余り語られない撮影所のあれこれ(152) 参加作品のメイキングvol.9「『大予言〜復活の巨神〜』その3『天の巻』その2」 」
余り語られない撮影所のあれこれ(152) 参加作品のメイキングvol.9「『大予言〜復活の巨神〜』その3『天の巻』その2」」
●思い出
実はメイキングを書く前は、「『大予言』が1番撮影の時の思い出が無いなぁ」と思っていました。
しかし、いざ書き出してみると「封印」されていたかの様な「記憶の扉」のカギが頭に出て来て次々と開かれて行きます。
それだけ普通の撮影期間以上の期間がかかりましたし、色々な場面を見させて頂きました。
お陰で普段のメイキングよりも多くの書く事が湧いて出てくるという、危険な状態となってしまいました。
さて、何回あれば紡ぐ事が出来るのでしょうか?
尚、例によって情報のほとんどが約30年前ですw
今となっては変わっていることや、無くなっていることもあります。また、記憶の内容が30年の間に美化されたり劣化してしまっているものも存在しますwwその点をご理解の上、あらかじめご了承下さい。
そして、ここでの意見は、あくまでも個人的な意見です。
東映をはじめとした各社や映像業界の直接的な意見ではありません。その点を予めご理解ご了承下さい。
●作品データ
タイトル「大予言 復活の巨神」
1992年4月28日 東映・バンダイビジュアル
オリジナルビデオ作品
収録時間104分。(天の巻50分、地の巻54分)
主演 泉本教子
助演 坂上忍、加納竜、テレサ野田
監督 小林義明
●これまでのあらすじ
津島麗奈(=泉本教子)は、謙介(=坂上忍)という恋人がありながら政略結婚をさせられそうになっていた。
麗奈は、謙介とちゃんと会って別れを告げようと無断で家を出る。
麗奈な謙介と会って別れを告げるが、それが返って未練となってしまう。
それを断ち切りタクシーで自宅に帰ろうとする麗奈の頭上に、大きな黒い影が見えるのだった。
一方、麗奈の継母・美也子(=テレサ野田)は部下の黒川(=大杉漣)に麗奈の捜索を手配する。
●タクシー
麗奈を乗せる為にタクシーを停める謙介。
普段ならば「東京無線タクシー」の筈なのだが、個人タクシーが停まるのは、この後にそのタクシーを使ってカーチェイスをするからに他なりません。
流石に壊れる可能性のある車に東京無線さんは使えません。
タクシーに乗り込もうとする麗奈。
その向かいに黒川達の車が停まる。
黒川の手下はJAC(=現JAE)の御二方、井上清和さんと的場耕二さん。
顔ぶれだけで、これからアクションがあるぞという面々です。
車を降りる黒川(=大杉漣)と井上さん。
的場さんは運転手ですから車に留まっています。
黒川の顔を確認する麗奈。
黒川は麗奈が素直に帰ってくれるのならば、あとは謙介を二度と麗奈に近付かないようにいたぶるだけだとニヤける。
それに麗奈は瞬時に気付き、謙介を一緒にタクシー押し込むと「運転手さん、早く出して!」と、逃走を企てる。
顔色を変えた黒川は、咄嗟にタクシーに駆け寄る。
この黒川=大杉漣さんの表情の変化が素晴らしいです。
セリフは無いのですが、セリフが聞こえてきそうな表情が、流石舞台役者と思ってしまいます。
そこに、ククリナイフが迫る!
