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余り語られない撮影所のあれこれ  作者: 元東△映助
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余り語られない撮影所のあれこれ(126) 「『待ち』で〜す。って『何待ち?』」

★余り語られない撮影所のあれこれ(126)「『待ち』で〜す。って『何待ち?』」


●時間との勝負

撮影は、いつも時間が後ろから追いかけてきます。

レギュラー番組は言うに及ばず、2時間ドラマや映画撮影であっても撮影スケジュールという時間に沿って仕事が進められている為に、どうしても「撮影が停滞する」という状況は、余り良く思われません。

そんな場合は、「撮影の停滞状況」を作り出している「原因」をスタッフやキャスト全体=撮影隊に知らせて、「状況が改善されれば撮影が再開される」という安心感を与え、状況が改善されるのを「待って貰う」のです。

この「待つ」原因を言い表すのが「待ち」です。

今回は、撮影隊にとって「待ち」がどの様な場合に発生するのかを語ってみようと思います。


尚、例によって情報のほとんどが約30年前ですw

今となっては変わっていることや、無くなっていることもあります。また、記憶の内容が30年の間に美化されたり劣化してしまっているものも存在しますwwその点をご理解の上、あらかじめご了承下さい。

そして、ここでの意見は、あくまでも個人的な意見です。

東映をはじめとした各社や映像業界の直接的な意見ではありません。その点を予めご理解ご了承下さい。


●○○待ち

ストレートな言い方ですが、それだけに端的に状況を説明できる言葉が「待ち」です。

通常、「○○待ち」の様に何を待っているのかの原因を「待ち」の前に付けて、端的に説明します。


それでは、具体的にどの様な「待ち」があるのかをみてみましょう。


●音待ち

同時録音が必要な映像作品の場合の「待ち」の大半が「音」に関する「待ち」です。

セリフ等の後ろで聞こえるBGMや効果音=SEを除いて、自然の「音」が編集の妨げになりそうな場合には、極力その「音」をバックに録音しない方が良くなります。

ですから、どうしても止められなくて、時間の経過によって聞こえなくなる「音」は、「待ち」によって状況を回避するのです。


○チャイム待ち

学校や仕掛け時計等から聞こえる「チャイム」や「メロディー」を「待つ」場合に言われます。

通常、長くても数分で解消されます。


○飛行機待ち

飛行機本体というよりも、空の上から聞こえてくる「飛行音」が問題となる場合に言われます。

こちらも通常は数分もかからずに解消されます。


○救急車待ち

街の中で撮影する場合の最も多いのが、この「救急車待ち」です。

救急車のサイレンは、遠くまで聞こえて緊急車輌が走行している事を周囲に知らせるのが目的ですので、小さい「音」でも録音マイクに集音されてしまいます。

こちらも通常は、数分で解消されます。


○パトカー待ち、消防車待ち

パトカーや消防車のサイレンも救急車と同じく緊急車両ですから、遠くまで良く聞こえます。

救急車程には頻繁ではありませんが、それでも良く通り良く聞こえる「音」であり、「待ち」の対象になり易い「音」でもあります。

こちらも、側で火事でも起きていない限りは、数分で解消されます。


○音待ち

特定の「音」に限定しない、「よくわからないが聞こえてくる音」を総称して「待つ」場合に使用されます。

「子供や人の歓声」「(突然聞こえた)工事の音」「クラクション」「選挙演説」「アナウンス」などの継続して聞こえてくる可能性のある「音」に対する「待ち」は、状況をみて「待ち」で解消したり、撮影場所を変更したり、「音」の発生源に対してお願いして暫く「音」を控えて貰う等という対策が取られます。


