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余り語られない撮影所のあれこれ  作者: 元東△映助
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余り語られない撮影所のあれこれ(166) リテイクT-8「エキストラ」

★余り語られない撮影所のあれこれ(166)

リテイクT-8「エキストラ」


●リテイク

長く同じ様な事を書いていると、徐々に文章スタイルが変わって来ます。

わかり易く読みやすくと…

時には加筆修正を加えたり、再編集したりと様々です。

最近、アマゾンプライムで「宮松と山下」を鑑賞して、久しぶりに「エキストラ」に関わる映画を観たなぁと思い、今回は「その6『エキストラ』」をリテイク(=加筆修正版)として再編集して語らせて頂きたいと思います。


尚、例によって情報のほとんどが約30年前ですw

今となっては変わっていることや、無くなっていることもあります。また、記憶の内容が30年の間に美化されたり劣化してしまっているものも存在しますwwその点をご理解の上、あらかじめご了承下さい。

そして、ここでの意見は、あくまでも個人的な意見です。

東映をはじめとした各社や映像業界の直接的な意見ではありません。その点を予めご理解ご了承下さい。


●「エキストラ」とは?

エキストラ=英語表記は「EXTRA」です。

つまり、映像作品の役者の中でも通行人、群集など物語で重要性の少ない役を演じる出演者のことであり、必ずしも職業俳優が演じるわけではないので、「追加、臨時、番外」の意味であるエクストラと呼ばれます。

これが日本語として広まった際に「エキストラ」と呼ばれる事となった様です。

日本の映画業界では「エキストラ」以外に「仕出し」とも言われ、古くは「ワンサ」とも言われていた様です。


群集シーンなどの多人数が登場するシーンや、主役・脇役・端役などのキャスト以外で、クレジットがつかない無名の出演者は、通例「エキストラ」となります。

映画、ドラマ、コマーシャル、プロモーションビデオ、再現ドラマの出演などが、「エキストラ」の仕事に含まれます。


●「エキストラ」の重要性

「エキストラ」は、キャストの中では最も格下の存在と言えます。

役名も無く、セリフも基本的にはありません。

更に、映画の様な作品を除いて名前がクレジットされる事もありません。

ですが、背景を演出する上でメインのキャストのみの存在では作品は決して成り立たちません。

その上で「エキストラ」は、自然なリアルさなどを演出する上で無くてはならない重要な存在である事も確かなのです。

特に、「エキストラ」の方々のみが写される群衆シーンのような場合には、「エキストラ」は背景扱いではないために、その演技は極めて重要なのです。

尚、アニメ・声優・ゲームなど、声のみでの出演・演出を行う業界では「ガヤ」という呼称で呼ばれています。


●「エキストラ」の調達方法

「エキストラ」には様々な調達方法があります。

現在では、タレント事務所から調達する場合と、撮影現場などで公募する場合とがあります。

タレント事務所から調達する「エキストラ」には、一般に謝礼としてのギャランティー(=ギャラ)が支払われますが、公募では無償での出演となる場合もあります。

また、内部の撮影スタッフや制作部さん達が「エキストラ」として出演する場合もあります。

この場合は「内トラ(=内部エキストラの略)」と呼ばれます。

それぞれの調達方法をもう少し詳しくお伝えします。


◯タレント事務所からの調達

タレント事務所(俳優事務所)に頼んで調達する場合は、その事務所に「エキストラ」として登録している者から条件があう者をピックアップして希望人数分手配してもらいます。

人選はタレント事務所にまかされることが多いのですが、「エキストラ」であっても役柄に合わせた人選をする場合もあるために、タレント事務所から宣材の提出があったり、無名の役者やモデルからオーディションで選ぶこともあります。