ククリナイフに関しては、当初は単なるナイフが用意されていました。
しかし、「ボー一族」に関して普通のナイフでは異様さがないとの監督の判断で、普通のナイフ以外=ククリナイフという選択になりました。
まあ、小道具倉庫ではスーパー戦隊やら宇宙刑事やらの時代からの武器がゴロゴロありましたから、もっと異様な武装も可能だったのですが、架空っぽい武器の前に現実的な武器を監督へプロデュースしたら、ククリナイフで監督承諾を通った次第なのです。
赤い麻布フードのボー一族の一人が黒川=大杉さんと井上さんを突き飛ばして、謙介の隣に無理矢理乗り込み脅し、もう一人のボー一族が運転手を脅して車外へ突き落とすと、運転して黒川達の前から逃走を試みる。
車に乗り込んで追いかける黒川達。
●カーアクションin撮影所
タクシーは、運転手のボー一族が運転免許を持っていないのか慌てているだけなのか、コーナーに積まれたダンボール箱やら「柔らかいドラム缶」やらを車体下に巻き込んでまで、爆走して行きます。
流石に、こんな爆走カットにメインキャストを同乗させておく訳にはいきませんので、ボー一族のコスプレをしてもらったタケシレーシングの運転手さん以外は、同乗していません。
その為の夜間撮影なのかもしれません。
走り抜けるのは、特撮好きな方ならばお判りになられると思いますが、東映の東京撮影所内のステージとステージの間の通路です。
その通路に様々な障害物を設置して、定番の倉庫街の工事中感を表現していますが、現実的にはもう少しバリケードがあってもおかしくはないかと思います。
しかし、カーアクション的には余り過度なバリケードはしたくないのもまた確かです。
操演による火花の発火も効果的に使用されています。
勿論、CGが超特殊だった時代ですから、これらの発火物も全て実際に仕掛けられています。
日中のカーアクションであれば、車が障害物にぶつかった際にはフライアッシュ等を使って派手に舞い散る埃等を表現するのですが、夜間ではライティングを駆使してもなかなかその派手さを表す事が難しくなりますから、火花の灯りと煙で派手さを作り出す事になります。
カーアクションは、スロープを駆使したタクシーが他の車の上に乗り上げる事で終了します。
この乗り上げのカットは、3カメでの同時撮影で行われました。
1台はスロープでタクシーの車体が上がってしまう後輪を狙い。
もう1台は他の車に乗り上げるタクシーをアップで狙い。
最後の1台は、引き画でタクシーの全体像を狙っていました。
二度三度と繰り返し行う事の出来ないアクションカット等には、こういった複数カメラの同時撮影が多用されていました。
乗り上げてしまったタクシーの運転席から降りるボー一族。
麗奈を引きずり出し謙介にダメージを与えると、麗奈を連れ去ろうとする。
そこに黒川達の乗った車が追い着く。
黒川は、すかさずサイレンサー付きの拳銃を出して麗奈を連れ去ろうとするボー一族の背中を撃ち抜く。
近寄って麗奈を保護すると、黒川は撃ったボー一族にとどめを刺そうとする。
「裏切り者」
この言葉で、黒川がボー一族の裏切り者と称されるのだが、何故裏切ったのか?や黒川の手下もボー一族なのか?やボー一族は一般人と違った能力があるのか?やボー一族もフードを取れば黒川の様な一般人と見分けの付かない容姿なのか等の謎は、この後にも全く描かれる事がありません。
まぁ容姿に関しては、ボー一族の長「ボータン(=汐路章)」の登場によって、顔だけは一般人と変わりない事が証明されます。
これらの謎が、初期の脚本に描かれていたのかどうかは私には分かりませんが、もう少し詳しい伏線があって本線と絡んで来てもおかしくない設定なだけに、個人的には今でも惜しい事だと思っています。
麗奈を連れて行こうとする黒川達にすがりつく謙介。
そんな謙介を引き剥がし、執拗に蹴りを入れる井上さん。
立ち上がれない程のダメージを謙介に与えると、黒川達は麗奈を車に押し込みその場を去って行きます。
脚本上でも知ってはいましたが、このカットを撮影している最中になっても
「謙介は殺さないんだ…」
という助監督らしからぬ後々を考えない疑問が浮かんでしまっていました。
黒川達の車が走り去る時に、バイクの集団が反対方向からすれ違う。
勢い余って光雄(=西田真吾)とミナミ(=一輝)の2台のバイクが倒れて滑る。
このバイクスタントもタケシレーシングの方達のお仕事です。
一般人ならば打ち身や擦り傷が必至な状況ですが、光雄もミナミも大丈夫そう。
そこで怪我を負った謙介を発見する。
●バイク仲間
海沿いの別荘。
千葉だったと思いますが、海沿いにある家をお借りしてのロケでした。