通常は、長い名前を使って「○○待ち」を表現しません。

「音待ちで〜す」「何待ち?」「選挙演説で〜す」等と問われた際に説明が後に付きます。


●天気待ち

映像作品において、光や影は重要なファクターであり、特に最大最強の光源である太陽の出方次第では、その事が「待ち」の対象となる場合があります。

勿論、被写体や周囲に対して意図しない状況を及ぼす「雨」や「風」なども排除すべき「待ち」の対象です。

これら「天候」に関しての「待ち」を総称して「天気待ち」と呼びます。

現状にそぐわない「気象現象」の解消を「待つ」訳ですから、「天気待ち」と言っても状況によって様々です。


○雲待ち

殆どの場合の「雲待ち」は、「影になってしまった被写体や背景から雲の影が去る待ち」なのですが、たまに「影が欲しいから雲待ち」という特殊な場合もあります。

特に日差しの強い時期や時間に多い「待ち」で、当たり前ですが曇の日や雨の日には起きない「待ち」です。


同じ様な言い方に「影待ち」や「日差し待ち」と言う場合もありますが、この場合は現在「欲しいもの」を対象にした「影(が欲しい)待ち」や「日差し(が欲しい)待ち」です。


しかし、撮影現場での殆どは「(欲しいモノを得る為の)待ち」ではなくて、「(要らないものを解消する為の)待ち」なのです。

そんな場合の対象が何なのかを示して、具体的に解決する方法が他に無いかを模索する上でも、時間的に最も簡単に解消する対象を「待ち」と呼称するのです。

数分で解消される場合もあれば、長時間を必要とする場合もあります。

その様な長時間の「待ち」を必要としないように、照明部さん達は野外ロケの際には雲の状況や動きにも目を配っていて、状況が不味くなりそうな場合には予めカメラマンや監督に伝える事で「待ち」を回避する事に努めるのです。


○太陽待ち

通常の「雲待ち」と同じ様な感覚で使用されます。

しかし、本来は「太陽光(が欲しいので)待ち」なのです。

ですから、解消対象を「待ち」として呼ぶ場合が多いことからも、殆どの場合は「太陽待ち」よりは「雲待ち」の呼称の方を選択します。


○風待ち

勿論、解消対象としての「風」ですから、「風(が収まるまでの)待ち」の事を意味します。

予期せぬ「風」が吹いた事によって、役者の髪や衣装が乱れたりするのを回避するというのが目的です。

また、「風」は録音部的にも問題があります。ですから、吹き止むまでの「風待ち」は、撮影部や衣装部、メイク、そして録音部からも「待ち」要請がかかる場合があるのです。

しかし、「風」全然吹き止まない場合で、しかも他のロケ地も確保出来ない場合は、撮影が強行される場合もあります。

そんな場合は、録音部からアフレコの要請が出る事が多かったです。


○雨待ち

こちらも「雨(が止むまでの)待ち」の意味です。

殆どは、にわか雨の様な止む可能性のある「雨」の場合の「待ち」です。

最初から「雨」が降り続いている場合でも止む可能性があるのであれば、「止み待ち」をする事もありますが、そんな場合は本当に「どうしようもない」時で、ロケ地の変更も出来ない、撮影所に帰ってもセット撮影の部分も撮影が終わっているといった八方塞がりな状況という稀有な時でした。


●人待ち、車待ち

人待ち、車待ちと言っても本当に「人(が来てくれるのを)待ち」や「車(が来てくれるのを)待ち」というのもありますが、撮影現場では本来は「(背景として必要ない通行をしている)()車(が背景から去ってくれるのを)待つ」という意味が強いです。

波風立てない様に、去って欲しい人や車が動いている場合には声はかけませんが、背景から去る気配が無い場合等は、制作部や助監督が行って交渉します。


●内部的要因

撮影の準備として、天候も問題なく雑音も無くて風も吹いていない、といった外的要因だけが妨げになるモノとは限りません。

時間的に撮影を滞らせる要因は、内部的にも存在します。


例えば、キャストに起因する「待ち」です。


●キャスト待ち


○役者待ち

被写体である役者=キャストがカメラの前に存在しなければ、撮影はできません。

ですから「役者(がカメラの前に来るまでの)待ち」となります。

この場合は、「音待ち」や「天気待ち」とは違って「要らないモノが解消する為の待ち」ではなくて、「欲しいモノを得る為の待ち」という事になります。

つまり、外的要因が「解消待ち」なのに対して、内部要因は「得る待ち」となってしまうのです。


○被写体待ち

役者を指す場合もありますが、その殆どは被写体となる物体やキャラクターを指します。

被写体が複数人や複数体や複数個存在する場合等でも、総称して被写体と呼ぶ場合もありますが、基本的には個人の名前等を「待ち」の前に付けて「○○さん待ち」と呼称するのが一般的です。


