余り語られない撮影所のあれこれ(1) 助監督の仕事 と カチンコ
★その1
「助監督の仕事」
演出部ですので基本的には監督の補助ですが、撮影が円滑に進むための補助ならば、どの部門の補助にも入ります。
他部門の仕事を勉強する感覚です。
それが、監督になった時に周りに指示できるようになる事へ繋がって行くと教わりました。
今はどうかはわかりませんが、エキストラの替わりも行います。
●余談1
カチンコは本来は撮影部さんの仕事でしたが、何故だか日本では助監督の仕事になってしまっていますw
●余談2
製作進行もしくは進行助手も同じように補助をする場合がありますが、
力仕事に手を貸す程度が普通ですw
●Q&A
Q:
竹田さんのエキストラの代表作って、何かありますか?
泊りロケの時は、案外多いらしいのですが。
A:
「女バトルコップ」の研究所の爆発前に、主役二人に跨がれる膝を立てている警備員の死体。
「高田純次の無責任社員物語 接待編」最後の方で会社前を話ながら歩く社員。相方はセカンド助監督w
DVD化されているのは以上かな?
おっと「クローンカプセル」のショッカーO野さんの吹き替えと戦闘員。
DVD化はしていないと思いますが、
2Hドラマ「龍神になった女」
主演:横山めぐみ。刑事役の斉藤暁さんの相方。
愛媛県松山市が舞台で地方ロケ。斉藤さんの刑事の相方役がいないのがおかしいとなり、急遽エキストラ発注も出来ずに、私が顔出し出演w
斉藤さんは「兄弟刑事みたいだ」と喜んでいましたww
セルフ有りの役は、
國米修市監督の「レイナ」の宅八郎さん的な役ww
そういえば、こんなのもありましたがタイトルをド忘れました。
多分「土曜ワイド」。
2時間ドラマで主役の乗ったバスの席の前に座る乗客。肩ナメ要員ですww
忘れてしまっているエキストラ出演も有ったかとは思いますが、とりあえずこんなモノww
Q:
スーパー戦隊・仮面ライダー・メタルヒーローで、マスク被ったりバイク乗ったりはしなかったのですか?
A:
特撮ヒーロー番組の現場で、カースタントさん以外がバイクや車の運転をすることは、基本的にありません。
移動する為に運転というのはあっても、撮影中に運転するのはタケシレーシングさんのお仕事でした。
同様に、マスクを被る仕事はJACさんの仕事でした。
どちらも専門職に任せないと危険ですから。
★その2
「カチンコ」
言わずと知れた撮影用の拍子木に黒板等のくっついた道具です。ハリウッドでは「クリッパーボード」と呼ばれています。
日本では助監督の下っぱのサード以下が使用するのが通例です。
カチンコは基本的にトーキー映画で同時録音されるフィルム撮影の為に作られました。
拍子木部分を撮影することで、同時録音した音と映像を同期させることができます。
また、黒板部分にシーン(S)-カット(C)-テイク(T)を書いて、フィルムの最初のコマに撮影され、フィルムの仕分けに使用します。
ここまではwikipediaでも載っていますww
通常の黒板部分には「25-8-1」とか「S25-C8-T1」とチョークで書きますが、シーンの場所にシーン数以外が入る場合があります。
前出の画像の様な「◯に合」は合成用。「小物」は手元等のアップやギミックの後撮り素材集なんか
まあ、黒板ですから好き勝手に書けますww
記録さんと話して、後で見て分かりやすいようにボードに表示するというのが基本ですww
打ち方ですが、ハリウッド版の様なものは両手打ちです。
日本の小型カチンコは、片手で打つ用に改良された様です。
基本の持ち方は、親指と人差し指と中指の3本で上の木を持ち、薬指と小指でボード付きの木を下から支えます。
ここからストッパーがわりの人差し指を抜いて、黒板部分を引き揚げる様に握り、拍子木を鳴らすのが基本です。
黒板部分の重みを利用して手を緩めると拍子木が離れるので、これを繰り返すと連続打ちが可能です。
難しいのは、縦にして打つ時です。
黒板の重みが利用出来ませんから、真の縦打ちは両手打ちしか出来ません。
少し斜めにして打つと可能になります。
この打つ際に注意が必要なことが3つあります。
ひとつはチョークの粉が飛ばないように、何回か試し打ちして粉を予め飛ばしておきます。
