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余り語られない撮影所のあれこれ  作者: 元東△映助
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余り語られない撮影所のあれこれ(173) 東西撮影所のレギュラーセット

★余り語られない撮影所のあれこれ(173)

東西撮影所のレギュラーセット


●セット撮影

撮影所内のステージセットで撮影する事を「セット撮影」と呼ぶのですが、この「セット撮影」には通常はベニヤ板等を駆使して大道具さんが作った「壁」や「床」が「セッティング」=存在しています。

しかし、その殆どが撮影シーン毎に解体され、他のシーン様のセットへと組み換えが行われます。

そんな「セット」を毎回組み換えずに使用する場合があります。

それが「レギュラーセット」です。

今回は、東映の東京撮影所と京都撮影所に於ける「レギュラーセット」に関して考察してみようと思います。


尚、例によって情報のほとんどが約30年程前です。

今となっては変わっていることや、無くなっていることもあります。また、記憶の内容が30年の間に美化されたり劣化してしまっているものも存在します。

その点をご理解の上、あらかじめご了承下さい。

そして、ここでの意見は、あくまでも個人的な意見です。

東映をはじめとした各社や映像業界の直接的な意見ではありません。その点を予めご理解ご了承下さい。


●レギュラーセット

通常「レギュラーセット」とは、連続ドラマが撮影されている期間に、毎回同じ「セット」での撮影が行われる場合には、その「セット」を組み換えずにそのまま置かれます。

その状態の「セット」を「レギュラーセット」と呼称します。

そして、そんな「レギュラーセット」を解体せずに残して置ける「ステージセット」自体を「レギュラーセット」として指す場合もあります。

但し、「レギュラーセット」は「ステージセット」内全体に「セット」を組むとは限りません。

「ステージセット」内の全体に「レギュラーセット」を組む場合。

「ステージセット」内の一部に「レギュラーセット」を組んで、「ステージセット」内に「レギュラーセット」以外の「セット」を組む場合。

様々な状況があります。


「レギュラーセット」といっても、実態は通常の「セット」と代わりはありません。

ベニヤ板の裏面の周囲と中央部分に補強用の角材を打ち付け、表面に化粧板等で壁や塀等の装飾を施し、あたかも内装壁等のような様相で映像上で“それらしいモノ”に見せるようにしています。

これを複数枚組んで「セット」にして撮影します。

勿論、屋根もありませんし、部屋の天井もありません。

ですから、撮影する際の画角として部屋の天井が映るような画角は選択出来ません。

パネル状のベニヤ板を釘で打ち付けて組んでいるだけですから外す事も簡単に出来て、いくら「レギュラーセット」といえども空間的に邪魔になれば、一部や全部を外して「ステージセット」内に撮影空間を作ることも可能でした。

この外し作業は撮影する際にも有効で、カメラポジションによっては壁が邪魔になる場合がありますから、そのような場合には一部の壁を外してカメラポジションを確保して撮影します。


つまり、「レギュラーセット」であり通常は解体しない「セット」であったにしても、全く解体しないとは限らないという事です。

撮影回数が比較的多い「レギュラーセット」は、基本的には直ぐに撮影に入れるように常時準備してあるという「セット」です。

解体時間や組み替え時間を減らす為にも、仮に撮影で解体されたとしても基本的には「レギュラーセット」への復旧がなされるようになっています。


●東京撮影所のレギュラーセット

私が東京撮影所に居た90年代初頭の時代には、仮面ライダーシリーズの制作はされておらず、代わりに「メタルヒーローシリーズ」、「スーパー戦隊シリーズ」、「不思議コメディシリーズ」といった特撮作品達と、「はぐれ刑事純情派」とか「HOTEL」が連続ドラマとして制作されていました。

そして、それぞれの作品に対して「レギュラーセット」が組まれていました。

つまり、少なくとも「メタルヒーローシリーズのレギュラーセット」「スーパー戦隊シリーズのレギュラーセット」「不思議コメディシリーズのレギュラーセット」と「HOTELやはぐれ刑事純情派のレギュラーセット」という4つの「レギュラーセット」が組まれたステージセットが存在していた事となります。

「メタルヒーローシリーズ」と「スーパー戦隊シリーズ」は、本部や基地といった「レギュラーセット」でしたし、「不思議コメディシリーズ」は、主人公の一軒家の「レギュラーセット」でした。

「HOTEL」は支配人室等の「レギュラーセット」でしたし、「はぐれ刑事純情派」では定番の刑事課の部屋と取調室、そして眞野あずささんがママの高級バーのお店のカウンター、更には安浦刑事の自宅アパートが「レギュラーセット」でした。