俳優事務所に「エキストラ」として登録している人は、無名な役者や役者志望者だけではなく、テレビなどへの出演を趣味とする素人さんもいらっしゃいます。

そういった素人さんでも俳優事務所からの調達であれば、しっかりとギャラ(=報酬)が支払われます。

基本的には「エキストラ」は、台詞のないワンシーンだけの出演が殆どですが、現場で臨機応変に「エキストラ」に役を与える場合もあります。

俳優事務所からの「エキストラ」さん達は、基本的には役者さんなので、急に台詞を言って貰う場合すらもあります。


撮影現場には撮影現場独特の慣習などもあるため、素人といえどもある程度撮影慣れしている者の方が撮影効率があがる場合が多く、テレビドラマなどではこの俳優事務所へ依頼する方法で「エキストラ」を集めるのが一般的です。

「エキストラ」を俳優事務所から人数を多く雇った場合、まとめ役として撮影現場慣れしている責任者を含めて来て貰える場合があります。

その責任者とは「エキストラ」経験が豊富で俳優事務所の所属エキストラさん達の事も良く知っている方が派遣されます。

勿論、責任者の方も「エキストラ」の人数には入っていますから出演させても差し支えありません。

その責任者に台本を渡して、その日のシーンを綴った「香盤表」も渡し、今から撮影するシーンに最適な「エキストラ」さんを選出してもらう場合もありました。

「エキストラ」は助監督が管理するのが一般的でしたから、助監督にとっては、この現場で慣れ親しんだ顔の「エキストラ」さんが、まとめ役をして頂けるのは多いに助かりました。


多くの「エキストラ」を派遣して貰った場合は、「エキストラ」の協力会社として俳優事務所名がクレジットに記載される場合があります。


東映では2011年頃まで、東京撮影所内で「東映アカデミー」と呼ばれる俳優養成所が併設されていました。

「エキストラ」を調達する場合は、現在の様に俳優養成所にではなくて「東映アカデミー」さんに要請するのが一般的でした。

早朝からのロケでも所内の「東映アカデミー」前集合で集まって頂きましたし、老若男女の区別なく手配してくれていました。

勿論、少しセリフのあるちょい役の配役や子役の配役も「東映アカデミー」さんを通じてお願いしていました。

尚、現在では「東映アカデミー」さんは存在していません。


◯「エキストラ」の現地調達

映画作品など、比較的長期にわたって撮影が行われる場合などでは、俳優事務所調達の「エキストラ」を使うと宿泊費などの費用がかかることから、現地で一般公募による調達が行われることもありました。

ロケ地である地元側でも地元のイベントとして盛り上げたり、フィルム・コミッションなどのロケ誘致政策として地元自治体などが対応する場合もあります。

こういったケースでは個々の「エキストラ」の名前をクレジットに記したりして、映像作品の側がクレジットを通じて地元に謝意を表明する場合がありました。


地元の小劇団の俳優さんや地元の名士や親戚はもとより、多大な貢献をしてくれた会社や個人への返礼の意味合いで「エキストラ」参加して頂いたり、セリフのあるちょい役を振ったりしていました。

そういった大袈裟な事でなくても、ロケ地として提供して頂いた店舗やホテル・旅館のオーナーや従業員を、そのままの設定で出演して頂く場合もありました。

「エキストラ」出演となれば緊張してしまう素人の方々も、いつもと変わらない仕事の延長線としての「エキストラ」出演ならば、案外緊張なく自然な演技をしてくれるものなので、むしろ撮影側も積極的にお願いしていました。

それは、地元「エキストラ」としての地元感が半端ないのも要因ですから、監督によっては積極的に地元「エキストラ」を使う方もいらっしゃいました。


中には地元調達による俳優(と言っても殆どがちょい役)オーディションを開催して、主要キャストに絡む役をお願いする場合もありました。

セリフがある様な役の殆どは、地元劇団員等の経験者が起用されていましたが、あえて地元の劇団員が「エキストラ」のまとめ役をしてくれたり、役を得た地元出演者にトレーニングをしておいて頂ける場合もあります。


