余り語られない撮影所のあれこれ(28) 特撮シリーズの撮影現場 vol.4「メタルヒーローシリーズ」その3「キャスト達の第1話」
★特撮シリーズの撮影現場 vol.4
「メタルヒーローシリーズ」
その3
「キャスト達の第1話」
今回も前回に引き継き「メタルヒーローシリーズ」の撮影現場に関して掘り下げてみようと思います。
尚、例によって情報のほとんどが30年前ですw
今となっては変わっていることや、無くなっていることもあります。また、記憶の内容が30年の間に美化されたり劣化してしまっているものも存在しますwwその点をご理解の上、あらかじめご了承下さい。
●特撮作品の芝居
特撮作品の芝居は舞台の演劇や時代劇に似ていると、とあるキャストに言われたことがありました。
舞台の演劇のように大袈裟ともいえる大きな芝居が求められ、時代劇の見栄切りのような様式美ともいえる芝居も求められる。
子供達にも分かりやすい感情表現を考えると、芝居も大袈裟になりますし、普段の芝居ではしないようなポーズやアクションすら求められます。
ある意味、特殊な芝居の現場といえるでしょう。
●新人
特撮シリーズの主役に抜擢される俳優は、オーディションによる場合が大半です。
勿論、助監督のペーペーであった私などは、いつ頃オーディションが行われていて、誰が主役になったのかというような情報は伝わってくる訳もありませんでしたから、現場で紹介されて初めて「この人が主役なのかぁ…で、脇役とヒロインと長官役ね…」といった感覚で役者さんの上から下までをマジマジと見ていた訳ですw
私の携わった作品の中(メタルヒーローシリーズ以外を合わせても)で、全くの新人という主役は居ませんでしたが、主役ははじめてとか、役者ははじめてという方はいらっしゃいました。
しかし、脇役やヒロインには新人がいたのは確かです。
そんなキャストの方々の指導は、演出ということですから通常は監督が担当するのですが、監督は2話毎に交代していきますので、所作や表情といった指導は、スタッフとしてはカメラマンになってしまいます。
新人のキャストが、後日「怖かった」と語るのが一部の監督とカメラマンという由縁ですw
そして、役に関しての相談役が長官役(と、勝手に呼んでいますが)の大御所や役者経験が豊富な方々となります。
新人の役者の多くは、目線の位置や身体の向き、立ち位置、空いている手の扱い等に無頓着で、指摘されてもどうしたものか困るもののようで、意識すればするほどに深みにハマってしまいます。
これは、普段ならば意識せずに行っている目線や身体の向きや手の位置では映像的に「それらしく」見えないということが原因になっているのです。
芝居の上では間違っていません。
例えば、普通に人が向き合えば相手の目を見て話すのが当たり前ですが、カメラの位置やカメラサイズ等によっては、まともな目よりもずらした場所に目線を持っていった方が、まともに目を見つめている様に写ります。
つまり、「らしく」写る為にあえて「嘘」をつき、映像的に「本当」にみせる方法があり、それを意識して芝居が出来るのかどうかが映像の役者としての新人かどうかの分岐点になります。
新人ですから、多くの方々から注意を受けます。
そして、主役や脇役に限らずに役を演じるプレッシャーもあります。
にもかかわらず悩む時間はほとんど無くて、時間に急かされる様に撮影は日々のスケジュールを消化して行きます。
その芝居に納得しているか否かなど関係なく…
そこで、他の役者や監督に対してどんな形にせよ相談ができるかどうかが、今後役者として成長するかどうかのもうひとつの分岐点でもあります。
セリフのある1年間続くレギュラー役を勝ち取った。
でも将来に対する不安が山ほどある。それが新人です。
しかし、希望の大きさも不安を上回る程なのも新人ですw
スタッフとしては、原石を見ている様で、どう磨かれて行くのかが楽しみなのです。宝石の原石かどうかもあります。役者という宝石ではなくて、他の職業のレアメタルであることもあるのですからww
