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余り語られない撮影所のあれこれ  作者: 元東△映助
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余り語られない撮影所のあれこれ(178) リテイクT-10「アフレコとアテレコ」

余り語られない撮影所のあれこれ(178) リテイクT-10「アフレコとアテレコ」


●「アフレコとアテレコ」

季節の変わり目や番組改編の頃になると、コロナ禍でも良く見かけた新規映像を使わずに総集編としての特別番組を放送するテレビ局が多く見受けられます。

そんな特別番組でも、アフレコやナレーション録りは行わなければならなかったりします。

今回は、そのアフレコやナレーション録りの裏側をご紹介します。


尚、例によって情報のほとんどが約30年以上前のことです。

今となっては変わっていることや、無くなっていることもあります。

また、記憶の内容が30年の間に美化されたり劣化してしまっているものも存在します。

その点をご理解の上、あらかじめご了承下さい。

そして、ここでの意見は、あくまでも個人的な意見です。

東映をはじめとした各社や映像業界の直接的な意見ではありません。

その点を予めご理解ご了承下さい。


●音声さんの居ない作品

デジタル撮影に切り替わった現在の特撮作品では、「録音部」と呼ばれる「音声スタッフ」がちゃんと撮影時に現場に付いていて「同時録音」を行っています。

それは、ヒーローとヴィランの戦闘シーンなどのスーツ同士の場合も同様です。

30年程前のフィルム撮影の時代には、フィルムへの「同時録音」は行わず、撮影現場には「録音部」はひとりも居ませんでした。

ですから、本来「音声同期」に必要なカチンコは、カメラ前で鳴らさずとも良くて、単なるきっかけでしか有りませんでした。

これは、前途したキャラクターの声が、本来の役者さんの声ではない事も一因ですが、特撮作品にはSFXやVFXと呼ばれる「特殊技術撮影」が加わり、更に本来の音声でない音が加わるという事にも起因しています。

従って、フィルム撮影直後の作品は無声映画のような状況であり、それに「アフレコ」や「アテレコ」などの「音声」を加える事で、本来の「音」のある作品へと創り上げているのです。


●アフレコとアテレコとは?

◯アフレコ

アフレコは、アフターレコーディングの略です。

単純な話、映像にアフター=後から音声をレコーディング=収録することです。

基本的には本来言葉を発しないモノや自分自身の姿に音声を吹き込む事を言います。

アニメは勿論、ヒーロー番組のヒーロー怪人やロボット等に声を付ける場合等が一般的です。

前途した様に、自分自身が発した言葉に後になってから声を入れる場合も「アフレコ」となります。

ヒーローの場合は、基本的に変身前の役者さんが声を当てて「アフレコ」を行います。

ヒーローは基本的に口が動きません。

これは一見「アフレコ」がしやすいように見えますが、身体の動きにセリフが合わない様になる場合があります。

ですから、ヒーローを演じるスーツアクターさん達は、変身前の役者さんが「アフレコ」しやすいように本来余り動かないような首や身体の動きを少し大袈裟にしてセリフの抑揚を表現していました。


◯アテレコ

「アフレコ」に対して「アテレコ」とは、「アフレコ」から派生した造語で、本来言葉を発している人物等の声を上書きする様に新たな声を付けることを言います。

外国映画の吹き替えは、「アテレコ」の代表といえます。

人物の口元の動きに“アテ”てアフターレコーディングするので「アテレコ」というらしいです。

つまりは、「アテレコ」も「アフレコ」の一種であることに違いありません。


特撮作品では「仮面ライダー電王」の中で、イマジンに憑依された主人公・良太郎の声を、イマジンの「アフレコ」を担当している声優さん達が「アテレコ」しているのが、メジャーで分かりやすいかと思います。