現在では「フィルムコミッション」と呼ばれる地元の協力者集団に「エキストラ」の手配をお願いしたりもできますが、「フィルムコミッション」なんてなかった昔は、地方ロケでの「エキストラ」の調達は難しく、市町村役場にお頼みして市町村役場の職員さん達や知り合いに声をかけて頂いて確保していました。


◯「エキストラ」の一般公募

俳優事務所に「エキストラ」を頼むには人数が多過ぎて、予算的に無理な場合等では、「エキストラ」を一般公募するのが現在の通例となっています。


しかし、ネット環境の乏しい昔は、この公募としての方法が限られてしまい、長期の募集期間を必要とするため、映画等の場合ぐらいしか一般公募はしていませんでした。

今はSNS上やネット上等で一般公募をしますから便利になったものですよね。

但し、この一般公募の「エキストラ」さん達は素人さんですので、基本的には演技の期待は出来ません。

勿論、無償=ノーギャラです。


テレビ局などが直接募集する場合としては、日当・交通費の出ない「ボランティアエキストラ」が増えてきています。

また、東映の「仮面ライダーシリーズ」「スーパー戦隊シリーズ」では「東映特撮ファンクラブ」を通した「エキストラ」の募集が行われていますが、こちらも「ボランティアエキストラ」の場合が殆どです。

勿論、一般公募のため、参加者の住んでいる場所はロケ地である撮影地近辺であるとは限らず、出演者や作品のファンなどが遠方からかけつけることも多くなっています。

だからこそ、作品自体やキャストに対してのファンが多い作品やシリーズでは、「エキストラ」を安価にかつ大量に調達できるというメリットがあります。

「ボランティアエキストラ」として、全くの無償の場合が殆どですが、お礼として作品のオリジナルグッズ(多くの場合は非売品)を記念品として配る場合もある様です。


テレビ業界も番組制作費を削減されている為、一般公募での「ボランティアエキストラ」で「エキストラ」を賄い、足りない部分を俳優事務所を通して「エキストラ」を手配するという状況が増えている様です。


余談ですが、「エキストラ」を日曜や祝日だけの楽しみに趣味として行っている方々もいらっしゃいます。

勿論、俳優事務所に所属してギャラを貰って「エキストラ」を趣味として行っている場合もあれば、一般公募の「ボランティアエキストラ」を趣味として行っている場合もあります。

間近でキャストさん達の仕事を見る機会も得ますから、お気に入りのキャストさんの出演されている番組を見つけて一般公募で参加するとか、好きな番組にキャスト達の一員として自分の出演している番組を誇りに思える様にする為に参加するとか、自分がその時にそこに居て撮影に参加していたという記憶と記録を遺すためにといった様々な理由があります。


◯「エキストラ」を内部スタッフから

ロケ先で急遽「エキストラ」が必要となった場合、現地での「エキストラ」調達も難しく、仕方なく内部の撮影スタッフや制作部さん等が「エキストラ」として出演する場合もあります。

この場合は「内トラ(=内部エキストラの略)」と呼ばれます。

勿論、仕事の延長線上なので無償の「エキストラ」となります。

撮影本番中に比較的必要頻度の低いスタッフが「内トラ」として声がかかります。

制作進行や進行助手、助監督、メイク助手や衣装部が良く声がかかっていました。

この場合も基本的に演技を求めませんが、内トラのほとんどが助監督だったり、どこかの部門の助手だったりすると、冷やかされたり無理無茶な注文や時として暴言が飛んできたりもしていました。


しかし、「エキストラ」にどういった事を望んでいるのかを良く理解しているのもスタッフですから、「内トラ」を選択するのは理にかなっていると言っても過言ではありません。

