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余り語られない撮影所のあれこれ  作者: 元東△映助
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余り語られない撮影所のあれこれ(188) 「ヒーローは世界へ」

★余り語られない撮影所のあれこれ(188) 「ヒーローは世界へ」


●特撮ヒーローを世界へ

2025年9月 新たな「仮面ライダー」が誕生します。

旧来の「仮面ライダー」のカラーリングと新たな試みを融合した「仮面ライダーゼッツ」は、日本と同時配信で海外展開をしていくと制作会見で公表されました。

日本のサブカルチャーとして「アニメ」と共に浸透してきている「特撮ヒーロー」というジャンルを海外へ向けて広げようとする挑戦と挫折と成功。それは、近年に始まったものではありませんでした。

今回は、日本の「特撮ヒーロー」が世界に向けて進出しようとする挑戦を語ってみたいと思います。

しかし、申し訳ありませんがコンテンツ的に膨大になる為に、主として「東映特撮ヒーロー」に絞らせて頂きます。ご了承ください。


尚、例によって情報のほとんどが約35年前です。

今となっては変わっていることや、無くなっていることもあります。

また、記憶の内容が30年の間に美化されたり劣化してしまっているものも存在します。

そして、ここでの意見は、あくまでも個人的な意見です。

東映をはじめとした各社や映像業界の直接的な意見ではありません。

その点も予めご理解ご了承下さい。


●特撮ヒーローの輸出

1970年代は、子供番組が花盛りになった時期でした。

アニメは勿論、「ゴジラ」→「怪獣ブーム」→「ウルトラマン」→「仮面ライダー」→「変身ブーム」→「変身ヒーロー」という系譜を経て「特撮ヒーロー」が群雄割拠した時代でもありました。

そんな中、先ずは海外進出の先駆者として1970年代にはアジアを中心に「ウルトラマン」や「仮面ライダー」をはじめとする「変身ヒーロー」たちが売り込まれました。

当初は各作品を「吹替え」で放送していましたが、1973年にハワイで「人造人間キカイダー(1972)」が「字幕」で放送されると好評を博し、続編である「キカイダー01(1973)」までも字幕放送し、キカイダーブラザースとして絶大な人気を誇ることとなりました。

実は、その海外進出の前に1960年制作の「ナショナルキッド」がブラジルで放送されて、人気を博していたことは余り知られていません。


○海外の特撮王国「タイ」

アジア圏では「仮面ライダー」シリーズも「吹替え」で放送されていました。

こちらは「字幕」に変更することなく好評を博していました。

特に「タイ」では「ウルトラマン」「仮面ライダー」の放送を機に、1970年代には「ウルトラマン」もタイでロケを行う劇場版「ハヌマーン対ウルトラ6兄弟」が作られたりと、特撮ヒーロー熱が高まりました。

現在でも「仮面ライダー」シリーズも「ウルトラマン」シリーズも「吹替え」によってタイ国内で放送され好評を博しており、タイでは国産の特撮ヒーロー番組が製作されるといった状況にもなっています。

このようなタイでの熱狂的な「特撮ヒーロー」の受け入れられ方は、「タイ」の英雄「ラーマ」の伝説「ラーマヤーナ」が起因しているとされています。

「ラーマ」のお供の白猿「ハヌマーン」は自在に「変身」することが可能で、この「変身」や「化身」という思想と「悪を懲らしめる」という「勧善懲悪」思想が「仮面ライダー」や「ウルトラマン」といった番組の根底を流れるものとベストマッチしたからではないかと言われています。

現在では、タイの配信サイトで「ウルトラマン」「仮面ライダー」「スーパー戦隊」の各シリーズはもとより、「アクマイザー3」「変身忍者嵐」「イナズマン」「バロム1」「超神ビビューン」「ジャイアントロボ」「円盤戦隊バンキッド」といったラインナップまでもが視聴することのできる「日本特撮サイト」が存在することとなっています。


