余り語られない撮影所のあれこれ(16) 台本・脚本・シナリオ
★「台本・脚本・シナリオ」
脚本家の上原正三先生の訃報には驚きました。
あの方はレジェンド級でした。
東宝・円谷の枠だけではなく東映、ピープロ、現代企画の特撮作品を手掛け、東映アニメーションにまで手を差し伸べて頂きました。
私が子供時代に観た殆どのテレビ番組は、どこかに上原正三の名前が脚本として観ることのできるものでした。
今回は、追悼の意味を込めて「台本・脚本・シナリオ」のあるあるを書き綴ってみようと思います。
●「台本」と「脚本」と「シナリオ」の違い
結論から言えば、違いはありません。
「台本・脚本・シナリオ」共に相互に言い換えられるものです。
但し、使用時や使用される目的によっては、呼び方が固定されます。
例えば「脚本家」とは言いますが、「台本家」とか「シナリオ家」とは言いません。ですから、映画やテレビ作品には「脚本」としてテロップされます。
しかし、作品のイメージによっては「シナリオライター」と表記されたりもします。
基本的には「台本」は文字通り本の状態になったものそのものしか指しません。
でもこの「台本」を「脚本」や「シナリオ」と呼ぶ場合もあります。
「脚本」は、本の状態も指しますが、本になる前の紙の状態でも指しますし、紙でもないシノプシス状態のアイデアですらも「脚本」と呼ばれる場合があります。
そして、業界的には「本=脚本」です。
「シナリオ」は、どの状態の時にも呼ばれますが、道筋という意味合いを含んでいるため、物質的よりも精神的なイメージ等で、作品の流れをいう場合が多いように思われます。
●「台本」
一般的に「台本」と呼ばれる本には、作品内で表現される事柄が時間順に簡素に記載されています。
ですから、作品の関係者が内容を共有する為に使用されるものであって、関係者以外には手元に渡らない本なのです。本来は…w
台本には、表紙にタイトルと放送局と放送予定日時(未定の場合もあります)、そして連続ドラマ等では話数とその話のサブタイトルも入ります。
サブタイトルは決定でない場合もありますが、その場合はサブタイトルに(仮題)の括弧書きが付きます。
連続ドラマでは(仮題)表記は、サブタイトルにたまに付く程度ですが、単発の映画やスペシャルドラマのメインタイトル等は、メインタイトル自体に(仮題)がメインタイトルの右下等にフォントを小さくして表記されたりもします。
大抵は、「準備稿」と呼ばれる台本にみられます。
「準備稿」は、企画書等を元にしてプロデューサー等の会社の製作サイドと監督等の現場スタッフサイドの会議をします。その時に脚本家が同席したり、会議で決まったコンセプトやシノプシスを渡されて脚本=台本を書きます。その第一段階が「準備稿」です。
「書き直される可能性がありますが、大筋ではこんな内容です」という宣言みたいな台本ですww
連続ドラマでは「準備稿」が作られること自体が稀です。時間に追われる連続ドラマにおいて、現場に「準備稿」が渡ることは「準備稿=決定稿」と思わないといけないくらいです。
中には「準備稿」「準備稿②」「準備稿③」「決定稿」「決定稿(改訂版)」なんていう台本もありますww
台本自体は、表紙・裏表紙の紙だけが色違いで中の文章部分は白い紙で、「決定稿」以降はオフセット印刷で無線綴じ製本されます。作品によっては「準備稿」から無線綴じ製本されますが、平綴じや中綴じが主流でした。
あくまでも30年前ですので、今では違っているかもしれません。
連続ドラマ等では、タイトルロゴが決まっている場合はロゴで台本タイトルが表記されます。
また、連続ドラマの台本の表紙の色は作品として統一されていましたので、色だけで作品を特定することすら可能でした。
肩表紙にタイトルは書かれませんが、表紙の色や帯状のラインを元に特定が可能でした。
連続ドラマの台本表紙は単色紙に単色印刷で、劇場版やスペシャルになると表紙の紙厚も厚く紙質も良くなり、ロゴもカラーになりましたww
●台本の映像化
基本的に脚本家やプロデューサーが撮影現場に出てくることは、殆どありません。
ですから、脚本家の顔を知っている現場の人間は、監督をはじめとした上層部のみで、ぺーぺー等は現場に脚本家やプロデューサーがやって来ても「誰だ?このオッサン?」ぐらいの感覚だったと思いますw
映像化においては、監督に一任されていることもあり、シーン事のカット割や撮影方法やアドリブも監督や撮影監督(=カメラマン)を中心にした現場上層部にかかっていました。
たまには、大御所の俳優さんや女優さんにカット割や撮影方法はもとより脚本の大幅な変更を強要される場合もありました。
その場合は、会社上層部や脚本家に脚本変更の断りを入れないといけなくなります。
役者さんが大御所すぎる程に変更が通ってしまったりしますww
通常のアドリブは、脚本の範囲内であることを条件に、現場のお遊び的に撮影されます。
現場で納得されていても、作品として使用されない(=カットされる)可能性もありますがww
カット割は、監督が事前にスタッフに説明して台本に書き込むか、現場で役者さん達を交えて説明しながらその場で台本に書き込むか、監督によって異なります。
最近は、絵コンテの専属さんがいらっしゃるようですが、昔は監督自らが絵コンテをあげていました。
絵を描ける監督限定ですがww
カット割のことに関しては、撮影関連のお題の時にでもまた…ww
●台本内の表記
台本の中には、スタッフとキャストの名前が、その役職と共に記載されていますが、30年前になると台本に記載されている方々が全て番組の放送時にテロップされることはありませんでした。
事実、私などは台本に名前はあってもテロップされていませんでしたw
今では、デジタル化の恩恵でスタッフとキャストは殆どテロップされています。羨ましい限りです。
スタッフとキャスト以外に製作サイドの方々の名前も並んで表記されます。
また、提供会社(=スポンサー)も表記され、番組や作品によっては提供会社の関連企業の情報も表記されています。
台本内の最重要な脚本部分は、シーンナンバーと場面名が表記されると共にト書きやセリフが表記されているのは、当たり前のことです。
●追記・改訂版
内容の大幅な追記や改訂版に関して、追加台本が発行される場合があります。
1ページものの短いものから、数ページに及ぶものまで様々ですが、そんなコピー用紙の束の様なものでも現場やキャストにしてみれば大切な台本でした。
台本は、基本的にスタッフとキャストや関係者にしか配布されませんでしたが、それ以上に印刷されている為に余る物もありました。
30年前は、それらの余った台本は、まとめて定期的に廃棄されていました。廃棄を手伝った際に許可を得れば頂くことも可能でした。今では、転売等があるので厳重管理されているのではないでしょうか…
おおらかな時代でしたww
もしも、使用済み台本が見られる機会があれば、台本内にセリフ等がマーカーで色分けされているのは、キャストさん。
カット割が細かく記入されているのがスタッフさん。
という違いが確認して頂けるでしょう。
今回は、冊子としての台本観点からみてきました。
この台本をどう撮影するのかは、また別の機会に説明しようかと思います。
●補足(投稿者さんより)
東映特撮の台本は21世紀になったあたりからナンバリングされて控えられてますよね。だから、出版社などはライターに原本を渡さずコピーでくれたりします。例えば渡したライターが誰かにあげちゃって、その第3者が売っても責任は出版社ですから厳重にしないと。管理不十分で叱られるわけです。