スタッフが手すきになってしまうデメリットはありますが、多数でなければ実際の本番撮影時には多くの支障は来さないのです。

スタッフからは不評は出ますが…


だからこそ、「内トラ」の第一候補はセカンドやサードの助監督となります。

特に「内トラ」にセリフを言わせるのならば尚更助監督となります。

「助監督は、全ての補助をするのが当たり前だ!何故なら、俳優も含む全ての部門の仕事を理解して初めて演出はできる!」と言われて使われました。


余談ですが、ご多分に漏れずサード助監督だった私も何回か「内トラ」として参加した事があります。

会社の建物外観を撮影するだけだったのに、出入りしている社員の「エキストラ」が欲しいとの監督の要望で、サード助監督の私とセカンド助監督とが「内トラ」として歩くという撮影がありました。

また、バスを借り切っての撮影の際に、キャストの座席の後ろが殺風景だとして、キャストの後ろの座席に背景として座らされたりといった撮影もありました。

殺された警備員役の「エキストラ」を、もう必要ないと翌日は呼んでいなかったところ、足元に転がっている死体役に必要だと言われて、代わりに死体役をした事もありました。

中には、キャストの刑事役がひとりで聞き込みしているのは寂しいのでは?と、急遽キャストの後輩刑事役でカメラに収まった事もありました。


●特殊な「エキストラ」

「エキストラ」でも特殊な「エキストラ」というのが存在します。

誰でも良い「エキストラ」の中でも、誰でも良い訳ではない「エキストラ」というある種のキャスティング扱いの「エキストラ」が存在するのです。


◯時代劇の「エキストラ」

時代劇の「エキストラ」の場合は、ほとんど素人での「エキストラ」を使いません。

髷や時代衣装等の特殊アイテムでの変身が必要だからです。

その髷や衣装も職業や背景設定によっても異なりますから、結髪さんや衣装さんには、予め職業と人数と台本が渡ります。

それにそって商人、丁稚、町人、農民、漁師、馬子、雲助などを用意します。

つまり、時代劇の「エキストラ」は、通常は俳優事務所へ調達した人達という事になります。


一般公募する場合には、大人数の集団シーンや集団シーンの地方ロケの場合があります。

当たり前ですが、こちらも衣装、小道具、髷等は人数分撮影隊が用意しなければなりません。


配役が無いという点では「エキストラ」扱いなのですが、殺陣をおこなう「切られ役」の方もいらっしゃいます。

殺陣は特殊ですが、アクロバットアクションを除いては「切られ役」の大部屋俳優さん達が行います。

ほとんど専門職ですが、基本は役者さんですから芝居も台詞もOKです。

昔は大部屋俳優さんも制作会社の専属契約を結んだ社員や準社員の方々でした。

しかし、現在では制作会社とは別の俳優事務所の社員であったり登録俳優という形になっています。


ここらは時代劇だけではなくて、ヒーロー番組等でアクションを伴った「逃げ惑う人達」「敵にヤラれてしまう人達」としてのJAEさん達も同じで、制作会社とは別の会社の社員や登録俳優が、アクションの専門職として撮影に派遣されているという状態になっています。