もうひとつは画角。フレームサイズです。
カチンコが映らない場所に出しても仕方ないのですからww
そして、被写体の状態です。
泣く芝居の時に役者の顔の前でおもいっきり大きな音をたてたり、赤ん坊のスヤスヤした寝顔の前でおもいっきりなんて出来ません。
プロは、小さくカチンコを打ちますw
まあ、安全策は芝居後に打つことですww
カチンコの製作は大道具さんの手作りという場合が一般的で、大量生産されていません。
頼んで1ヶ月位かかるのはザラです。
30年程前の東映では1個10000円でした。
現在は東宝で20000円だそうです。
東映版と東宝版では、写真の左右の色の違いの他に、拍子木の太さが東宝が太いという違いがあります。
変わったシチュエーションでのカチンコ打ちとしては、暗転した場所でのカチンコですね。
懐中電灯で照らしてカチンコを打つのですが、同時録音の場合は難しいの極致でした。カチンコを鳴らして直ぐに引っ込めて、同時に懐中電灯も消さなければいけませんから大変でしたww
カチンコの存在がトーキー映画の映像と録音の同期の為に必要だったとすれば、デジタル化されたり、元来アフレコだったりした特撮フィルム映像のカチンコには意味が無いように思われますが、「きっかけ」としての拍子木の音が必要なのです。
監督の「スタート!」の声と共に拍子木を一回打ちます。「カット!」がかかると二回連続打ちをします。
他では知りませんが、私がメタルヒーロー時代に先輩である石田チーフ(現・監督)に教わった打ち方です。
カットで一回打ちもありますが、監督の声の聞こえない範囲のスタッフやキャストにも
スタートの拍子木かカットの拍子木かを理解させるために二度打ちします。
同時録音(同録)ではない場合は、先にフィルムにカットNo.を書いたカチンコの黒板を撮影してもらえますから、カメラの側に居ることもなく、自分の居る位置でスタートの掛け声と共に拍子木を打てば良いのです。
それどころか、手が離せない状態だったりすれば、拍子木さえ打たずに「カチン!」と口で言う場合すらありますww
尚、拍子木以外の音でカチンコ代わりにしようとしても、基本的に現場スタッフはカチンコ代わりだとは気が付いてもらえません。
口での「口カチンコ」は、全然大丈夫なのにですww
同時録音(同録)の時のカチンコは、日本独特のものがあります。
拍子木打ちから如何に少ないコマ数で、手を引っ込めてカメラフレームからカチンコを逃がす(映らなくする)のかが問われます。
これには、技術がいります。
余談ですが、カチンコの打ち方を習ったばかりの頃は、よく手の平の皮膚を
拍子木の間に挟んでいました。
カチンコを打つ助監督の誰しもが経験する痛みです。酷い時には人差し指と中指の根元の皮膚に線を引くように内出血します。
さて、この内出血をする可能性が同録の時には高くなります。
一発勝負ですから緊張もありますし、無理な体勢で打つこともあるからです。
拍子木の音の代わりに、私の「痛!」で芝居が始まったこともありました。
役者さんが笑わなくてOKカットになったのですが、記録さんは録音部さんと「痛!」で同期できるか聞いていたのが印象的でしたww
撮影所には、もっと凄いカチンコ伝説があります。
3メートル以上の高さにカメラとカメラマンを持ち上げる撮影用クレーンでの撮影。
カチンコを写そうにも画角が広すぎて、写ってもカチンコが小さすぎては同期用としては意味がない。
最後にカチンコを入れる(映す)「尻(orケツ)ボード」も高い位置のままのカメラでは意味がない
それでもカチンコを入れなければならないと思った助監督は、監督の「よ~い」でカチンコを放り上げたそうです。そのカチンコはカメラの前の空中でカチンコを鳴らして落下。助監督が受け止めたそうです。
奇跡的に同期出来たと記録さんが語ってくれました。
勿論、私の伝説ではありませんww
30年程前の時代は、ビデオ撮影が出始めで、フィルムも同時録音とそうでないのとが混在していました。
ですから、全てを渡り歩いて、それぞれのカチンコの打ち方や出し方、助監督としての仕事の違いもわかる人間は貴重でした。
今でもフィルム撮影が少数残されている場合がある様ですが、
