余り語られない撮影所のあれこれ(29) 東映京都撮影所と太秦映画村vol.1
★東映京都撮影所と太秦映画村vol.1
この間、NHKBSプレミアムで以前放送された「スローな武士にしてくれ~京都撮影所ラプソディー~」が、地上波初放送として1年振りに再放送されました。
私の最初の撮影に携わった仕事が京都撮影所からでしたので、懐かしい京都撮影所の近年の様子を垣間見られて、嬉しい限りでした。
今回は、東映東京撮影所とは違った世界である東映京都撮影所(東映太秦撮影所)をご紹介しようと思います。
尚、例によって情報のほとんどが30年前ですw
今となっては変わっていることや、無くなっていることもあります。また、記憶の内容が30年の間に美化されたり劣化してしまっているものも存在しますwwその点をご理解の上、あらかじめご了承下さい。
●東映太秦映画村
まずは、一般の方に馴染みのある場所からです。
東映の中でも唯一、一般の方々がアミューズメント感覚で撮影所の世界に入れる施設です。
30年程昔には、東京撮影所でもシネファンタジーという名前で年に1度ですが撮影所を解放していましたが、それも数年で終了してしまいましたから、一般の方々に解放している場所としては東映では唯一と言えるでしょう。
昔から関西や中四国、九州等からの京都を含む場合の修学旅行での定番の施設とも言えます。
さて、映画村は江戸時代の町並みが再現されていますが、外観だけの町並みがほとんどです。
但し、所々に屋内まで再現されている箇所があり、椅子や机が無造作に置かれ、畳の部屋なんかもあります。この屋内の様子は、通常に江戸村に遊びに行っただけではなかなか見ることは出来ません。ロケセットとして使用する時にしか戸も開け放たれませんし、その際には装飾さんが飾りつける上に一般人にはチラッと見られれば良い方です。
前記したように、映画村の一部の場所は京都撮影所のロケセットとして使用されます。
と、いうよりもロケセットを一般公開している施設なのですから当たり前ですよねw
ですので、運が良ければ撮影に出くわすことがあります。
ということは、有名俳優さんの撮影に遭遇する可能性もあります。しかし、撮影に遭遇しても有名俳優さんが居るとは限りませんw
因みに、撮影に遭遇した場合だけに見られる「撮影中、お静かに」扇子というものがあります。
アルバイトが手にする扇子で、両面に「撮影中、お静かに」と印刷されています。同時録音の撮影中に、アルバイトが開いたこの扇子を頭上にかがげて「カット!」の声がするまでお客さんに注意を促します。
まあ、今でもやっているのかは確認していませんww
そして、撮影中にはトラロープが張られて一般人の往来が制限されます。このトラロープも、セットの建物の角にトラロープを張る為の金具が用意されているので、そこにトラロープの端のフックを引っ掛けて使用します。
このトラロープを張るのもアルバイトの仕事でした。
●特撮作品と映画村
同じ東映ということで、東京撮影所で撮影されている特撮作品の展示物が置かれているスペースなんかもあります。
東映アニメーションの展示物スペースもあります。
これらは、30年程前には本当に小さなスペースでしたが、今は大きくなって子供の集客の一躍を担っています。
「仮面ライダー」も「スーパー戦隊」も映画村で撮影された回や劇場版も存在します。
しかし、東京から近いこともあり、旅費と使用料金を比べても「日光江戸村」を使用する場合が多いのが現状です。
ですが、時代劇用のロケセットだけではなくて、時代劇用の建て込みセット(セット内セット)での撮影も必要であれば、京都撮影所に行った方がコスト的にもお安く済む場合もあります。
最近では「仮面ライダー電王」の「イマジン」が京都市内を歩いたり、映画村や京都撮影所の中に入って行ったりという「内部コラボ」とでも言える展開で、特撮作品と時代劇世界の映画村や京都の町並みとイマジンというギャップを楽しむ企画も進行しましたw
数十年前には、「仮面の忍者赤影」や「変身忍者嵐」といった東映製作の時代劇をベースにした特撮ヒーロー作品が多く作られていましたが、今ではそんなヒーローの設定はおろか特撮作品ですらも時代劇設定になるのは特別編とか劇場版とかといった特殊な場合ぐらいです。
時代劇設定には予算がかかるというのがネックで、事実、東映であっても京都撮影所で撮影された「特撮時代劇」は「仮面の忍者赤影」ぐらいですから…
●東映京都撮影所のセット
東映京都撮影所は、言わずと知れた時代劇を中心に撮影している撮影所です。
セットとしての建屋は全部で11棟あります。
セットナンバーは造られた順番で、取り壊されたりすると欠番になります。これは、東京撮影所のセットナンバーに関しても同じです。