◯子役の「エキストラ」

ヒーロー番組とかでよくある怪人に襲われて、捕まっていた子供達とかも「エキストラ」の場合があります。

現在では、俳優事務所から子役を配役して貰ったり「子役エキストラ」を調達して貰ったりしている様です。

中には、子役専門の俳優事務所や劇団や俳優の養成所へのオファーというのもある様です。

30年以上前の東映の場合では、子役配役や「子役エキストラ」に関しては基本的には「東映アカデミー」に頼っていました。


ゲスト子役やOPに名前クレジットされた子役にはギャラが発生します。

役がついている子役は、演技が出来ることが前提ですから、「エキストラ」とは違いギャラは高いです。

「エキストラ」の子役は、演技を期待されていませんから、ピンキリです。

配役されていない「子役エキストラ」にしても、演技が上手な子供もいました。

だからこそ、この「エキストラ」の子役で現場慣れをしてもらったり、この現場で目に留まって、次回ご指名がかかったりするので、思っている以上に重要なのです。


役の付いている子役には、親やマネージャーが付き添いました。

「子役エキストラ」にしても手配した俳優事務所から「エキストラ」のマネージャー等がまとめ役として一緒に派遣されて来ていました。


子役や「子役エキストラ」出身で現在でも俳優を続けていらっしゃる方もいます。

子役から声優へ転進し、成功されている方もいらっしゃいます。


◯赤ん坊の「エキストラ」

子役は俳優養成所等に依頼すれば、現場に呼ぶことができますが、赤ん坊はそう簡単にはいきません。

子役や俳優の1~2歳の差はごまかせますが、赤ん坊だけは産まれて1年前後しか「赤ん坊らしい」被写体になりません。

ですから、なかなか条件に合う赤ん坊は現場に連れて来れないのです。

だから、時にはスタッフの赤ん坊をお借りする場合すらあります。

勿論、俳優事務所にお願いはしてみるのですが、スタッフの赤ん坊やお孫さんや親戚の赤ん坊、知り合いの赤ん坊まで、とりあえず探してみるという状態でした。


現場には「動物と赤ん坊には勝てない」という言葉があります。

どちらも演技をつけることが出来ない被写体だからです。

それだけに、良い絵が撮れた時は、どんな名優にも敵わないのです。

つまり、赤ん坊には演技は期待されていません。

撮影現場では、赤ん坊特有の泣いたり笑ったりする表情が欲しいだけなのです。

勿論、表情が映るであろうシーン以外は赤ん坊の危険性を重視して、赤ん坊の人形で誤魔化すのが通例でした。

それでも俳優事務所に手配された場合は、「特殊な子役」としてギャラが発生しました。

まぁ、スタッフの子供や孫となったら「内トラ」扱いになる場合もありました。


スタッフ関連の赤ん坊の出演としては、スーパー戦隊では中澤祥次郎監督のお子さんが、アバレンジャーの終盤で赤ん坊としてご出演されてます。

また「ゴジラ対ヘドラ」に出てくるドロドロに汚れた水面の上に浮かぶ赤ちゃんは照明の原文良氏のお孫さんだそうです。


◯動物の「エキストラ」

動物の出演の場合は、動物専門の俳優事務所に手配をお願いするのが通例です。

その場合は重要な役としての動物という事での手配なのですが、「エキストラ」的な動物の手配という場合もありました。

中には本来は人間だけの俳優事務所に対して、動物を伴って出演をお願いする「エキストラ」等もありました。

犬の散歩中の「エキストラ」というある意味特別に設定された状況の「エキストラ」等の場合で、慣れている自分の家の犬を連れて来てもらったりする「エキストラ」の手配という事もありました。

