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余り語られない撮影所のあれこれ  作者: 元東△映助
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余り語られない撮影所のあれこれ(121) 「参加作品のメイキングvol.6 『特警ウインスペクター 第1話 赤ちゃん暴走!』」

余り語られない撮影所のあれこれ(121) 「参加作品のメイキングvol.6 『特警ウインスペクター 第1話 赤ちゃん暴走!』」


●パイロット版

本来、パイロット版とは作品を作る前の試作品の映像作品を示します。

パイロット版を作ってプレゼンテーションをしてから本編を作るというのが本来の作り方なのでしょうから、パイロット版と本編が全く異なってしまう「パイロット版ミラーマン」の様な事や、「豹マン=ジャガーマン」「ホワイトジャガー」の様なパイロット版のみが作られただけという事もありました。

しかし、パイロット版=第一話となる場合が多いことから、「パイロット」を「第一話」の呼称として使われるのが常用されています。


今回は「特警ウインスペクター」の第一話=パイロット版の「赤ちゃん暴走!」のメイキングをお届けしましょう。


常套句になりましたが、

「誰も語らないから、いつまでも伝わらない事があるのは、特撮ファンとして悲しい事です。

では、サード助監督というペーペーで申し訳ありませんが、当時のスタッフとしてその殆どの撮影に参加した私が、僭越ながらメイキングを語らせて頂きます。

さて、今回も語られて来なかったメイキングを語らせて頂こうと思います。


尚、例によって情報のほとんどが約30年前ですw

今となっては変わっていることや、無くなっていることもあります。また、記憶の内容が30年の間に美化されたり劣化してしまっているものも存在しますwwその点をご理解の上、あらかじめご了承下さい。

そして、ここでの意見は、あくまでも個人的な意見です。

東映をはじめとした各社や映像業界の直接的な意見ではありません。その点を予めご理解ご了承下さい。


●作品データ

タイトル「特警ウインスペクター」

サブタイトル 第1話「赤ちゃん暴走!」

放送日  1990年2月4日

放送時間 テレビ朝日系 日曜朝8:00〜8:30

東映制作

主演 山下優

脚本 杉村升

監督 東條昭平


●赤ちゃん

冒頭の横浜ベイブリッジは、オープニングにも使用したヘリコプターからの空撮です。

空撮からの横浜港。

そして、赤レンガ倉庫。

特撮番組は勿論、刑事ドラマや横浜を舞台にしたドラマでも「ここは横浜です」と云わんばかりに多用されているロケ現場です。

勿論、モデル撮影のロケ地として現在でも利用されています。


歩いて来る関根大学さん。

懐には赤ちゃんの人形がタオルに包まれて入っています。

赤ちゃんは、基本的に危ない状況には晒せませんし、お世話も大変ですから、撮影期間中で本当の赤ちゃんを見せなければならない場合にのみ撮影に参加して貰い、他は人形が代役を努めていました。

タンクローリーの扉を開く関根さん。

おかしいのは、扉がロックされていない事とロック解除のボタンを押さずに扉が開いた事でしょうか。

それもアンドロイド故の怪力なのでしょうが、ここで正体をバラす訳にはいきません。

その辺りは、警察官を飛ばす事で匂わせています。

警察官が宙を飛ぶのは、一人づつ吊って撮影しています。

一度、少し落ちる様になりながら上へ向いて投げられる「逆放物線」は、クレーンを使っての吊り特有の空中遊泳です。

ですから、警察官役はJAC(現:JAE)の若手が努めていました。

「動きの最初を撮ったならば、最後も見せる」とは、某監督から言われた言葉で、その言葉通りに警察官は木箱に派手に当たります。

乗り込む関根さん。

アンドロイドがサングラスをする行動には疑問が出ますが、悪役的にみせる以外にも何某かの行動原理があるのでしょうw

タンクローリーの暴走スタート!