この「アテレコ」の際も、口元の動きに合わせなければいけないという難しい作業が生じてきます。

その為に声を“アテ”られる役者さんは、口元を合わせ易い様にハッキリと開けてセリフを発しなければなりません。

つまり、自然な演技でありながら口元は分かりやすくしなければならないということになります。

役者としての演技力も要求されますし、「アテレコ」をする声優さんにも洞察力と共感力が問われる作業となります。


◯難しさを緩和する

この様に難しい「アフレコ」ですが、アニメではあえて口元の動きに曖昧さを付けたり、逆に細かいくらいの動きにしてみたりして「アフレコ」を助けようとしています。


実写では、「アフレコ」の際も「アテレコ」の際も演じる役者さんやキャラクターのスーツアクターさん達は、実際のセリフを喋っているのが通例でした。

それは、変身前を演じる役者さんと同じセリフを覚え、同じ時に同じセリフを喋る事で、スーツアクターもヒーローやヴィランといったキャラクターに成り切る事と共に、セリフを「アフレコ」する役者さんや声優さんと同じ息遣いと「間」を演技で創るのです。

前途した様に、声という画像で見れないモノを発しながら、口元すら画像に映らないのであれば、何とかして映像として伝えようと、時としてスーツアクターさんは、細かな身体や手足の動き等でセリフの内容や抑揚を伝えようとするのです。

それは、「アフレコ」に不馴れな俳優陣がいる多くの特撮作品の場合、大いに助けになっているのです。


●アフレコだから出来る

「アフレコ」は、台本に書かれたセリフをキャラクター達や自分達の口から発せられたように聞こえる様にする事ですから、基本的には台本通りのセリフが「アフレコ」されます。

しかし、時として台本に書かれていないセリフを「アフレコ」する場合もあります。


これには撮影現場で台本に修正が加わったり、役者さんが芝居の上でセリフの一部もしくは全部を変更したものを監督が了承した場合等がありますが、基本的には役者さんの口元と「アフレコ」するセリフは合っています。

しかし、撮影後のしかも撮り直しの効かない時期になってのセリフの修正や、「アフレコ」の段階になってセリフに修正が加わって、役者の口元とは合わない事を分かっていながら強引に「アフレコ」をする場合もありました。

こんな事は、本当に最終手段です。

ストーリー上に破綻を来たすセリフであったり、指摘によって不適切だとされたセリフを修正する様な場合ぐらいです。

強引な方法ですから、修正も出来るだけ口元と合う様なセリフ変更が考えられました。


中には、セリフを修正した方が良いが撮影現場での修正が出来ずに、撮影時にはセリフを「裏」で話させたり、撮影した風景にセリフを被せる様な処理をして誤魔化す場合もありました。

因みに「裏で話す」は、役者さんや被写体の後ろからや身体の一部だけを映像に収めて、その映像にセリフを載せる=「アフレコ」する事を意味します。


●アフレコルーム

通例では、この録音室(=録音ルーム)の事を「アフレコルーム」と呼んでいました。

アフレコ以外にもナレーション録りもアフレコルームで録音していました。

完全防音の密閉型の録音ルームなのですが、それでも振動は伝わります。

車等の大型車輌が部屋の横を通過すると、部屋自体が振動してしまうのです。

ですから、1階にある録音ルームでは通りに面した場所に赤ランプとベルが設置されていました。


録音開始前に赤ランプの点灯と同時にベルを短く鳴らします。それは車輌通行禁止の合図ですから、もう一度ベルが鳴って赤ランプが消えるまでの暫くの間、全ての車輌はエンジンすら止めて録音ルーム側で待機しなくてはなりませんでした。

勿論、車輌だけではなく「音をたてる」往来も全て禁止させられました。


余談ですが、この「赤ランプの点灯」による「録音中」の警告は、アフレコルーム前に限ったモノではありませんでした。

このシステムはステージセットの建物にも設置されていました。

ステージセット内で録音がある場合に使用されていました。

つまり、「同時録音」で撮影を行っている作品のステージセットにも同様の「赤ランプ」は設置されていて、「本番=同時録音開始」となると点灯しベルやブザーが鳴り「静粛さ」が求められ、「音をたてる往来」を禁止されるのが「撮影所内のルール」として「タブー」とされているのです。