大半はデジタル化して、同期の必要すらありません。
カチンコがNo.の記録と芝居きっかけ用だけになっていきます。
画角だって、自分で想像しないでも、カメラのモニターを見れば分かってしまう。
多分、同期カチンコを打てる助監督も減っていると思います。
少し物悲しく思います。
●Q&A
Q:
竹田さん、僕も同じくデジタル化でもうカチンコの必要はないと思っていたのですが、S-logでカメラ本体のメディアに収録するようになり、録音周りがワイヤレス化したりして、逆にカチンコ必須になって面白いです
A:
「カチンコ」って、一番アナログでありながら、一番変わらないのですかねぇw
同録カチンコは、慣れるまで難しいですよね。
基本の足や腕の構えや手首の返し、フレームサイズはデジタルだから確認できるから大丈夫かなw
いやいや、デジタルなんだからハリウッドと同じでカメラ回して画面の前でカチンコを打って、ゆっくり引っ込めて、それから「よーい、スタート!」でもOKww
そんなスタートだと、迷うのはキャストかなww
★その3
「カチンコvol.2」
と、いうか補足です。
日本では、あるかどうかも分かりませんが、海外には、デジタル式表示のカチンコがあります。
ハリウッドのカチンコには、表示する情報量が多くて、細かくなるために、見易いデジタル表示を使っていると思われます。
撮影日やテープの長さなんて情報は、日本で記入することは無いですからww
尚、テープの時間表示ができるタイプは、カチンコの拍子木部分を打つと、ブザー音と共にタイマーが進んでテープの長さ(時間)を表示します。
デジタルの設定は、ボードの裏で行います。
写真等でデジタルカチンコを良く見ると秒表示の右にベルのマークがあります。
ブザー無しの無音に出来るということです。
無音のカチンコというのは、本末転倒なんですがねw
こんなハリウッドのカチンコは、撮影助手の仕事です。使用しない時は袋やケースに入れますが、撮影中は大抵地面や机の上に置かれます。
日本では、コンパクトなサイズということもあり、使用する助監督が肌身離さず持っていますw
ガチ袋と呼ばれるポーチに収納しておくか、ズボンの後ろポケットに差しておきます。
通常は、握り部分をポケットに突っ込むのですが、急ぐと拍子木の一本だけをポケットに突っ込みます。
但し、この拍子木一本差しは、握りが直ぐに取り出せる位置にある反面、カチンコにとって一番壊れやすい蝶番部分に、悪くすれば致命傷となる程の負荷をかけてしまいます。
その点、本来ガチ袋が良いのですが、走るとカチンコがガチ袋から転がり出てしまう欠点があります。
ということで、私は、握り部分をポケットに突っ込む場合が多かったのですが、この場合も欠点はありました。
パッと掴むと黒板部分を掴む場合が多く、黒板のチョークが拭われてしまうこと。
そして、握り部分の蝶番の金具によってポケットに穴が開くことですw
右の後ろポケットにカチンコ。
左の後ろポケットには台本。
腰にガチ袋。でしたが、私は後に腰にウエストポーチ。になりました。
ガチ袋にカチンコと台本を詰め込むスタイルの助監督もいました。
私はガチャガチャと走ってガチ袋の中身をこぼしてしまうのが嫌いで、ポケットスタイルでしたw
カチンコの天敵は、雨です。
チョークが消えて読めなくなるのです。
また、同時録音だと雨音に負けないカチンコを鳴らさないと意味がないのもあります。
ほとんどの場合は、ボード部分の撮影は数コマ分だけ先に撮影しておいて、カチンコを打つ(鳴らす)という手順でした。
現在は、ボード部分にホワイトボードを張り付けてマーカーで書くカチンコがあるようです。
雨にも比較的強く、粉も飛ばない。
確かに良くなりましたが、白地に黒文字は読みにくかったり、白地が反射してハレーションを起こしやすかったりと、全てに最高という訳では無いようです。
最後に、
現在、拍子木部分までアクリル製というカチンコもあるようです。
防水でもありますし、軽くて良いかもしれません。
更に、従来の木製カチンコは桜材が使用される場合が多く高級でしたが、アクリル製では半値以下みたいです。
ただ、手にした重量感が無くなるのは、個人的には悲しいかなww