余り語られない撮影所のあれこれ(17) 撮影所のスタッフになるには
★「撮影所のスタッフになるには」
今回は、特撮ファンや映画ファンが一度は憧れる「スタッフ」になるためには、どんなことをすれば良いのかを綴っていこうと思います。
しかし、私の知識はあくまでも30年も前の話なので、参考になるかどうかは疑問ですw
●「縁故」
まず、就職するには狭き門であることは間違いありません。
端的に言えば「縁故」=「コネ」による採用が殆どだと思って下さい。
とは言っても撮影所にコネが最初からある人は稀です。
アルバイトから入ってコネを作るとか、専門学校や大学からのコネを利用するとかが一般的です。
但し、現場のスタッフに空きがなければ仕方がありません。スタッフは私のように辞めていく者もいるかわりに、ずっと残る者もいます。そして、どんどん増えていくものではないのも確かなことです。つまり、一定数で事足りているだけに追加人員は補充以外はないのです。
●「私の場合」
例になるかどうかは分かりませんが、私がコネを作った経緯をご紹介します。
ある意味、今となっては奇跡的な連続ですので、参考になるかどうかは分かりませんw
私は監督に成りたいと思っていましたが、具体的な就職の仕方がわからないことから、即戦力の獲得とコネの作成の為にも専門学校に入るべきだと思っていました。専門学校に入って技術を身に付けて、講師の方や学校のコネで採用先を斡旋して貰おうと考えていました。
実際、その方法もコネを作る事が出来るでしょうが、全ての卒業生に希望の斡旋先を見つけるのは無理です。
事実、私の行った大学でも講師からコネを作ることは出来ませんでした。
何故ならば、私の大学の講師は映像作家が中心で、撮影所に出入りしているスタッフではなかったからです。
私から強く求めれば、紹介もあったかもしれませんが、私はアクションを起こしませんでした。
私の場合は、京都の大学ということもあり、東映太秦映画村にアルバイトとして入った事が奇跡を呼びました。
といっても、映画村のお客さんの車の誘導や、映画村内部で撮影がある際にお客さんへのバリケード役と録音本番の際に「お静かにお願いします」と書かれた扇子をお客さんに示して声や物音への注意を促すぐらいでした。
ある時に、滋賀県の地元のお祭りの記録映像用の撮影があり、映像学部の生徒だから機材を扱えるだろうということで、カメラマンと私だけの撮影隊という特別アルバイトがありました。
その後、幾度となく特別アルバイトに呼ばれる内に、東映京都撮影所のチーフ助監督が現場に付く事がありました。
その現場で、「自分も監督に成りたい」とそのチーフ助監督に話をした事がきっかけで、京都撮影所のスタッフへ紹介してもらい、卒業迄はアルバイトとして製作進行助手をさせてもらうことに成りました。
そして、卒業する頃に製作主任から今後も撮影所で働きたいかの意思を聞かれ、「時代劇ではなくて、現代劇がやりたいです」と答えて、東映東京撮影所に紹介してもらえました。
●「斡旋会社」
紹介されたのは、撮影所の中にあるプレハブに事務所のある「斡旋会社」でした。
ここで初めて知ったのが
「撮影スタッフの殆どが東映の正社員ではなく、斡旋会社に席を置く契約社員であり、仕事は斡旋会社から貰う」
という事実でした。
契約社員ですから、保険も自前の国保でした。
源泉徴収としてギャラの1割が斡旋会社により天引きされていました。
まぁ、私達に提示される前の東映との間で取引された本当のギャラが幾らかなどは知るよしも有りませんでした。
今でも撮影スタッフの殆どは、東映等の映画会社に席を置くものではなくて、いずれかの専門会社からの契約社員のようです。
職種によって違いますが、監督、助監督、カメラマン、カメラマン助手、照明技師、照明助手、記録、録音などの殆どの職種が契約社員です。
●「外部発注」
衣装、小道具、大道具、CG担当、操演あたりは、各専用の会社が有限会社や株式会社としてありましたから、そこの社員でした。
プロデューサー、プロデューサー補、製作主任、製作進行、進行助手、編集は会社の採用つまりは正社員だったと思われます。
東映はそんなシステムでしたが、映像業界全てが同じようになっているとは限りません。
尚、これ以外の直接撮影に関係しない職種としては、車輌担当がありますが、こちらはロケバスの運転手さんや機材を運ぶトラック等の車での運搬作業をする方達です。この車輌担当も外部の会社の社員で、運搬会社と東映が契約を結んでいるということになります。
撮影所には、そのスタッフが特殊なほど、必要な時と不必要な時があります。
常時撮影に関わるスタッフも、撮影がある時と無い時があるので、撮影の無い期間まで全てのスタッフを雇用し続けているのは非効率的です。
そこで、契約社員や外部発注のシステムが出来たのだと思われます。
つまり、外部発注の会社の職種に対しては、その会社へアプローチするか求人を待つしかありません。
●「正社員」
今まで「殆ど」という言葉を使い続けたのは、東映等の映画会社の正社員の中には、本来斡旋会社に席を置くような職種の方も居るのが原因なのです。
監督、助監督をはじめ殆どの職種で正社員が存在します。
勿論、撮影現場では正社員と契約社員の仕事の差は有りませんし、待遇も撮影現場では変わりありませんし、見分けもつきません。
撮影スタッフ以外でも、普通の会社のような営業や経理や総務といった社員も勿論存在します。
東映の場合も本社は銀座にありますが、東京と京都の各撮影所勤務の正社員さんも存在します。
これら正社員への就職は、東映等の募集を待つしかありません。
撮影スタッフ以外の一般社員は、まだ募集が見込めますが、撮影スタッフの正社員となると数年に一度程度の募集しかありません。
そして、雇用人数も若干名=1~2名程度ときていますから倍率も高くなるのは当たり前です。
一昨年ぐらいに東映がプロデューサーの採用募集をした時は、事前の書類審査として企画書の提出が求められました。
倍率も数千倍になっていた筈です。
●「採用後」
どんな職業でも、成るための知識や情熱だけでは採用されません。
ましてや狭き門の撮影業界ですから採用されただけでも運も良かったといえるでしょう。
しかし、毎年のように多くのスタッフが現場を去っていきます。
私のように身体を壊す者や仕事内容に対しての乖離を感じてしまったり、仕事量が安定しないため給与が不安定などという理由が殆どです。
狭き門であるが為に、大きな憧れを持ってスタッフに成ると、崩れるのも大きいのでしょうかねぇ…
まだまだブラックな企業のイメージがある業界ですし、本当にブラックな部分もありますがw、やりがいと達成感も半端がありません。
そして、業界内で生き延びていれば、基本的に定年の無い職業でもあります。
まぁ、生き延びることすら大変ですが…
例えば、監督の場合。
よほどの大監督でない限りは、60歳を越えてまでレギュラー番組の監督をしている人は殆どいませんしね。
今回は、職業として撮影現場に関係する人達の仲間になる方法の一端を綴ってみましたが、余り語られない事だと思います。
専門学校や大学で学んだことは、基本にしか過ぎず、現場で初めて学ぶことも殆どであり、技術革新等の外的要因もあって勉強が一生続くという職人的世界です。
しかし、夢の溢れた職場でもあります。
私も辞めて後悔がない訳ではありません。
実は、今でも休業中の感覚ですww