●スーパー戦隊の進出

アジア圏だけではなく北米にも「特撮ヒーロー」を売り込むべく、1984年制作の「超電子バイオマン」を「吹替え版」として制作されましたが、製作段階で様々な理由でとん挫し、ドラマパートをアメリカで撮り直した「Bioman」として改めて1985年に制作されました。

しかし、この「Bioman」は各テレビ会社に相手にされなかったと言われています。


ですがこの「Bioman」の番組フォーマットが陽の目を見る日がやってきます。

1991年に東映側にアメリカの「サヴァン・エンターテイメント」から「スーパー戦隊」の輸入が打診されます。

しかし、「スーパー戦隊シリーズ」をそのまま輸出しアメリカで放送する事を考えていた東映側に対して、「サヴァン・エンターテイメント」は戦闘シーンの映像は可能な限り日本の映像を流用しつつ、必要に応じてアメリカで撮影するという後の「パワーレンジャーシリーズ」のコンセプトを東映側に提案したのです。

「サヴァン・エンターテイメント」によれば、「スーパー戦隊シリーズ」をそのまま放送するにはふたつの大きな問題があると指摘されました。

先ずは、日本人だけが出演する番組はアメリカでは受け入れられないことでした。

1990年代は、現在の様な「マイノリティー」や「ポリコレ」といった問題は噴出していなかった時代ではありましたが、いくら「人種のるつぼ」と呼ばれるアメリカの人種社会ではあれど、白人が多いアメリカでは日本人だけの出演者の番組は、視聴者に受け入れられ難いという認識でした。

更に大きな点としては、日本のアクション描写がアメリカの放送コードを通らないという事情がありました。

つまり、スーパー戦隊シリーズの、ほとんどのアクションシーンがアメリカの放送コードに接触すると指摘されたのです。

アメリカでは、銃の戦闘シーンにおける放送コードが特に厳しく、映画はともかく全年齢が対象のテレビでの放送は、当時も今も厳しく制限されていたのです。

この2点をクリアするために、アメリカで役者を用意した上でドラマパート及び変身前のアクションパートをアメリカの現地で撮影し、ヴィラン側のシーンやアクションシーン、そして変身後の戦闘及びロボ戦は日本の映像を極力そのまま使用する形で制作する「Bioman」で培った番組フォーマット形式が完成したのです。


そして1993年に、1992年制作の「恐竜戦隊ジュウレンジャー」を「マイティ・モーフィン・パワーレンジャー」として放送することとなりました。

そのストーリーは、アメリカで放送するのには差し支えない内容に変更されましたし、アメリカらしくコメディリリーフの配役の登場もありましたが、「悪の魔女」が敵の首魁とその衣装スタイルはしっかりと残され、「パワーレンジャー」が紛れもなく「ジュウレンジャー」である事が示されたのです。

衣装やスーツの殆どは日本で撮影に使用されていた物をアメリカに送っていました。

それは、ヴィランパートとドラマパートをアメリカで撮影する為ではありましたが、日本で1年分しか撮影ストックがない事にも由来していました。

足りない変身後部分の撮影はアメリカで追加撮影されることになり、追加のスーツや新規怪人を日本で造って輸送する手段をとり、アクションも坂本浩一氏をはじめとする日本人スタントクルーが渡米してアクション指導や実演して撮影するという手段が取られました。


アメリカにはテレビ放送されている実写ヒーロー番組が殆ど無く、あってもモノクロ時代の番組ぐらいでしたから、「パワーレンジャー」は放送開始から概ね好評を得ており、追加戦士であるグリーンレンジャー(ドラゴンレンジャー)登場で人気が爆発し、クリスマスシーズンに関連商品が手に入らないという事態がニュースになる程でした。

しかし、人気になるということはアメリカ発の作品特有の問題に直面することとなります。

アメリカの番組では、人気があると作品のイメージを踏襲することを基本に、契約上の取り決めがない限りは同じキャストでの製作が続き、若干のリニューアルはあってもそれまでのスーツとの違いを混同の根本も変わらないことがあります。