○着替え待ち、衣装待ち

キャストの衣装替えを待っているとか、撮影現場のキャストにコートや手袋などの追加の衣装が届けられるのを待っている状態を言い表します。

基本的には「着替え待ち」の場合は、キャストがカメラ前に居ないので「○○さん待ち」と呼ばれる場合が多く、「衣装待ち」の場合は、キャストがカメラ前に居るために「衣装(の到着)待ち」と呼ばれます。

どちらにしても、撮影を停滞させている衣装部さんとキャストは慌てます。


頻繁に起きる「衣装待ち」は、衣装が乱れてしまったりした場合の直しで、この場合は「衣装(が撮影に耐える状態への解消)待ち」を意味します。

尚、衣装に汚しを追加するといった特殊な「待ち」もあります。


○メイク待ち

キャストのメイクがおかしいとか、頻繁で単純な場合はキャストの汗を抑えるとか「テカり」と呼ばれる顔の脂の反射を抑えるとか、髪型の乱れを直すといった、メイクが関係した「待ち」です。

こちらの場合の殆どが「メイク(が撮影に耐える状態への解消)待ち」を意味しますが、「簡単な傷を血糊等を使ってメイクで表現する」や「ススなどの汚れをメイクで表現する」といった特殊な「待ち」もあります。


メイクさんは、キャストがカメラ前に立つ場合には必ずカメラ横に居て、直ぐにメイクや髪型の直しが出来る様にしているものです。

それは、自分の担当分野から少しでも「待ち」を作らせない為でもありました。


●スタッフ待ち

キャストに対する「待ち」の要因があるのならば、スタッフに起因する「待ち」もまた存在します。


○カメラマン待ち、監督待ち

撮影現場に必要な「カメラマン」や「監督」がカメラ側から離れてしまっている、いわゆる「離席」している状態から、「カメラマン」や「監督」が帰って来るのを「待って」いる状態を意味します。

たまに「記録さん待ち」とか「照明技師待ち」とか「録音技師待ち」とかという場合もありますが、大抵は「トイレ待ち」が絡んでいます。


○照明待ち

撮影現場で大きく時間が空いてしまう「待ち」の1番は「照明(のセッティング)待ち」でしょう。

ロケーションでは、ライトもレフ板も限られますし、余り多くの「待ち」にはなりませんが、セット撮影では大掛かりに照明をセッティングし直さなければならない場合も出てきます。

本当に大掛かりな場合では数十分単位で時間がかかります。

照明のセッティングは、撮影場所を撮影空間に変える為のモノで、時間がかかることも大切なものということも、キャストやスタッフなどの撮影に携わる者の基本として身に付くモノなので、誰も照明部に対して不平を言う者はいません。


○フィルムチェンジ待ち、テープチェンジ待ち

フィルム撮影の時代には、フィルムをチェンジする事も時間を要しました。

また、ビデオテープによるビデオ撮影の時にもビデオテープのチェンジを待つ場合もありました。

流石にフィルムは、撮影部が事前にフィルムマガジンに予備を用意して来ていますし、マガジン交換だけならばそんなにも時間はかかりません。

しかし、予備マガジンでもフィルムが足りなくなれば、現場でフィルムをマガジンに装填しなければなりませんでした。

光に当てると感光してしまうフィルムのマガジン装填は、黒い布の袋の中で手探りで行うモノでしたから、時間もかかりました。

ビデオテープは、その点簡単に交換が可能でしたし、予備も十分に用意されていました。


尚、厳密には「待ち」の一種なのですが、「フィルムチェンジ待ち」も「テープチェンジ待ち」も「待ち」を省略し「フィルムチェンジ」や「テープチェンジ」とだけ呼ばれていました。

中には「フィルム」とか「テープ」とだけ言う撮影部さんもいらっしゃいました。


○バッテリーチェンジ待ち

現在のデジタルカメラであっても、フィルムカメラもビデオカメラもバッテリーによって動いていますから、バッテリーもチェンジする場合がありました。

どのカメラもバッテリーチェンジはビデオテープのチェンジの様に単純で早く済みましたから、余り「待ち」の感覚はありませんでしたが、それでも撮影が止まる状況には代わりありませんでした。