怪我をした謙介を連れてきて手当したバイク仲間。
バイク仲間は前途したミナミと光雄、真琴(=賀川黒之助)、雅彦(=富田信介)、誠治(=砂川真吾)を合わせて、女性1人と男性4人の集団なのだが、後々の展開上これだけの人数の出演者である必然性があったのかどうかは甚だ疑問が残る点なのです。
しかし、この人数も当初の脚本家であった浦沢義雄氏が手掛けた「不思議コメディシリーズ」の探偵団に代表される様な女の子1人と男の子4人の集団を下敷きに置いているのだと思えば納得も行きます。
もしかすると、脚本の初稿では少年少女達だったのでは?と想像してしまう程です。
5人が自分達の関係を謙介に話すという設定で、説明台詞が展開される。
雅彦は医師で、この場所も彼の親の別荘。
真琴は修理工。光雄はフリー記者。誠治とミナミの職業は明かされないが、ミナミは美大生設定だったと思う。
ミナミは、作品のラストで絵画を挟んで持ち歩く画板であるカルトンを持っています。
このカルトンは、私がミナミらしく名前を書いてデザインしたモノで、今でも私の自宅で保管していたりいます。
説明台詞の上に長台詞、更にはキャストの多くはそんな長台詞を発した事もない新人に近い方達。
カメラから見切れない様な立ち位置という注文もあるので、芝居としては大変だったのを覚えています。
この別荘では、朝食のシーンという事で様々な食材を小道具として用意しました。
所謂「消えもの」ですから、食べてしまえばなくなってしまいリテイクも難しい事から各々複数点の準備が必要でした。
買ってきたモノだけで調理はしていない感覚ですので、直ぐに食べられるモノを中心に小道具さんと私が相談して考えて取り揃えたと記憶しています。
家具は元々ロケ先にありましたが、それ以外の装飾品等は全て小道具さんの別班が先に持ち込んで飾り付けしてくれていました。
勿論、冷蔵庫の中身まで含めてです。
雅彦がハムの塊を冷蔵庫から取り出して臭いを嗅ぐカットは台本にはありませんでしたが、動きに変化が欲しいという監督の意向で、雅彦の台詞の際に冷蔵庫を開けて何かを取り出すという芝居になりました。
急遽でしたが、冷蔵庫から取り出しそうなモノという事で皿に乗ったチーズとハムの塊という事になったのです。
そこで雅彦役の富田さんが何時もの癖でハムの臭いを嗅いだ事が、監督的には疑問に思ったらしくて、スタッフやキャストでラップに包まれたハムの臭いを嗅ぐ派と嗅がない派の挙手を取る事になり、嗅ぐ人達が一定数いた事から「癖」としての自然な芝居という事で落ち着きました。
週刊誌「週刊文春」は、表紙と裏表紙はそのままに、中の見開き記事は新たに“らしく”作成しました。
記事自体は週刊誌の真ん中のページの左右に糊付けされています。
監督からの指示で、麗奈と婚約者の堂本英樹(=加納竜)の写真は欲しいと言われていました。
記事自体は、カットインの形で映像に差し挟まれていました。コレは、現場では週刊誌の中身の印刷が間に合っていなかったからだったハズです。
誠治もミナミも週刊誌の中身をカメラに映らない様に芝居をしてくれていました。
こういった印刷物は、当時は印刷所に別発注する場合が多く、仕上がりまでに日数を必要としていたのです。
今では外注に頼らずとも、小道具さんの手でパソコンを使って簡単にカラー記事すら作ってしまう事も出来てしまえるのでしょうねぇ。
●あとがき
今回は冒頭13分〜18分までの5分弱という短い尺の間だけで、殆どカーアクションだけといった部分的なメイキングでしたが、それでも多くの情報が出てくるものです。
「天の巻」だけで50分弱ありますから、あと何回かかるのかが本当に心配です。
さて、去る9月14日は、私がX(旧Twitter)に「#余り語られない撮影所あるある(現:#余り語られない撮影所のあれこれ)」というハッシュタグで投稿を開始してから4年目を迎えた日の様です。
間々に休みを生じながらも最初の2年間はほぼ毎週、後の2年間は隔週間隔で投稿してきました。
4年間で152回ですから、よくネタがあったなぁと自分でも感心しきりです。
確かに数回に分けたネタやリテイクしているネタもありますが、それでも様々な事を書き連ねて来たのは事実です。
書籍化できる程の記事量はあるのですが、各方面への承諾、許諾、版権問題が出て来そうですし、時事的なネタもあったりします。
撮影機材や道具、職種等の縛りが比較的緩い記事だけだと半分以下になってしまうと思います。
まだまだ、書いていくつもりですから、緩く見守って欲しいと思います。
感想や御意見も頂いていますが、新たな発見もあり有り難く思っています。
それでは、また次回。