ご多分に漏れずパワーレンジャーも、第3シーズンまでは基本的にはジュウレンジャーのスーツのままで(一部パワーアップとして1993年制作の「五星戦隊ダイレンジャー」のキバレンジャーのスーツに変更)、乗り込む巨大ロボのみが他のスーパー戦隊作品のロボに変わるという日本では考えられない展開になって行きます。

またヴィラン側も、オリジナルの悪の帝王を登場させたり、「悪の魔女」も魔法で若返ったという描写で現地の女優に交代するなどの苦肉の設定追加と、日本で使用した怪人を翌年輸送して、現地アクションに対応できるようして、製作を続けたのでした。

流石に4作目となる1996年の「パワーレンジャー・ジオ」(1995年制作の「超力戦隊オーレンジャー」)からは、坂本浩一アクション監督がプロデューサーと掛け合ったこともあり出演キャストは概ね継続のままスーツの刷新に成功します。

5作目となる1997年の「パワーレンジャー・ターボ」(1996年制作「激走戦隊カーレンジャー」)では、初代シーズンからのレギュラー陣の途中交代も成功します。

6作目の1998年の「パワーレンジャー・イン・スペース」(1997年制作「電磁戦隊メガレンジャー」)でファーストシーズンから続くヴィランであるゾードンのゾードン・サーガが終了することになりました。


1999年放送の7作目「パワーレンジャー・ロスト・ギャラクシー」(1998年制作「星獣戦隊ギンガマン」)以降は、1シーズン1タイトルで日本とほぼ変わらない本数で製作され、キャストも毎年交代するという形式に落ち着くこととなる。

この結果、スーパー戦隊VSシリーズの様な過去のパワーレンジャーとの共演も可能となりました。

更に日本でスーパー戦隊を監督している日本人監督がパワーレンジャーシリーズのメガホンを取るといった交流もできるようになりました。


8作目 2000年「パワーレンジャー・ライトスピード・レスキュー」(1999年制作「救急戦隊ゴーゴーファイブ」)

9作目 2001年「パワーレンジャー・タイムフォース」(2000年制作「未来戦隊タイムレンジャー」)


と毎年40本が制作されました。


10作目 2002年「パワーレンジャー・ワイルドフォース」(2001年制作「百獣戦隊ガオレンジャー」)全40話頃になると、放送局がディズニーに買収され「サヴァン・エンターテイメント」も傘下に入ることになりました。

この事でサヴァン関係のスタッフは撤退することになりました。

「パワーレンジャー」シリーズの制作は続けられましたが、それまでよりも放映本数は数本ですが減って行きます。


11作目 2003年「パワーレンジャー・ニンジャストーム」(2002年制作「忍風戦隊ハリケンジャー」)全38話

12作目 2004年「パワーレンジャー・ダイノサンダー」(2003年制作「爆竜戦隊アバレンジャー」)全38話

13作目 2005年「パワーレンジャー・S.P.D.」(2004年制作「特捜戦隊デカレンジャー」)全38話

14作目 2006年「パワーレンジャー・ミスティックフォース」(2005年制作「魔法戦隊マジレンジャー」)全32話

15作目 2007年「パワーレンジャー・オペレーション・オーバードライブ」(2006年制作「轟轟戦隊ボウケンジャー」)全32話

16作目 2008年「パワーレンジャー・ジャングルフューリー」(2007年制作「獣拳戦隊ゲキレンジャー」)全32話

17作目 2009年「パワーレンジャー・RPM」(2008年制作「炎神戦隊ゴーオンジャー」)全32話


更に17作目を最後に途中で製作中止する事態にまでなりました。

しかし、1年のブランクの後、再び「サヴァン」が権利を買い戻します。

この1年のブランクは「サヴァン」への権利譲渡期間の為に必要な期間でした。

これにより2011年の「パワーレンジャー・サムライ」(2009年製作「侍戦隊シンケンジャー」)全20話+特番3話よりシリーズは再開することになります。

以後はひとつの戦隊を2シーズンに分けて放送する体制となりました。

「パワーレンジャー・サムライ」は2012年より「パワーレンジャー・スーパーサムライ」全20話+特番2話というようにパワーアップする後半シーズンになっていきます。

2013年の「パワーレンジャー・メガフォース」(2010年製作「天装戦隊ゴセイジャー」)全20話+特番2話

2014年には「パワーレンジャー・スーパーメガフォース」(2010年製作「天装戦隊ゴセイジャー」+2011年製作「海賊戦隊ゴーカイジャー」)全20話で、ゴセイジャーがパワーアップしてゴーカイジャーになるという前後編が放送されました。