本部や基地といった特撮作品「レギュラーセット」の多くには「窓」が存在していません。

外部の時間的変化や

流石に「不思議コメディシリーズ」のような一軒家の「レギュラーセット」等では「窓」が存在しますが、窓にレースカーテンをして外部が見えにくいように対策をしたり、窓外にブロック塀等の「セット」を組んで、敢えて外部が見えないような状況にしています。


これに対して、「はぐれ刑事純情派」や「HOTEL」のような高層階の刑事課の部屋やホテルの客室の「セット」の場合では、窓外が存在しなければ不自然となりますから、窓外の映像が必要となります。

「ロケセット」といわれる撮影所外の建物を借りて撮影する場合等では、窓外は「実景」が使われる場合が基本ですが、「ステージセット」ではそうはいきません。

現在では、CGが安価に違和感なく合成する事が可能となってきましたから、窓外の景色の合成も楽になってきました。

しかし、30年以上前であればCG合成も稚拙で高価でしたから使用されていませんでした。

そんな場合は、窓外に景色を写した写真を引き伸ばしてパネル状にして設置して、あたかもその窓の外の景色が映っているという映像を作り上げる訳です。

更には、窓にブラインドカーテンを取り付けることで、はっきりと窓外の写真を見せない事で誤魔化していました。

また、「HOTEL」の「セット」の場合、夜景用に電飾を仕込んだ夜景の写真パネルが用意されていました。

因みに夕景は、昼間の写真パネルに照明によって夕景の光を作り、撮影していました。


このように、窓外が映り込む「レギュラーセット」では、何かと難しい準備や誤魔化しが発生してしまいますから、基本的には窓を作らないかカーテンや窓外に塀や庭木等で誤魔化して撮影している訳です。


●京都撮影所のレギュラーセット

京都撮影所にも連続ドラマとしての時代劇は存在します。

しかし、「番組毎のレギュラーセット」が作られる事は殆どありません。

何故ならば、京都撮影所の「ステージセット」には、その「ステージセット」毎に特徴的な「レギュラーセット」が既に作られていて、番組毎ではなく「場面毎」に「レギュラーセット」を使い分けるという方法が取られているからなのです。

つまり、東京と京都では「レギュラーセット」という言葉の「内容」が違っているのです。


京都撮影所の「ステージセット」では、建て込みの仕方自体が違っています。

基本的に「ステージセット」は、ベニヤ板による組み込みではなくて、「ステージセット」内に建物を建ててしまっているのです。

ですから、京都撮影所の「ステージセット」の場合は、建て込まれた「セット」に屋根は勿論天井も存在します。

「ステージセット」内の中庭から見上げれば、屋根瓦の端までが撮影可能なぐらいで、「ステージセット」の建物自体の天井も高く、東京撮影所の「ステージセット」の建物とは比べ物にならないぐらいになっています。


時代劇では、建物自体を撮影する場合に撮影出来る為の時代的な制約というのが存在します。

この為の「ロケセット」を借りる場合がありますが、それは「外観」に関する場合が多く、屋内での撮影が許される場合は稀です。

更に外観も下町とかになれば現存する場所は皆無ですから、そこは「オープンセット」である「太秦映画村」等の時代に合わせた建物が建っている特別な施設を使用した撮影となります。

長屋の一室等もこの「オープンセット」を使う場合が多いのですが、「ステージセット」内に組む場合もあります。

それでは、「ステージセット」内に建て込みされた「レギュラーセット」はどういった場面で使用されるものかといえば、「武家の建物内」というのが基本となります。

大名屋敷である上屋敷、下屋敷、武家の屋敷が、そこに住んでいる人物の経済状況を考慮して建て込まれて用意されるのです。

汎用性の高い「武家の建物内」以外の「レギュラーセット」は余り無く、江戸城内の将軍との謁見の間とか大名の殿様が座っていそうな広い畳敷きの部屋などは、その都度建て込まれて用意されます。


連続時代劇であり、何回も同じ室内が撮影される事が分かっているのであれば、常時建て込まれている「レギュラーセット」として用意されます。

主人公が住む長屋の部屋とか、主人公達が殆どを過ごしている風呂屋の2階の部屋とかといった、特撮番組に於ける「基地」や「拠点」となる場所が「レギュラーセット」と成る訳なのです。


