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余り語られない撮影所のあれこれ  作者: 元東△映助
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季節先余り語られない撮影所のあれこれ(177) 「季節を先撮りする」

余り語られない撮影所のあれこれ(177)

「季節を先撮りする」


●撮影時期

どんな映画やドラマであっても、撮影して直ぐに公開されたり放送されたりする事はありません。

ライブ中継やライブ撮影という撮影して即放送や即配信といった特殊な場合を除いては、撮影して編集して公開や放送を待つというプロセスが存在します。

その撮影時期は、公開や放送時期から外れてしまうことが「当然」です。

映画や2時間ドラマ等は、撮影と公開や放送が数ヶ月や1年以上はなれてしまいます。

比較的放送時期が離れていないとされる1年間を通して撮影と放送を繰り返す「特撮番組」に於いてでも、2ヶ月程の「タイムラグ」が存在します。

2ヶ月程度の「タイムラグ」は、季節的には次の季節に差し掛かってしまうと思えるほどの差になる訳です。

にも関わらず、放送時期にはその「タイムラグ」を感じさせないようにと撮影時期に工夫を凝らしていました。

今回は、この「タイムラグ」を文字通り「季節を先撮り」していると称して、撮影現場の工夫を語ってみたいと思います。


尚、例によって情報のほとんどが約30年前です。

今となっては変わっていることや、無くなっていることもあります。

また、記憶の内容が30年の間に美化されたり劣化してしまっているものも存在します。

その点をご理解の上、あらかじめご了承下さい。

そして、ここでの意見は、あくまでも個人的な意見です。

東映をはじめとした各社や映像業界の直接的な意見ではありません。その点を予めご理解ご了承下さい。


●季節感の注意点

季節感に関しては、画面から感じ取れるモノが全てです。

確かに「音楽」や「効果音」やキャスト達の「セリフ」といった「音」による季節感もありますが、「映像的」な表現は、まさに「百聞は一見にしかず」といえるでしょう。

そんな「映像的」表現における注意点があります。


◯服装

先ずはキャスト達の「服装」です。

これはレギュラーキャストのみならずエキストラに至るまで重要になってきます。

何故ならば、夏場の設定にセーターを着たエキストラはおかしいですし、その逆もしかりだからです。

「着たきり雀」と呼ばれるずっと同じ着衣を来ている特撮番組のレギュラーキャストみたいな存在は仕方ないとしても、普通は「季節感」に合わせた「服装」に変えて行くのが一般的です。

しかし、特撮番組でなくても刑事ドラマなどはレギュラーキャスト陣の男性は夏でもスーツ姿ですし、ゲストキャストやエキストラ達との「季節的なギャップ」を感じさせないようにしなければなりません。


〇小道具

「季節感」を感じさせるのは、「服装」だけとは限りません。

暑いときには「うちわ」や「扇子」、更に「扇風機」や「クーラー」といった小道具を使い「暑さを和らげる」表現をしてみたり、「ハンカチ」や「タオル」といった小道具で「汗を拭く」等の暑さを感じさせる演技的小道具が用意される場合があります。

寒い時も「暖をとるモノ」として「カイロ」や「ストーブ」「焚火」「ファンヒーター」などが小道具で用意される場合があります。


〇照明

「季節感」を照明で表現する場合もあります。

「暑い日」の場合は照明を強くし、春や秋では「柔らかい日差し」の照明表現をします。

つまり、照明はその明るさの度合いや柔らかさによって「温度」さえも表現しているのです。


〇演出

簡単な話として「セリフ」で「暑い」「寒い」と言わせるだけで「気温」や「季節感」をストレートに表現する場合もあります。

勿論、「汗を拭う」「体を震わせる」などといったボディランゲージでも「気温」を表す場合もあります。


◯生理現象

また、キャストで言えば「白い息」という物理的にいかんともし難い現象も「季節感」を表現する上では厄介です。

寒い冬の日以外では「白い息」を吐きながらセリフを言うキャストというのは、冷蔵庫や冷凍庫の中だけぐらいしか見られない現象です。

「白い息」を解消する方法としての定番として「氷を口に含んで口内温度を下げる」という方法があります。

まぁ、外気温が低いままだとセリフを言う度に「氷を含む」行為を繰り返して貰わなければなりません。


●季節表現

細かな変化に注意しながら「先撮り」をする方法を以下に並べてみます。


〇冬に春を撮る

先ずは衣装に注意しなければなりません。

撮影時期が冬なだけに、キャストには厚手の長袖の服やコートの類は着せられません。

背景として落ち葉の多い場所や、ましてや「雪」がある背景でのロケーションはできません。

百歩譲って本当に春に「雪」が降っていたとしても、「雪」=「冬」のイメージが強過ぎるために「春」のシーンとして「雪」は使えません。

そして、「白い息」も注意しなければなりません。


〇春に夏を撮る

この場合も先ずは「衣装」です。

「夏」としては、基本的に長袖は難しいです。

スーツ姿の刑事ドラマとしても上着を脱いで腕に持つといった表現で「夏」の暑さを表現します。

勿論、汗をかくこともない気温であっても、スプレーで汗を作り出して、それを拭うという演出さえもしていました。

中には「水に飛び込む」といった演出で「夏」を表現しようとする場合もありますが、春ではまだまだ寒いです。


〇夏に秋を撮る

ここも「衣装」として暑くとも長袖の衣装を着なければならない事になります。

本当に暑い場合でも、「秋」ですから「汗をダラダラ掻く」ということもできず、撮影前には「汗を押さえる」と称してメイクさんがキャストの顔を中心に汗を拭き取る事が求められます。