2015年には「パワーレンジャー・ダイノチャージ」(2013年製作「獣電戦隊キョウリュウジャー」)全20話+特番2話

2016年「パワーレンジャー・ダイノスーパーチャージ」(同「獣電戦隊キョウリュウジャー」)全20話+特番2話

と、この「パワーレンジャー・ダイノチャージ」からは暫くの間、1戦隊で2年間放送するスタイルになっていきます。

2017年「パワーレンジャー・ニンジャスティール」(2015年製作「手裏剣戦隊ニンニンジャー」)全20話+特番2話

2018年「パワーレンジャー・スーパーニンジャスティール」(同「手裏剣戦隊ニンニンジャー」)全20話+特番2話

2019年「パワーレンジャー・ビーストモーファーズ(シーズン1)」(2012年製作「特命戦隊ゴーバスターズ」)全20話+特番2話

2020年「パワーレンジャー・ビーストモーファーズ(シーズン2)」(同「特命戦隊ゴーバスターズ」)全20話+特番2話

2021年「パワーレンジャー・ダイノフューリー(シーズン1)」(2019年製作「騎士竜戦隊リュウソウジャー」)全22話

2022年「パワーレンジャー・ダイノフューリー(シーズン2)」(同「騎士竜戦隊リュウソウジャー」)全22話

2023年「パワーレンジャー・コズミックフューリー」(同「騎士竜戦隊リュウソウジャー」+2017年製作「宇宙戦隊キュウレンジャー」)全10話


この2023年の「パワーレンジャー・コズミックフューリー」をもって「パワーレンジャー」はシリーズの終了となりました。

これは、2018年に玩具スポンサーがバンダイアメリカからハズブロに移ることになった為に、東映との契約更新を打ち切ったことによるもので、5年の継続の末に「パワーレンジャー」は一端の終了をみたのです。

この契約は、当初の「サヴァン」との契約の延長であったことからアジア圏は対象とされていません。

尚、2014年製作の「烈車戦隊トッキュウジャー」、2016製作の「動物戦隊ジュウオウジャー」、2018年製作の「快盗戦隊ルパンレンジャーVS警察戦隊パトレンジャー」、そして2020年製作の「魔進戦隊キラメイジャー」以降のスーパー戦隊は「パワーレンジャー」化していません。

しかし「トッキュウジャー」「ジュウオウジャー」「ルパンレンジャーVSパトレンジャー」の怪人は一部「コズミックフューリー」で使用されたようです。


結果として、30年近く「パワーレンジャー」という名前ではありますがアメリカで「スーパー戦隊」が認知され「ヒーロー」として定着したと言っても過言ではなくなりました。

勿論、アジア圏以外のヨーロッパやブラジルなどでも「パワーレンジャー」は輸入され、好評を博します。


●仮面ライダーの挑戦

「スーパー戦隊」の成功があり、東映は「仮面ライダー」シリーズもアメリカに持っていきます。

「仮面ライダー」は、既にアジア圏では好評を得ていたのもあり「マスクド・ライダー」として1995年に当時最新の「仮面ライダー」1988年製作の「仮面ライダーBLACKRX」を基に制作されました。

放送前には「パワーレンジャー」にゲスト出演し大々的な宣伝を行われたようです。

しかし、設定は改造人間ではなく異星の王子となり、地球にやって来て出会った家族との交流を中心に描かれています。

戦闘においては「仮面ライダーBLACKRX」の見せ場でもある「リボルケイン」によるアクションがアメリカの放送コードに適さず、ビームを放つものに変わっているなどと変更点はありました。