●アクション俳優とスーツアクター
アクション俳優とスーツアクターさんは、文字通りキャストです。
アクション俳優の多くとスーツアクターさんは、JAC(現在のJAE)のメンバーでした。レッドアクションチーム等の方々も参加されていましたが、私には誰がどこの所属なんて分かりませんでしたから、アクションやスーツアクターは全て「JACさん」と思い込んでいましたw
顔が出るかどうかは別として、レギュラーキャストであるにもかかわらず、他のキャストの様に毎年変わってしまう訳ではなくて、毎年同じようなメンバーが次の作品にも参加してきますから、キャストであるにもかかわらずスタッフ的な親密感があるのも確かでした。
アクション俳優やスーツアクターさんにも主役や脇役はあります。
メインヒーローを演じるスーツアクターさんは、顔は出ないにしても主役の分身ですから、責任もありますが花形でもあります。
但し、スーツアクターの場合、いきなり新人が主役をつとめることはありません。
作品のイメージやアクションの質を考えて、アクション監督がスーツアクターの配役を決めるのですが、ベテランに成る程に芝居に安心感は出ますが、体力やアクションのキレが反比例して行くのも事実であり不安点でもあるのです。
但し、私の居た時代以前から主役スーツアクターさんが、まだまだ現役でテロップされている方もいらっしゃいます。当時はまだまだ新人だった方々がレギュラーヒーローやレギュラーの悪役を演じられています。
そんな長期レギュラーキャストである彼らも、新番組の時には会社員の春の人事異動のように、部署異動や配役異動、そして退社といった方もいらっしゃいました。悲喜交々でした。
尚、JACさんの新人達は、アクションの補助やスーツや面の装着補助が主な仕事となります。
そこから戦闘員役を勝ち取り、更にアクションの質を見られて上の役へ登って行きます。順調ならば…
●設定
第1話の配役が決まると、顔出しキャストやスーツアクターさんに限らず自分のキャラクターの設定を役に反映させる為に苦労をします。
スーツアクターさん達は本来の顔を見知っているので、御本人の名前で呼ばれる場合が大半ですが、マスクをつけると役名で呼ばれる時もあります。
顔出しのレギュラーキャストは、当初から役名で呼ばれる場合が多く、慣れてくると御本人の役者名で呼ばれたり、愛称がつけられたりします。
でも、芝居の最中は役名で呼び会うのが普通でした。
特撮作品は、特殊な単語が飛び交います。
それが覚えたての第1話では大変です。
普段の生活では聞かない話さない単語を覚えて、発音しにくい特殊固有名詞を噛まずに発声するのは、大御所さんも否大御所さんだからこそ難題でしたw
●大御所
大御所や中堅処の俳優さんが、メタルヒーローシリーズにも多くレギュラー出演されています。
新人や役者経験の少ないキャストの多い撮影現場なだけに、その存在は貴重です。
経験値不足のキャスト陣に方向性を与えてくれて、相談役にもなって頂ける有難い存在でした。
特に私の参加した「特警ウインスペクター」では、レジェンドヒーロー「宮内洋」氏がレギュラー出演されていました。
宮内氏は、存在自体がヒーローですから主役を喰ってしまいかねません。
しかし、宮内氏はレジェンドヒーローだけにヒーローの真髄を語り、特撮作品の芝居をキャスト達に伝えようと、他のキャスト達に積極的に関わって頂けました。
ヒーローとしての私生活の心構えも…
●ゲスト俳優
ほとんどのゲストキャストは、安心出来るお芝居が可能な役者の方々ばかりでした。
中には、レギュラーキャスト達とも楽しく接して頂け、ご指導までして頂ける方もいらっしゃいました。
若いレギュラーキャストには刺激になりす。
昔からのスタッフには再会を喜び話し込むゲストキャストもいらっしゃいました。
新番組が始まる度に、レギュラーキャストの芝居が気になってしまうのは、元演出部であった悲しいサガかもしれませんが、番組が終わる時に「上手くなったなぁ」と思えるキャストを見るのも大好きだったりします。