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余り語られない撮影所のあれこれ  作者: 元東△映助
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余り語られない撮影所のあれこれ(147) 「スタッフ・キャストの距離感」

★余り語られない撮影所のあれこれ(147)

「スタッフ・キャストの距離感」


●立場上の距離感

撮影現場には様々な立場のスタッフやキャストが出入りしています。

スタッフにしても制作会社の偉い人やプロデューサー、ベテランスタッフや名のある作品に関わったスタッフからはじまり、外部からの応援スタッフや最近入ったばかりの新人スタッフやアルバイトスタッフまで、様々な関係性や立場で撮影現場に出入りしています。

キャストでもベテランキャストや名のある作品で賞まで取られたキャストにはじまり、常連のキャストやゲストキャスト、新人キャストやエキストラ、アクションキャストやスタントマンまで、本当に様々な関係性や立場の方々が撮影に参加されています。


今回は、そんなスタッフやキャストの間にある「距離感」について語ってみたいと思います。


尚、例によって情報のほとんどが約30年前ですw

今となっては変わっていることや、無くなっていることもあります。また、記憶の内容が30年の間に美化されたり劣化してしまっているものも存在しますww

その点をご理解の上、あらかじめご了承下さい。

そして、ここでの意見は、あくまでも個人的な意見です。

東映をはじめとした各社や映像業界の直接的な意見ではありません。その点を予めご理解ご了承下さい。


●私見

私は「東映太秦映画村」の学生アルバイトからはじまり、後に撮影所のスタッフに入ったのですが、アルバイトに入る際に「役者さんに気安くサインや写真をねだらない様にして下さい」と言われた事が、撮影所のスタッフとして入った後も注意事項として脳裏に焼き付いてしまっていました。

ですから、私の撮影所時代には多くの尊敬するスタッフやキャストにお会いする事が出来たにも関わらず、殆どの方々にサインや写真をお願いする事はありませんでした。


まぁ、そんな事など気にしないでサインをねだったりツーショット写真を撮らせて貰ったりしているスタッフもいました。

大抵は、その様な事をするスタッフは他のスタッフから煙たがられていました。


●撮影期間

作品の撮影が長期期間に渡るかどうかは人間関係の距離感に対しては大きな要因のひとつです。

映画や長期放送のドラマだと数ヶ月間、特撮番組だと1年以上を同じスタッフとキャストで仕事を共にするのです。

そんな長期間の撮影は、スタッフやキャストのそれぞれの人間関係の距離感を縮めて行きます。

毎日の様に同じ職場で、ひとつの作品の完成に向けて努力する共同体ですから、どうしても距離感は近くなって行きますし、反対に嫌いな部分も見えてきてしまいます。


無論、2時間ドラマでも数週間は同じスタッフとキャストでの撮影になりますが、短い時間な為に繋がりも希薄になります。

更に、キャストは主要な役でなければ撮影現場への参加頻度は少なくなります。

しかし、キャストの性格等によって距離感を縮めているのも事実です。


また、男女差も顕著だった様で、特に女性のスタッフやキャストの距離感は、短い撮影期間だとしても縮まり易い傾向にありました。

距離感を縮める方法は大抵の場合、他愛のない話からだった様です。


●スタッフとキャスト

スタッフとキャストの距離感は、それぞれの立場や仕事年数によって変わってきます。

基本的にはスタッフよりもキャストの方が気を遣われる立場となります。

それは、撮影現場に於いてスタッフに代わりは居ても、キャストという被写体が居なければ撮影が出来ないからだと、私は先輩スタッフから聞かされていました。

ましてや主役を多数こなしているキャストや、人気のキャスト、大御所のキャスト等は特に気を遣われていました。

監督やカメラマンは撮影現場のスタッフの中でもトップクラスですが、そんな監督等のトップクラスのスタッフでも、特に大御所のキャストには気を遣われていました。


しかし、そんな気を遣われているキャストであってもキャスト自身の性格からスタッフとの距離感が近い方もいらっしゃいました。

元来撮影現場が好きで、キャストにもスタッフにも分け隔てない距離感を持っている大御所や、若い頃に苦労をしていて若手のスタッフやキャストの事を自分の過去の様に想い、面倒をみるのが好きなキャスト、元来話好きなキャスト等は、スタッフの上下の隔てなく接してくれていました。