この「バッテリーチェンジ待ち」も「バッテリーチェンジ」とだけ呼称されていました。

こちらも「バッテリー」とだけ言う撮影部さんもいらっしゃいました。


○仕掛け待ち

爆破や弾着などといった特殊な仕掛けが必要な撮影の際に、その「仕掛け(をセッティングするまでの)待ち」を意味します。

別に「仕掛け」は爆破などの危険物を取り扱うモノだけではなくて、車やバイクや人が壁などを破って出てくる「仕掛け」とか、車やバイクや人が突っ込んで土埃があがる木箱やダンボール箱の山とかの「仕掛け」といった、単純でそれでいて経験則から受け継がれた「コツ」を「仕掛け」に施さなければならないモノもあります。

その上に、時間も短縮する事を要求されます。

そして、もしも撮影されたモノにリテイクがかかれば、もう一度「仕掛け」をやり直さなければならないのです。


○セッティング待ち

これらの「撮影するまでの間に準備しなければならない事」を総称して「セッティング待ち」と呼ぶ場合もあります。

特定した部署だけが「セッティング」を行っている訳でもなければ、尚更「セッティング待ち」と呼ばれます。

余り「セッティング」にかかる時間をひとつの部署の責任の様に呼称して慌てさせない為といった理由もありますが、準備が必要な事だという認識が、キャストやスタッフ全体に浸透している為でもあり、余り細かな内容を語らないでも撮影現場を見渡せば、「セッティング」に動いている部署が自ずと分かるからという理由でもあります。


●確認待ち、チェック待ち

アクションの段取りの「確認」や、ロケ地での使用制限の「確認」などといった特定の何かを「確認」しているだけの場合もありますが、現状を「確認」しているといった漠然とした「確認」もあります。

また、先程撮影された画像や音声を「チェック確認」する「チェック待ち」も「確認」の中に含まれる場合があります。

フィルム時代には撮影したモノを直ぐに巻き戻して画像や音声を「チェック」するという作業自体ができませんでしたから、カメラマンや監督や記録さんに「(先程撮影したカットがOKかNGかの)確認待ち」というモノもありました。


但し、「確認待ち」や「チェック待ち」は、「確認」や「チェック」とだけ呼称して「待ち」を省略してしまうのが通常でした。


●飯待ち、トイレ待ち

「飯待ち」の場合は「飯(の到着)待ち」という稀有な場合と「飯(を食べ終わる)待ち」というもっと稀有な場合を含んでいます。

それに対して「トイレ待ち」は、キャストやスタッフの中で今から撮影する内容に対して居なければならない者が「トイレ」に旅立ってしまっている場合という頻繁に起きる「待ち」を言います。

ロケ地でトイレが側に無い場合などは、キャストやスタッフがロケバスや撮影車輌を使ってトイレのある場所まで移動している場合もあり、その「待ち」というのも発生していました。

現在では、撮影隊がお願いして仮設トイレを撮影現場に運搬する等といったロケ地も存在する様です。


●あとがき

撮影現場には、様々な「待ち」があります。

しかし、撮影に関わるキャストやスタッフは、いちいち「待ち」が何に対してなのかは確認しないものです。

それは、撮影現場を見ていれば自ずと分かるからでもありますが、一部の部署を慌てさせたり時間ロスの責任を責めている様に取られては撮影全体に歪みが生じてしまうからでもあります。

それでも「何待ち」かを明確にしておかなければならない場合や、撮影現場を見ているだけでは分からない「待ち」を確認する場合に「何待ち」なのかが告げられたり、聞かれたりします。


中には冗談に使用する場合もありました。

「待ち」が終了して撮影準備が整ったにも関わらず、監督が飲み物を取りに席を立っていたとして…

「監督の水分補給待ちで〜す」

と、誰かが声をかけ。

監督は慌ててカメラ側やモニター前に戻ったり、その場で振り向いて「よ~いスタート!」と声をかけるとか……

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