●建て込み

「レギュラーセット」の様な特別なセットの場合は、美術さんがデザインし、大道具さん達が建て込みを行います。

「秘密基地」などだと電飾が有ったりしますから、それも大道具さん達の手で用意されています。

勿論、解体するのも大道具さんのお仕事ですが、手が足りない場合は美術さんや我々助監督も解体をお手伝いしました。


「ステージセット」の建て込みは、基本的に他のスタッフがロケ撮影に出ている間か撮休に入っている間に為されていました。

そして、「レギュラーセット」をはじめとした「ステージセット」での撮影の際には、大道具さんは「セット付き大道具(略して、セット付き)」という名前に変わり、「ステージセット」に張り付くのです。

そして、「ステージセット」でのパネル状のベニヤ板の壁を外したり取り付けたり、セット内の部分的直しや電飾がある場合にはその配線から装置のセッティングも行うのが「セット付き」の仕事となります。


大道具さんは、他のスタッフが「ステージセット」や「レギュラーセット」に入って撮影する時にしか撮影隊のスタッフの前には出て来ません。

たまにロケセットに先行して入ってセッティングされている場合もありますが、それは本当に稀な状況なのです。

そう言った意味では、大道具さんは縁の下の力持ちであり、「レギュラーセット」を含めて「ステージセット」で撮影スタッフがスムーズに撮影を進行する為に居なくなってはならないくらいに大切なスタッフなのです。


●あとがき

纏めると、東映に於ける「レギュラーセット」は東京撮影所と京都撮影所では意味が違っているという事です。

東京撮影所では「連続ドラマに於いて頻繁に使用されるステージセット」の事であり、京都撮影所では「作品の設定上の建物や部屋の種類よって分けられたステージセット」の事を意味する訳です。

この様な「レギュラーセット」は、制作会社が自社専用の「ステージセット」を多く抱えていなければ、基本的には組まれません。

しかし、制作会社が「ステージセット」を持っていなくとも「レギュラーセット」を組む場合もあります。

あくまでも「一時的なレギュラーセット」ではありますが、「ロケセット」として何処かの建物や部屋を「一時的なレギュラーセット」として組んだり、「ステージセット」を持つ制作会社に借りた「ステージセット」に「一時的なレギュラーセット」を組む場合などがあります。

勿論、この「一時的なレギュラーセット」は連続ドラマの為のモノではありません。

スペシャルドラマやVシネマ、そして映画などの場合の「一時的なレギュラーセット」なのです。

つまり、ドラマや映画内に頻繁に登場する部屋などを「一時的なレギュラーセット」として組んで、数日から数週間の撮影に使用するのです。


連続ドラマに於ける「レギュラーセット」は、実家の様な存在です。

「レギュラーセット」に入れば、帰ってきたと思うと共に精神的にも安心感も出てリセットされる気持ちにすらなります。

そんな「レギュラーセット」もドラマ自体が終われば解体されます。

基本的には二度と組まれる事はありません。

しかし、刑事ドラマの刑事課の部屋といった他の作品に応用が利く「レギュラーセット」は、完全に解体されずに遺される場合もあります。

また、特撮番組などに於いては、数ヶ月後までの間に他の作品とのコラボをする場合も有ったりしますから、少しの期間は保管されている場合もあります。

それでもいつかは完全に解体される事になります。

特徴的な「レギュラーセット」であればあるほど完全に解体されます。

では、数年後に当時の「レギュラーセット」をもう一度組もうとしても組めないのかと言われれば、そうではありません。

「レギュラーセット」には、組まれる際に「デザイン画」か描かれ「図面」が引かれますので、それらが基本的には遺っています。

更に、最初に組まれた際に詳細に「写真」が撮られています。

これは、ドラマ撮影中に一時的に解体されても元に戻す事が容易になるようにする為の「原状復帰」写真という訳です。

これらの資料を元に、新たな素材にはなりますが往年の「レギュラーセット」を復活させる事も不可能ではないのです。

しかし、周年記念でコラボした作品でも昔の「レギュラーセット」を再度組んだ例はほぼ有りません。

まぁ、それが今後使われるのかどうかも関わってきますが、単発作品の予算としては再度「レギュラーセット」を組むのは難しいと言えるでしょう。

映画でも難しいかもしれません。


現在ですと「相棒」や「科捜研の女」の「レギュラーセット」は、番組が終わっても次のシーズンがある可能性があるので、「レギュラーセット」に使用された大道具や装飾品としての小道具達も丁寧に一時保管されている事と思います。

そして、再度「レギュラーセット」が組まれてセット内に足を踏み入れた時に、キャストもスタッフも「懐かしい」という望郷の念にも似た感覚になり、「帰ってきた」と思うのです。

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