跳ね飛ばされるパトカー。

周りに居る警察官もJAC(現:JAE)の若手です。

パトカーの屋根によじ登っているのは素晴らしいです。

更に暴走アクションで畳み掛けます。

パトカーの潰れる場所付近に爆発物を仕掛けて、タンクローリーの激突に合わせて爆発させます。

当時の無線機器では発火タイミングにズレが生じる可能性が高いために有線による発火です。

この場合もパトカーのフロント側の方に有線で発火線が伸ばされています。


赤ちゃんをバックにサブタイトル。

この状況で赤ちゃんは笑っていますw

私達スタッフではなかなか笑って貰えませんでしたから、カメラの横にお母さんが居て笑わせて頂いていました。


●タンクローリー

タンクローリーの暴走。

赤信号で突っ込む交差点。

2台の乗用車は、タケシレーシングチームの運転です。

公衆電話ボックスは、東映東京撮影所のオープンセットに作られた作り物です。

町並みは「公園通りの猫たち」でオープンセットに作られたモノの流用だったと思います。

当時は、現在の様にCGによって街なかで爆発した映像を表現することが出来ずに、実際の爆発を撮影していましたから、このオープンセットの存在は大きなものでした。

その為に、以後の「仮面ライダーZO」の頃までの作品でも度々使用される事となります。


もう一度乗用車を跳ね飛ばすタンクローリー。

跳ね飛ばされる運転手の顔のアップは、タケシレーシングチームのテルさんです。

爆破する乗用車は流石に特撮研究所の撮影で、この為に撮影されたものではなく、過去の他の作品の映像を流用したものだったと思います。

こういったシーンの特定には通常苦労するものですが、当時の制作助手だったA氏が「○○という作品の第○話に似たようなシーンがありましたよ」という人間特撮データバンク(重度の特撮ファン)でしたから、他のスタッフ(特に監督と記録さんと編集さん)は助かっていましたw

タンクローリーを追いかけるパトカー。


●警視庁

警視庁本部の空撮は、新撮(=新規撮影)ではなくて他の作品の空撮の流用です。

ウインスペクター本部は警視庁内にある設定でしたが、関係者とはいえ子供がスケボーに乗って廊下を滑っているのは、今となってはコンプライアンス的に少し問題でしょうねw

そのスケボーに乗った良太がウインスペクター本部までカメラを案内します。


正木本部長の登場です。

後姿の純子さん。

モニターに映し出されるタンクローリーは、合成によるはめ込み映像です。

正木本部長、純子さん、良太くんの紹介カットを入れてから、マドックスが博士と赤ちゃんの画像を別のモニターへ合成で映し出します。


バイクルとウォルターの出動。

バイクルとウォルターの寝ているキャリアも手動で動かしています。

ランプの仕込まれた電飾用マスクと電飾用の胸のプロテクターにランプが点滅します。

勿論、コレも手動ですw

順番にランプが点灯する様なスイッチが、レインボー造形さんが電飾用のマスクやプロテクターを納品する際に一緒に作られていて、操作は撮影現場で行っていました。


良太は「喫茶チャコ」の久子姉ちゃんにご報告。

OP・EDのメイキングの際に書きましたが、この「喫茶チャコ」は喫茶店付きの自動車販売店の定休日を利用してロケセットにさせて頂いていました。

ですから、良太が店に入ってきた際に青い車が手前に映るのは本物の展示車両という訳です。

久子がコーヒーを持っていく男性客は、制作主任の東さんです。

今でも東映テレビプロ制作の制作主任として現役でご活躍されています。

良太がスイッチを入れるテレビのニュース画面は、やはり合成入れ込みの映像となります。

合成入れ込みの際には周りはいくら動こうと構わないのですが、合成マスクと言われるマスキングされた部分が動いたり前を遮ったりすると途端に合成が難しくなり製作金額も製作時間も跳ね上がりますから、撮り直しにするのが通例でした。

ですから、合成マスクの周囲に居ることになる人物や物は合成マスク自体にかからないようにしなければなりませんでした。

そのお陰で、この場合も良太は必要以上にテレビ画面から身を引いています。

久子の紹介カットが入った後に再びテレビ画面への合成カットがありますが、良太のスケボーが合成マスクに対して微妙で怖い位置にありますw


テレビ画面の中のタンクローリーが駐車場の車をなぎ倒して行く映像は、矢島特撮(=特撮研究所)さんのお仕事によるものです。

この映像の後の一連の自動車の炎上カットなどは、他の作品からの流用です。


●千葉

温室ビニールハウスと荒れた花畑に停まっているウインスコード。

竜馬と優子の紹介カットです。

千葉の花農家さんに借りたロケ地です。

廃液を流す工場は、流石にイメージの問題から外観を使用させては頂けませんから、ミニチュアの工場を合成で背景に入れ込んでいます。

花が萎れるカットは、薄いプラスチックの造花に熱風を当てる事で花が萎みながら溶けて行き、急激に萎れている様に見せています。

優子ちゃんは余り登場回が多くないのですが、優しくしっかりものの竜馬の妹というキャラクターが星川遙ちゃんの優しい顔立ちと相まって忘れられない役でした。

優子の前のめりに歩いたり走ったりする姿が脳裏に焼き付いています。


走るウインスコード。

車載電話で指示を送る正木本部長。

当時は携帯電話と言っても某女性芸人さんが持つ様なショルダータイプの大きなモノで、車載の電話を持つ車というモノもありました。

一時期はロケバスに公衆電話の様な車載電話が付いているタイプもありました。

電話代金は、公衆電話よりも遥かに高いモノでした。

正木本部長の車にはコードレス電話式の車載電話が搭載されている設定でした。

勿論、本当に電話をかけることは出来ないプロップでした。

普通の車載電話はコード式が一般的でしたから、コードレス式というだけでも超高性能という事になります。


バイクルがウォルターに吊られて運ばれています。

ブルーバック(当時はまだグリーンバックではありませんでした)の前でウォルターをピアノ線で吊って、バイクルの肩のハンドルに掴まらせて飛んで運ばれている様に見せています。

