍虎塔」と広大な養鰻場と直線の長い広野の道路ですねw
全て30年近い前の話なので、現在では違っているであろうと思われる台湾だし、撮影のやり方自体が変わっていたり、警察署をロケセットで借りるなんて出来なくなっているかもしれませんが、全てが変わっているとは思いません。
ロケ撮影のやり方自体は、余り変わっていないようですから。