しかし、「パワーレンジャー」ほどの好評は得られず、「マスクド・ライダー」は一時撤退を余儀なくされます。

これには、日本で製作されてから年月(実に7年)が経ってしまっているために、スーツ以外の現物が日本からアメリカに持っていけなかったという欠点もあったと言われていました。


そして、2000年より後世に言われる「平成ライダーシリーズ」が始まっていた東映は、2008年に再び「マスクド・ライダー」をアメリカに送り出します。

この「「マスクド・ライダー ドラゴンナイト」は2002年制作の「仮面ライダー龍騎」を基に制作されました。

しかし、ライダーバトル部分や13人のライダーという設定は残しつつも、そのバトル理由をアメリカに合ったようなマイルドなものに変更していました。

ここでも、制作から6年という年月の差は問題となったようで、「仮面ライダーBLACKRX」と同様にスーツ以外のプロップが殆ど残っていなくて、アメリカに持って行けていないという状況でした。

いずれにせよ、以後の平成仮面ライダーシリーズはアメリカへ輸出されていません。


●メタルヒーローとしての再挑戦

「パワーレンジャー」の手応えを感じた「サヴァン」は同手法で東映ヒーローを次々に製作していきます。

そこで目を付けたのが、1990年初頭で「スーパー戦隊シリーズ」と並んで東映で製作されていた後に「メタルヒーロー」と呼ばれるシリーズでした。

先ずは「パワーレンジャー」のスピンオフ作品として1986年製作の「時空戦士スピルバン」と1987年製作の「超人機メタルダー」を基に製作された「VRトルーパース(シーズン1)」全52話を1994年に製作します。

翌1995年には「VRトルーパース(シーズン2)」として、「超人機メタルダー」が1985年製作の「宇宙刑事シャイダー」に変更され、敵の組織もシャイダーの敵である不思議界フーマを中心に描かれることになりました。


しかし、「マスクド・ライダー」の時もそうでしたが、10年近く前の作品だけに敵怪人のスーツや小道具はいずれの作品も残っておらず、苦肉の策としてアメリカの現地で「パワーレンジャー」の過去のスーツを現地スタッフが改造するなどして撮影されたと言われています。


そこで、翌1996年には1995年製作の「重甲ビーファイター」を基にした「ビッグ・バッド・ビートルボーグ」全53話を製作し、翌1997年には「重甲ビーファイター」の続編である1996年製作の「ビーファイターカブト」を基に「ビートルボーグ・メタリックス」全35話を製作します。

この2作品には、「マスクド・ライダー」や「VRトルーパーズ」とは違い日本のスーツをはじめとした造形物を持って行けており、前作品と比べて「パワーレンジャー」同様の苦労無い撮影が想像できます。

しかし、人気は「パワーレンジャー」には及ばず、「メタルヒーローシリーズ」はここで一端終了します。


●趣味嗜好と思想や宗教観の違い

アジア圏では余り大きな苦戦はなかったものの、アメリカでは様々な意味で「パワーレンジャー」導入前から苦戦が強いられました。

これは、文化の違いが大きいと言われています。

先ずは、日本人のみの配役という部分が問題でした。

アジア圏では日本人と変わりない容貌の人々が多いこともあり、すんなりと受け入れられましたが、アメリカではアジア人以外の様々な人種に感情移入して共感して貰う為にも多くの人種を配役することが求められました。

また、前途したように銃関係や剣を使っての戦闘描写における放送コードの厳しさも問題でした。

そして、「仮面ライダー」では日本で当たり前になっていた「改造人間」という状況も放送コードとして

認められませんでした。

更に「仮面ライダー」では、「正義のバッタ」という設定がうまく受け入れられなかったようです。

アメリカンヒーローには「正義のクモ」は既に居ましたし1970年代には実写化もされていましたが、アメリカでは「虫」=「バグ」であり「悪」のイメージがあるという点やリアルに「複眼」を眼の意匠にしてあることが受け入れられ難かったのではないかと言われています。