大御所の高橋英樹さんは、ご自分で「イッチョ噛みの高橋」と称していて、スタッフが次のシーンの照明やカメラ位置のセッティングをしている間も撮影現場の中に居て、監督達と他愛のない話をされていましたし、ご自分でご自分用の照明をセッティングする事もありました。

撮影現場が本当に好きで、スタッフもキャストも好きで、撮影現場が楽しい事が大好きな方でした。

だからこそ、ペーペーの私を見て2回目にお仕事をご一緒した際には「君、京都にいなかった?」と既に覚えていて下さり、3回目にご一緒した際には「またお前か…オレの追っかけか?」と笑って言って下さりました。

どれも2時間ドラマの短い撮影期間しかない作品だったにも関わらず、更にどの作品でも半年以上は間が開いていて、高橋さん自身の仕事量を考えても多くのスタッフとお会いしているにも関わらずという条件下でもです。

下っ端のスタッフには、名のあるキャストさんに顔だけでも覚えていて貰っていただけでも嬉しく、大きく距離感が縮まった瞬間でした。

それとも、そんなに覚え易い顔だったのでしょうか?


そして、そんなスタッフとキャストの距離感が近いキャストであれば、スタッフも信頼し話し、仕事を一緒にしていても愉しいと感じるものですから、次の作品のキャスティングにも名前が上がりやすく、また制作会社としても了解をしやすい状態が出来ました。


●キャストとキャスト

キャスト同士の距離感は、私達スタッフには測りしれぬ領域でした。

経験年数や人気の度合い、自分の師匠筋にあたる人物との関係性や自分が所属する事務所との関係性なども考慮に入れないといけないモノなのでしょう。

スタッフの関係性もそうですが、キャストの関係性も基本的には体育会系の上下関係がありました。

人気の度合いという要素もありますが、事務所等とは関係無く経験年数によって先輩後輩の関係性が成り立っていましたから、撮影現場では芝居の話や過去の出演作品の話などをしていた様です。


そんな撮影現場での関係性から交友関係が生まれたり、師弟関係が生まれたりするから不思議なものです。

何せ毎回違う撮影現場で仕事をしていたとしても、何度も顔を合わせていれば挨拶程度から始まって次第と他愛のない話をし始めるぐらいに、同業者としての戦友感が生まれるものなのです。


●スタッフとスタッフ

スタッフ同士の距離感も、やはり経験年数や上下関係が関係してきます。

特に役職は大事で、部署が違っていても部署の技師やチーフには敬意を払っていましたから、自ずと距離感は上下に拡がります。

ましてや自分の部署の上下関係としての距離感は、とても大事でした。

更に、同年代の他部署のスタッフというのも重要でした。

それは、コミュニケーションを取りやすい立場に成りやすかったからです。


2時間ドラマの様な短い撮影期間の現場や、いつも制作会社ではなくて他の制作会社の撮影現場等では、見知らぬスタッフが周りに居て、1から距離感を掴みに行かなくてはなりませんでしたし、せっかく距離感が掴めたとしても、近づくまでに撮影期間が終わってしまっている等という事が殆どでした。

ですから、距離感が縮まったと思えるスタッフは、自ずと自分が仕事上で頻繁に関係するスタッフに限定されてきます。

中には顔は知っていても名前すらも覚えられないままに撮影現場を後にする等という事もあったぐらいでした。


●酒の席

これらの距離感の掴み方は、多分に性格的な側面が大きく左右されますが、それでも仕事上という関係だけでは距離感は縮まりませんから、仕事の外での関係性が重要でした。

つまり、酒を一緒に飲んだり食事をしたりして関係性を深めて距離感を縮めるのです。

確かに仕事上のダメ出しを延々とされる可能性のある酒の席もありましたが、それでも顔を突き合わせて話をするだけでも距離感は縮まるものですから、食事や酒の席は重要なファクターだと言えるでしょう。