こちらもスタッフやキャストのペットが出演する場合もありました。


●「エキストラ」になるには

「エキストラ」として映像作品に出演するには俳優事務所に「エキストラ」として登録をするか、フィルム・コミッションに登録するのが一般的です。

俳優事務所に所属して「エキストラ」として派遣されると、少なくともギャラは発生します。

しかし、フィルム・コミッションの登録では、往々にして無償での「エキストラ」出演となります。


更に最近では、「エキストラ」公募という所属や登録を経ないでも良い「エキストラ」参加の方法もあります。

この場合の殆どは無償での「エキストラ」出演ですから仕事という訳にはいきませんが、一般の方々が映画や映像の世界に触れる事ができる貴重な機会になっています。


地方在住の方々では俳優事務所への登録も敷居が高くて難しいのが現状ですから、制作会社の多い関東圏や関西圏に在住の方々が中心になっているようです。

しかし、映画や映像好きな方々にとっては、「趣味」として「エキストラ」参加されている場合もある様です。


●「エキストラ」の基本演技

「エキストラ」は背景とも言われますが、居ないと成り立たない絵があるのも事実です。

「エキストラ」の存在によって視聴者の心象すら変わります。

それが「エキストラ」という役者なのです。

しかし、「エキストラ」は背景の一部であるだけに基本的に目立ってはいけません。

所謂「主役を喰う」事は決してやってはいけない行為でした。


「エキストラ」には基本的に台本は渡されず、撮影現場で助監督が状況を説明して行動を指示するというのが一般的でした。

また、制作会社や撮影現場の状況によっては、あらかじめ台本の一部だけのコピーを配布しておいて、撮影現場で状況説明を加えずとも良い状態にする場合もありました。

これは、俳優事務所に「エキストラ」を手配する場合に多く、俳優事務所に「エキストラ」として出演手配して貰う作品の台本をあらかじめ1冊丸ごと渡しておく事で、シーンやカットによってどの様な「エキストラ」が必要になるのかを分かって貰う為と、その作品やシーンやカットの情報を「エキストラ」として参加して貰う役者に共有して貰う狙いもありました。


◯無音の芝居

「エキストラ」は基本的にセリフはありません。

「ガヤ」と呼ばれる群衆の叫びや声援等を除いては、基本的に無声で演技をしなければなりません。

言葉には発せずに無音で、他の「エキストラ」と会話している様に見せなければならないのです。

「エキストラ」同士での打ち合わせなんて殆どありませんから、会話内容を想像して口パクだけで相手の会話に頷いたり笑ったり怒ったりしなければなりません。

ある種の「パントマイム」を続ける事になります。

しかし、問題な事があります。

演者が「エキストラ」だけならば「エキストラ」が画面の主役ですから良いのですが、「エキストラ」以外の演者が芝居をしている後ろで余り大袈裟に「パントマイム」を繰り広げて「目立ってはいけない」という事です。

尚、「無音」の「パントマイム」には、声だけではなく「物音」も含まれます。

食器の音、椅子を引く音、足音、等の「物音」が役者のセリフを邪魔したりする事を防ぐためにも、「エキストラ」の芝居には極力「物音」をたてない「パントマイム」も要求されるのです。


◯歩行

「エキストラ」の基本は、画面内を歩く事です。

画面の右から左、左から右、そして手前から奥、奥から手前、一般人が普通に歩いているかの様に歩くのですが、目線はカメラに行かせず、役者が進行上に居ても自然に避けて通るという事をしなければなりません。

勿論、走る事もありますし、途中で方向を変更して歩くという事もあります。


これら、歩いたり走ったりといった行動の基本やタイミングは、基本的には助監督に付けて貰う事となります。

助監督は、画面の構成として「エキストラ」をどのように、どのタイミングで歩かせれば効果的かを考えて、「エキストラ」に指示し動かします。

基本的には「エキストラ」の動きは役者の後ろで行われますが、時には役者の前を横切る様にして役者を見え隠れさせる「シャッター」と呼ばれる動かし方をする場合もあります。

「シャッター」は、画面に奥行きを創ると共に、役者が見え隠れする事で視聴者への心理を揺さぶったり、役の心理描写を担ったりする場合もあります。


◯自然体

指示を受けて動いたり、指示なく動いたりする「エキストラ」ですが、一番問題となるのが「自然体」であるかどうかです。

画面上の背景であるだけに、画面に「違和感」を与えてしまっては悪目立ちをしてしまうからです。

いかに背景として「自然体」であるかというのが、実は一番重要な要素なのです。

例えば、ビアガーデンでビールを飲みながら談笑しているのと、BARでカクテルを飲みながら語らっているのとでは「エキストラ」の行動の「自然体」が異なっていますから、それを踏まえての「芝居」が必要になるという事なのです。