まあ、後に「正義のアリ」「正義のハチ」もマーベルに加わっていますが…


また、日本特有の「名乗り」や後にアベンジャーズとして目にする「スーパー戦隊」シリーズにとって大事な「チームで戦う」ことに関するアメリカ側への説明には、相当苦慮したようで様々な逸話が残っています。


宗教観にも違いが出ており、基本的には多神教である日本人と一神教であるアメリカ人との感覚に違いでは、「天装戦隊ゴセイジャー」の「天使」や「海賊戦隊ゴカイジャー」の「海賊」がデリケートに扱われ、「ゴセイジャー」がパワーアップして「ゴーカイジャー」になるという配慮がみられます。

そういう意味では、多神教の多いアジア圏では比較的宗教的配慮なく受け入れられている様に感じます。


尚、「烈車戦隊トッキュウジャー」が「パワーレンジャー」化されなかった理由として、アメリカは列車よりも車社会であり子供達の共感を得られ難いだろうという理由かららしいのですが、これもまた日本とアメリカの文化的違いによるものではないでしょうか。


●海外からのオファー

現在、日本国内のみならず海外からも過去の作品のヒーロー俳優やスーツアクター達のイベント出演のオファーが続いているようです。

日本に「特撮ヒーロー」が生まれて60年近く、海外へ進出してからも50年以上が経過し、当時視聴していた子供達が現在の経済の中心となり、またイベントを開催する立場にもなっているという事も大きいと言えます。

また、当時のヒーロー俳優やスーツアクターが気軽にイベントに参加できる土壌が日本でも確立されて来ていて、その海外版という感覚が有るのだという点と、情報の発信と連絡が瞬時に世界を駆け巡ることのできる通信状況の発達が、今の「当時のヒーローが今、眼の前に居る」という状況を創り出せる世界になったのだという事もまた大きいのだと思われます。


●あとがき

「パワーレンジャー」の人気の影響から、子供向け実写キャラクター番組がアメリカ本国でも何本か製作されるようになりました。

ですが、やはりアメリカの感覚を残したままの制作や企画であったり、テレビ番組の予算的問題からか「パワーレンジャー」に敵うものはできなかったようです。

それは、「パワーレンジャー」をアメリカでプロデュースした「サヴァン」自体も同じ事で、1998年にオリジナル番組「ミスティック・ナイツ」を製作するのですが、なかなか上手くいかなかったようです。


良く出来の良い日本作品の予算が、海外に比べて極端に低い事に対して海外勢に驚かれるという記事を読むことや聞くことがあります。

日本の映画や特撮作品は、「低予算とアイデア、そして技術力で…」とも言われますが、シェアが基本的に国内に限られるスポンサーの利権では予算に限りがありますし、欧米程に多くの分業と人員を費やして作品を作っている訳ではないので、そこをアイデアや技術力で埋めているといった感覚なのです。

しかし、映像業界を取り巻く様々な問題から欧米の様な分業が進められているのも事実です。

そして、物価と人件費の高騰によって日本のみならず世界的に映像業界全体が苦しくなって来ているのも事実です。


昔から生み出した映像作品に二次的三次的な利益を得ようと思う事は必然で、その向かう先は「外貨の獲得」だった訳です。

1970年代初頭には、子供向け映像作品の「外貨の獲得」の筆頭は「アニメ作品」でした。

それは、現在でも多くは変わりません。

そこに「特撮ヒーロー作品」という新風が先ずはアジア圏に広がり、欧米へと進出して行ったという訳です。

しかし、一時代を築いた「パワーレンジャー」は、親元から離れ、困難な道程とも知らず独り立ちしようとしています。

その事によって親元は苦しくなっているでしょう。


けれど、「仮面ライダー」や「パワーレンジャー」で海外に認知を得る事になった市場とネット配信による新たな土壌は、翻ってみると新たな挑戦の前に打ち震えているのかもしれません。

むしろ、「パワーレンジャー」というモノが足枷となって来つつあり、それが無くなって「ゼンカイジャー」「ドンブラザーズ」という奇策を要する事も可能になったのかもしれません。


現在でも様々な挑戦は続いています。

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