確かに、スタッフやキャストで交友関係が広い人は、大抵は酒宴が好きでしたし話が上手い人が多かったと記憶してます。


キャスト間やスタッフ間はもとより、キャストとスタッフ間でも居酒屋に行くといった酒の席はありましたし、カラオケを同席する場合もありました。

食事だけの席というのもありましたが、距離感が縮まり易いのは酒の席でした。

ですから、長い撮影期間がある撮影現場では、合間に慰労会や食事会が挟まれる場合がありました。

ロケ地に宿泊等という場合は、個々人が酒宴を開いたりしていましたし、大御所のキャストや大先輩のスタッフから飲みに誘われる場合もありました。


30年以上前の鬼怒川温泉での宿泊ロケの際に、近藤正臣さんから数人のスタッフが誘われてホテルに隣接するスナックに飲みに行き、キャストだった松本伊代さんを呼び出してヒロミさんとの仲をノロケさせた席に同席していたといった記憶もあります。

勿論、伊代さんとヒロミさんの交際記者会見前の出来事です。


私は酒が飲めない訳ではありませんでしたが、酒の席で聞きたくもない話を聞かされる事が好きではなくて、余り酒の席に同席していませんでした。

誘われても本当に距離感を縮めたいと考える人物からの誘いでなければ、半数は断っていたぐらいでした。

まぁ、そうそう頻繁に飲みに行けるほどのギャラも頂いていなかったというのもありましたが……

それでも気の合う仲間は出来るもので、一緒に食事をしたりたまには酒を飲んだり、好きな映画の話やSFXの話で盛り上がる仲のスタッフはいました。


しかし、今になって思えば、酒を酌み交わし聞きたくもない話を聞かされながらも、他のスタッフ仲間との距離感を縮める事も必要な事だったのではないかとも思っています。

別に酒を飲まなくても仲は縮まるのですから…


●仕事の上

幾ら距離感を縮めた仲だといっても、仕事とプライベートは別でした。

仕事に厳しい人だからこそプライベートは砕けるという方も多くいました。

中には仕事も厳しいが自分にも厳しく、プライベートから自制している方もいらっしゃいました。


距離感の縮まった仕事仲間だからといって、仕事の上でも緩くしてしまっては、良い作品は出来ないのですから、仕事の上での距離感とプライベートでの距離感を使い分ける事も重要でした。


縮めた距離感も、仕事が円滑に進みギクシャクした撮影現場にしない為のものだという事が優先ですし、厳しいだけの人間関係だけでは仕事も楽しくなく、より良い作品も生まれないのですから。


●あとがき

スタッフとキャストの間が縮まり易いスタッフの役職は、メイクや衣装、小道具(特に持ち道具)といったキャストとよく接触し話をする部署が多かったと思われます。

演出部や撮影部、記録さんといった部署も接していましたが、キャストとの距離感としては上下的になり、演出部でもセカンド助監督以下等がキャストに近かったと思われます。

勿論、ベテランのキャストになれば、スタッフの助手時代からを知っていたり、他の作品で仕事を一緒にしていたりして、監督やカメラマンとも撮影現場でも冗談が飛び交う場面も多く見受けられました。


そして、特撮作品におけるキャストでスタッフに親しい立場にまで距離を縮めているのが、スーツアクター等のアクションキャストでした。

レギュラーキャスト以上にずっと同じ顔が同じ撮影現場に常駐の様にいらっしゃり、作品が変わってもスタッフ同様に同じ顔が居残っていてくれるのは、飲みニケーションがなくても親近感と信頼とが生まれて当然でした。

ですから、私的にはアクションキャストの面々にはキャストというよりも同じスタッフという感覚が生まれてしまっていました。


数年前の大杉漣さんの訃報には、多くのスタッフやキャストが涙しました。

それは、大杉さんがキャストはもとより、どんなペーペーのスタッフにも優しく声をかけ、距離を縮められていた事に他なりません。

下積みが長く苦労もされていましたからかもしれません。

私は北野武監督の映画で名前が知られる事になる前の大杉さんを知っていますが、名前が売れても大杉さんの親しさは変わらなかった様です。

まぁ、話の大半は卑猥な話でしたが(笑)

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