単に歩く事でもひとりひとり歩く目的は違いますから、足早に駆けて急ごうとする者や友人と話しながら歩く者もいます。

自分の着ている服や持ち道具から自分が演じている役の行動原理を推察し、それら一般人の行動の「自然体」を考え見つけて、「エキストラ」の芝居とする事が出来れば、「エキストラ」は「背景」としての役割を上手に全うする事が出来たと言えるのだと思います。


●「エキストラ」の資料

「エキストラ」を語る上で資料となる映画を数本。

「エキストラ」を話の中心に置いた作品は、映画制作の裏側を描いた作品でもあります。

普段、画面の手前で演技をしている役者さんではなくて、映画制作現場のスター達の傍で「背景」を演じる「エキストラ」さん達の心理や悲哀を感じる作品達です。


◯「蒲田行進曲」1982年公開・松竹

有名な映画ですから説明不要ですが、「汐路章」さんがモデルと云われる大部屋俳優さんの悲喜こもごもを描いています。


◯「えきすとら」1982年公開・松竹

武田鉄矢・石田えり主演。大スターを夢見て「エキストラ」から這い上がろうとする男女の恋と青春を描いた作品です。


◯「エキストロ」2019年公開・吉本興業

エキストラを趣味とする一般人(配役も無名の64歳の現役エキストラさん)の身の回りに起こる事をコメディとして描いた作品。


◯「宮松と山下」2022年公開・ビーダスエンド

香川照之主演。エキストラを生活の一部としている主人公の過去と向き合うお話。エキストラの生活を丁寧に描いた作品でもあります。


●あとがき

今回は「エキストラ」を大幅に加筆修正させてもらいました。

お陰様で、前に書いた内容が1割程度しか残っていないぐらいに原型を留めていないモノとなりました。


私は「エキストラ」さん達が大好きでした。

「東映アカデミー」から手配されてくる「エキストラ」の方々は、半数が毎回同じ顔ぶれでしたから安心して任せて居られました。

ある時、撮影の合間の「エキストラ」の方々が大きく盛り上がっていました。

話を聞くと、常連の「エキストラ」さんが映画で単独でアップで撮影されたという話題でした。

市川崑監督で1991年公開の「天河伝説殺人事件」の冒頭で、階段上で急に苦しみ出して死亡してしまう男の役が、セリフも無く直ぐに死亡してしまい過去も映像で描かれない事から配役を「エキストラ」として来ていた「東映アカデミー」の方から急遽選んだそうです。

第一殺人事件ですから印象的な画面作りがなされるのは当然です。

私も観たくなって観に行って来ました。

顔のアップで苦しむ表情は、スクリーンに大きく映し出され、今この一瞬だけは彼が主役として注目されているという印象を受けました。

その後、彼に大役が回ってくる事はありませんでしたが、一生の想い出になった事は確かでしょう。

私も自分が「内トラ」で出ている作品は特別な思い入れがあります。

以前、私が「内トラ」で出演している作品を娘達に見せたところ「これお父さん?痩せているから分からなかった」と言われてしまいました。

当時もそこそこ太っていたのですが…

映像として作品に残るという嬉しさと恥ずかしさがそこにはありました。

それが映画ならば尚更だったと思います。


最後に「エキストラ」のギャラに関してですが、基本的に「日当制」を採っていました。

ですから、殆どが待機時間で出演が少なくても、午前中だけで撮影シーンが終了しても、何回も歩き何役も演じても、朝から晩まで撮影が続いて25時や26時の終了となっても、ギャラは同じでした。

流石にロケ地で撮影が長引く時には、例え撮影シーンが終了していて現地解散も出来ない場合には、お弁当は支給されていました。

勿論、朝が早い場合も「エキストラ」さん達にも「ポパイのおにぎり弁当」が支給されていました。

無償の一般公募の「エキストラ」の場合でも作品によってはお弁当の支給はありました。

数百人単位のお弁当の手配は大変だったと思います。


「エキストラ」は「背景」です。

しかし、「なくてはならない背景」です。

「エキストラ=特別」な存在なのです。

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