京都撮影所内には「警笛鳴らすな!」と書かれた場所が存在します。

一般的には不思議な言葉ですが、コレも撮影所ならではの「同時録音」の撮影時の「タブー」に絡むものです。

車輌に付いている「警笛」は、その役割を果たす為にも遠くまで聞こえ、更に人間の耳はおろかマイクにも集音され易いので、特に注意を促しているのです。


メタルヒーローやスーパー戦隊や仮面ライダー、不思議コメディシリーズ等は、前途したように特撮部分の無い本編部分も含めて全編「アフレコ」でしたから、アフレコルーム以外では縁遠いシステムでしたが、他の「同時録音」の作品では当たり前のシステムでした。

ご丁寧に製作進行や助監督が、セットの通用扉を開けて「本番で~す!」と叫ぶ作品もありました。


さて、30年前には東京撮影所には最低2ヵ所にアフレコルームがありました。

ひとつは、技術部の建物だったと思います。

2階にあって、周りに車が通っても振動は来ませんので安心して録音できました。

そして、重い完全密閉式防音状態の扉と壁で守られた完璧なアフレコルームでした。


そして、もうひとつは、テレビプロの製作ルームの並びの角に有りました。

こちらは1階でしたし車の往来も頻繁な場所でしたが、アフレコ作品は全てこのアテレコルームで「アフレコ」を行っていました。

前室に入るにも外扉と密閉防音の内扉があり、そこから更に完全防音されたアフレコルームに入るには、技術部棟の程では無いにしても充分重い密閉防音扉がありました。

良く声優さん達のアフレコ風景を映像で見る時に映っている、ガラスで仕切られた防音録音室と前室兼調整室で構成されていました。


録音室にはスクリーンが張られていて、そこに映像が流され、その映像に合わせて録音するのです。

昔はフィルムでしたから文字通り映写していましたが、今はデジタルですからモニターに変わっています。

勿論、30年程前当時のアフレコルームは既に無く、新しい音響機材を取り揃えた「赤ランプ」も必要ないアフレコルームや音響ブースが「デジタルセンター」に集約されています。


●アフレコ参加メンバー

「アフレコ」に参加するスタッフは、基本的には監督、記録、録音、セカンド助監督ぐらいで、セカンド助監督が進行させます。

基本的にはスタッフ達は全て録音室内には入らずに、前室で録音室の中の人達にマイクを使って指示をしていました。

そして、実際に声を発する俳優陣と声優陣が、「アフレコ」をするシーン毎に録音室内に複数人数が入り、同時に録音をしていました。


流石にコロナ禍の影響下だった頃には、録音室内に1名しか入れずに録音したのだと思われます。

スタッフの居る場所はまだ換気出来ますし、セカンド助監督を除く最低3人で…最悪、監督と録音部の2名だけでも作業は可能です。

但し、効率は無茶苦茶悪かったと思われます。


密閉空間であればこその仕方ない処置であったとはいえ、更に30年程前に比べて「アフレコ」がし易い「同時録音」であったとはいえ、スケジュールが厳しい特撮作品では大変であったと容易に理解出来ると言えるでしょう。


●アフレコ台本

「アフレコ」には「アフレコ用台本(もしくは、アフレコ台本)」という通常の台本とは違った台本が用意されました。

これは、撮影時に記録さん(=スクリプター)が記録したセリフを基に、撮影台本とは違うフィルムに映した映像に則したセリフで台本を作り直したモノでした。

このアフレコ台本を手にするのは、本当に関係者だけなので配布冊数は少なくなりますが、基本的には製本されて配布されていました。

しかし、時間が無い場合等では製本版ではなくてコピーが配られる時もありました。

その最たるモノは「予告用ナレーション台本」です。

とは言ってもコピー用紙1~2枚程度の紙切れでした。

基本的には他の「アフレコ」の際に予告のナレーションも録音するので、予告用ナレーションのセリフもアフレコ台本に記載するのですが、予告を作成する助監督がナレーションのセリフの入稿を落とすと、アフレコ台本には記載されずに、