〇秋に冬を撮る

比較的楽な先撮りです。

秋より一段厚着になりますが、極寒の地の設定でも無い限り余り気にする程でもありません。

しかし、ロケ地での「紅葉樹」にだけは「季節感」を「秋」に引き戻してしまう効果しかありませんから、注意が必要です。


〇冬に夏を撮る

季節を真逆に先撮りする事は、本当に大変な事になりますから、出来るだけ避けて撮影されます。

キャスト達にも寒い冬場に薄着になって貰わなければならず寒い想いをさせます。

極端な状態になれば、寒さによりセリフが震えてしまうという状況にもなります。

ロケーションとしても「落葉樹」の枝だけになってしまった「裸の木」は避けた方が良く、緑の木が欲しいならば「常緑樹」を探さなければなりません。

また、大量の「落ち葉」も「季節感」を「秋・冬」に持って行かれますから注意が必要です。

更に、街行く人達を遠景でも撮影すると季節がバレバレですからそれも出来ません。

まだ季節をひとつ進めたぐらいならば、街行く人達の服装も大丈夫かもしれませんが、外気温の変化によっては「季節感」が一気に変化しますから、安心してもいられません。

また、「白い息」や「鳥肌」といった避ける事の出来ないリスクも存在します。

また、照明も強い状態でなければ「夏」の「季節感」を出す「光量」と「コントラスト」にはならないでしょう。


〇夏に冬を撮る

真逆の季節を撮影する際に、夏に冬の撮影をするのは冬に夏を撮影するよりも少しだけマシです。

暑い中で厚着をする事になりますから、暑さ対策と汗対策が必須になります。

ロケーションも特徴ある「紅葉樹」を避ければ、緑の濃い樹木としては気にもされないでしょう。

まぁ、「落ち葉」を大量に用意しなければならなくなるかもしれません。

「落ち葉」というアイテムは直感的に「秋・冬」に結び付きますから、「秋・冬」を表現するには必須アイテムとなります。

勿論、ロケーション先での人物が映り込む事は、あまりにも服装が違う可能性が高い為に絶対に避けなければなりません。

照明は「コントラスト」を弱める工夫が必要となります。


◯春に秋を撮る

◯秋に春を撮る

気温的に余り変わらない「春・秋」は、服装的には問題はありませんし、「白い息」や「汗」に悩まされる事もありませんからキャスト的にも比較的楽な撮影となります。

お互いの季節にしか咲かない「花」や「紅葉樹」に注意しておけば、ロケーションも比較的楽です。

逆に「春」や「秋」を象徴したいならば、「桜の花びら」や「落ち葉」といった「季節を象徴するアイテム」が必要となります。


●季節のない撮影

「季節感」を度返ししたというか、「季節感」そのものが必要無い撮影というモノも存在します。

日常ドラマであっても「季節感」度返しの撮影がされる事はありますが、そんな場合でも「春」や「秋」といった「中間的な季節感」で撮影されるのが一般的です。

しかし、鼻から「季節感」そのものを度返しした「SF」や「ファンタジー」といった設定であれば、服装はおろかどんな状況でも撮影が可能となります。

それでも、基本的には「中間的な季節感」と似た感覚で撮影は進められます。

だからといって「ロングコート」や「タンクトップ」といった服装が同居もします。

楽な様ですが、「気温」や「光量」としての指針がありませんから、世界観に合っているのかという確認が必要となります。


●時代劇の季節感

「夏」や「冬」、「暑い日」や「寒い日」といった設定が付与された脚本でなければ、時代劇の「季節感」は「中間的な季節感」で撮影が進められます。

服装も「合い服」という「春・秋」の服装が選択されます。

ですから、時代劇の冬場の撮影の際にはキャストは寒さとの戦いです。

勿論、服の内側にはカイロが仕込んであったり、手製のカイロ入れを自作されている方もいらっしゃいます。

それでも時代劇の撮影現場はロケが多く、ロケ地に着くとスタッフ用とは別にキャスト用やエキストラ用のストーブ等の暖を取るモノが用意されていました。

夏場の撮影は比較的楽です。

近年ではハンディファン等を自前で用意されているキャストさんもいらっしゃいます。

しかし、時代劇ですからハンディファンを持ったまま写る訳には行きませんし、音の鳴るモノ自体、同時録音の作品では「御法度」です。

つまり、「音の鳴る道具」は、撮影現場に持ち込まれても「本番」の最中はスイッチをOFFにする事が常識となっています。

それが「暖を取る」道具でも「涼む」道具でも容赦はありません。


●あとがき

連続ドラマの台本には、特撮作品であろうと刑事ドラマであろうと必ず「放送予定日」が印字されていました。

これは、単に出演者やタイアップ先に放送予定日を知らせるだけではなく、衣装部や照明部や小道具そして演出部のスタッフにとっては何時ぐらいの時期の季節感でキャスト達の身の回りの準備をしなければならないのかという目安となるモノでもありました。

まぁ、そんな深い意味で書かれたモノではなかったでしょうが、携わる者にとっては重要な情報でした。

単発の2時間ドラマやスペシャルドラマ等では「放送日未定」の作品も少なからずありました。

そんな時でも殆どの場合は3ヶ月から4ヶ月程先の放映となる訳ですが、季節感があまりにも進む場合は、スタッフが話し合って「中間的な季節感」で撮影を進めるのが一般的でした。

とある2時間ドラマで、放映日がズレて半年先になった時には、幾ら「中間的な季節感」としていても茶ノ間の臨場感は皆無だろうなぁと思ったものでした。

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