京都撮影所のセットは、セットナンバー1(No.1)とナンバー12(No.12)が欠番で、No.2~No.13までがあります。
No.1のセットは、映画「蒲田行進曲」の「階段落ち」で使用された巨大な階段を建て込むことの出来たセットで、天井も高く面積も広いセットでした。
現在ではロケバス等が何台も駐車する広い駐車場となっています。
余談ですが、「蒲田行進曲」の主人公のヤスさんのモデルとなったのは、本当に階段落ちをした当時の大部屋俳優さんであった「汐路章」さんだと言われています。汐路さんは時代劇やヤクザ物をはじめ、特撮作品でも多くの悪役幹部を演じられています。映画「蒲田行進曲」にも、主人公にアクションエキストラの役を上乗せ値段で渡した配役担当の山田役でカメオ出演をされています。
セット内には、既に建築物(これもセットと言われます。セット内セットです。本来は、セットとは既に撮影の為にセッティングされているモノを指しますから、建屋も建屋内部もセットと呼称します。建屋はナンバー◯◯、セット内セットは◯◯のセットと呼ばれます)が建て込まれているものと全く建て込みの無いものがあります。
既に建築物があるセットは、旅籠や武家屋敷等と称されるシーン毎に少し手を加える等をしてから使用される定番セットです。
全作品が共有して使用します。
東京撮影所でも「秘密基地」の建て込みや「刑事部屋」等の年間通して使用されるセット
●特殊な世界
現代劇が中心の東京撮影所と違い、京都撮影所の所内を歩くキャストのほとんどが髷を結った鬘を被っています。
「羽二重」と呼ばれる前髪や額の隠し布を被り、その上から髷の鬘を被り、羽二重と額の間を「ドーラン」と呼ばれる肌色のファンデーションで隠します。
まあ、時代劇ですから髷や帯刀等は当然なのですが、それだけに東京撮影所には無い特殊な場所や施設がいくつも存在します。
◯俳優会館
俳優会館と呼ばれる施設があります。
この建物の中には、俳優さん達を現代からタイムスリップさせる為の多くの施設が入っています。
時代劇版のヘアメイクさんである「結髪」さんに羽二重や鬘をのせてもらう結髪部屋。
羽織袴から着流しや褌まで揃う衣装部屋。
殺陣の稽古をする道場部屋。
大御所俳優さん達の専用部屋(出番の無い時でも他者には貸出されない専用個室)。
俳優部屋(中堅俳優さんの為のその都度毎の部屋)。
大部屋(切られ役の方々やエキストラの方達の部屋)。
◯大食堂及び喫茶スペース
時代劇の扮装、特に髷の鬘を頭にのせたままで飲食をする為に所外に出ていくことは基本的には無いので(撮影所の門の外にある理解ある喫茶店に出向く方もいますw)、食堂が東京撮影所に比べて極端に大きく、喫茶スペースも十分に確保されています。
ここで弁当を食べる方もいらっしゃいます。
更に、髷にTシャツにジーンズでモーニングセットを食べている方もいらっしゃいます。
まあ、大食堂や喫茶スペースを使用せずに出前を取って俳優会館内の部屋で食べる方もいらっしゃいます。
◯装飾倉庫
時代劇の装飾は、特撮作品に近い特殊性をもっています。
ヒーローのマスクやスーツといった作品固有の装飾品が存在して、他の現代劇との間に装飾品としての差が生まれている特撮作品と同様に、時代劇では現代劇では使う機会が極端に稀な装飾品が多数存在します。
特撮作品との違いは、他の番組でも同じ特殊装飾品を使い回せるという点でしょう。
あまりにも現代劇との違いがある装飾品が多い為に、倉庫も巨大になっています。
特に刀は、そんな特殊装飾の中でも時代劇を代表する装飾品です。
刀には大別して「竹光」「ジュラ刀」「本身」があります。
「竹光」は、竹等にアルミ箔を貼り付けて造られた模造刀です。ほとんどの撮影用の刀はこの竹光です。殺陣にも使用されますが、激しい立ち回りでは竹光が折れてしまう場合もあります。中には鞘から抜けないモノもあったりします。
「ジュラ刀」はジュラルミン刀の略で、文字通りジュラルミンの削り出しによる刀です。本物の刀より多少は軽く、刃も付いていませんが本物に負けない見た目ですので、刀がアップで映る場合等に使用されます。殺陣のシーンにも使用され、簡単には曲がったり折れたりはしませんが、金属製のモノを振り回すのですから竹光よりも注意が必要です。
「本身」は、本物の刃の付いた刀です。超アップやポスター撮影用等に使用されたり、本物の刀の切れ味を撮影しなければならないシーン等に使用されます。基本的には殺陣には使用されません。普段は厳重に管理されています。
これらのメンテナンスも装飾(小道具)さんの仕事です。
そういった意味では、現在では使われなくなってしまった道具の使用方法やメンテナンスの仕方も熟知していなければならないのは大変だと言えます。
まだまだ時代劇の撮影に関しての特殊性もあるのですが、長くなって来ましたので、次回以降に持ち越させて頂きます。