予告ナレーション「━━━━━」

と表記さるだけとなります。

過密スケジュールで撮影が続いている場合等では、たまに有りました。

因みに、「アテレコ」が含まれていても「アテレコ」は基本的には「アフレコ」の範疇なので、「アテレコ」も「アフレコ台本」に記載されていました。


●プレスコ

プレスコアリングの略で、映像よりも前にセリフを録音してしまう作業のことです。

映像よりも前ということで、口元を合わせることはほぼ不可能です。

ナレーション録りの際や、俳優さんや声優さんのスケジュール上の都合で仕方なく行われる場合がありました。

但し、映像よりも前の録音の為には撮影台本が完成していないと無駄となる可能性もありました。

まあ、ほとんど見かけません。


●オンリー

サウンドオンリーの略で、撮影現場で周りの雰囲気を録音する場合や、俳優さんに撮影現場でセリフを喋ってもらい録音する場合等が有りました。

大抵は、同時録音の作品に多くみられる「簡易アフレコ」です。


以下が主だったオンリーになってしまう状況です。

「撮影現場で録音マイクがセリフを拾える位置にセッティング出来なかった場合」

「俳優さんが微妙にセリフを間違えているが、芝居をやり直す程のことでもない場合」

「録音の鮮明さが足りないが、芝居をやり直す程のことでもない場合」


フィルム撮影では本当に録音(=サウンド)オンリーですが、ビデオ撮影やデジタル撮影では録音と映像が同期していますから、映像も一緒に撮ることになります。


余談ですが、その際のカチンコのボードナンバーは「SO(=サウンドオンリー)」を付けて「SO-S54-32-1」等となりました。「SO-1」とかだけでも良いと言われる記録さんもいらっしゃいました。


そんな映像も同時収録する場合でも「オンリー」としての言い方に変わりはありませんでした。

通常は、撮影現場のその場でスタッフに手を止めさせ、更に口も止めさせて収録してしまっていました。

それは、出来るだけ以前に録音した音源の周囲の音と繋がるようにする為でもありましたし、俳優さんとしても気持ちが作りやすいだろうという思いからでもありました。


●あとがき

「アフレコ」は、少なくとも私が経験した刑事ドラマや2時間ドラマ、教育映画の撮影では殆ど存在しませんでした。

あっても「オンリー」ぐらいでした。

それに比べて本文中にも書いた通り、フィルム撮影時代の特撮作品の撮影現場には録音部もつかず、音声の同期も取らずに「アフレコ」をするのが当たり前でした。

ですから、正直言えば、スーツアクターさんが面の中で喋っている言葉も聴き取り辛かったのですが、スーツアクターさんによっては練習中などは「早くしろよ!」「こっちは早く脱ぎたんだよ!」とか言いながらアクションをこなしているのも薄っすら聴こえる事も有りましたが、そんなモノはマイクすら無い撮影現場では一部のスタッフ以外は拾う事すらありませんでした。

勿論、本番ではキチンとしたセリフでアクションをされていました。

現在では、同期を取りながら同時録音して、その音声に役者さんの声を「アフレコ」するという手法が取られているようですから、迂闊な事は言えません。

しかし、この同時録音後の「アフレコ」というのは、少なくとも「アフレコ」をしなければならない役者さん達にとっては「指針」となるべきスーツアクターさんのセリフが聴こえて来ますから、無声映画の様な映像に「アフレコ」するよりは格段に楽になっているのではないかと思われます。


それでも、撮影方法が変わろうともスーツアクターさん達の身体の動きや首の動きでセリフや感情を伝えようとする仕草は、何ら変わる事はありません。

それは「アフレコ」が容易になるからという理由だけではなく、スーツアクターさん達も「役者」だからといった理由からでもあるのです。

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