このブルーバック撮影があるので、ウォルターの体色がブルーではなくてグリーンに近くなったのではないかとも思います。

信号の赤色と黄色と青色(=緑色)ではないかとも思います。

もしかするとこの両方か、更に理由があったのかもしれません。


九十九里浜を疾走するウインスコード。

カットインされる建物やからくり時計のインサートカットは新規撮影ですが、街なかの車や人々の映像は過去の他作品からの借り物です。


●バリケード

警官隊や機動隊員らによってバリケードが築かれる。

警官隊と機動隊員はJAC(現:JAE)の若手です。

ドラム缶と木箱のバリケードです。

後々タンクローリーがぶつかって来ますから、タンクローリーを破壊してしまうようなバリケードは築けません。

六角さんの紹介カット。

そこに正木本部長がバイクルとウォルターを伴って登場します。

この時の正木本部長の服が間に合っていなくて、コートと白いスカーフで誤魔化しているのは私が再三話をさせて頂いている通りです。

帽子だけは間に合ったので、どうにか撮影出来ました。

ガソリンが満載されたタンクローリーに赤ちゃんが乗っているので、爆発の危険があるために発砲が出来ない。

だから、警官隊も機動隊もタンクローリーに手が出せない。

六角さんは身を挺してタンクローリーを停めようとする。

責任感はあるが超危険な行為。

まぁ、結果はコメディシーンの様に取り扱われていますが、良い子は真似しちゃダメですね。

タンクローリーがバリケードに突っ込んでパトカーも薙ぎ倒されます。

カメラアングルが車両の脇とか、タンクローリーの下からとか、色々と工夫されています。

このパトカーの薙ぎ倒しカットは、実際に撮影されました。

パトカーがひっくり返るカットから爆発するカットまでもパイロット作品ならではの費用のかかったカットが続きます。

更にその燃えるパトカーの前でふっ飛ばされる警官隊(若手JAC達のスタント)の後ろに、フレームインしてくる正木本部長。逃げる事を指示してフレームアウトします。

勿論、フレームインからフレームアウトまでのスローカットを先に撮影しておいて、後からインサートカット用の正木本部長のバストショットを撮影しました。


●バイクルとウォルター

ウォルターとバイクルにタンクローリーを停める指示を出す正木本部長。

吊りで飛ぶウォルター。

勿論、ロケ現場にクレーン車を入れて撮影しました。

バイクルの胸のタイヤでの走りは、先ずは撮影所のセット内でタイヤから火花が出ているカットを撮影しておいた映像で、あたかもタイヤが回っているかの様にみせかけておいて、木製の平台車を腹の辺りに敷き込んだバイクルが、ピアノ線で引っ張られるカットを少しコマ落としで撮影して胸のタイヤで走っている様にみせています。

台車はシエンカ(四塩化チタンの略で、現在は使用不可の劇薬です)を台車にたっぷり塗り付ける事で、煙で隠してしまっています。

タンクローリーにしがみ付くバイクルとウォルター。

勿論、バイクルもウォルターも見えない位置に命綱を付けています。

流石にバイクルがガラスを破って関根さんに掴みかかったり、ハンドルを握るカットはタンクローリーを停車させて、カメラの方を微妙に揺らせて走っている車内からの撮影という画面を作っています。

バイクルにハンドルを掴まれて、ガソリンスタンドに入り込むタンクローリー。

エクシードラフトのパイロットにもあった様なシチュエーションですが、ウインスペクターではガソリンスタンドは爆発しませんw

関根さんに振り落とされるバイクル。

転がる先には自動洗車機。

本来は人間が入ってはいけない機械ですし、ましてや立ったままでは危険すぎるので、座り込んでの洗車カットとなりました。

マンガ的やアニメ的にロボットの洗車カットを表現するのは、比較的に無理なく出来るカットですが、流石に実写で表現するには危険が伴うカットでした。

ガソリンスタンドの方と共に山岡アクション監督が検討して、比較的ブラシの当たりが少なくて洗っている様に見える場所や方法を選んだ結果が映像の様になりました。

バイクルがピカピカになって立った状態で洗車機のブラシの後ろから現れるカットは、バイクルにブラシは全く当たっていません。

バイクルのピカピカ・キラキラ表現はアニメ的ですが、光学合成で処理されました。


今度はウォルターがタンクローリーの運転席に侵入します。

運転席の天井を破って頭を突き出すウォルター。

天井は、実際のタンクローリーの天井を金属カッター等を使って開けて撮影しましたが、このカット自体が、タンクローリーの暴走シーンを殆ど撮り終わった後で撮影されましたから、繋がりとしては成立していません。

ウォルターを突き飛ばした拍子で窓ガラスが割れて、その破片で関根さんの左目から頬の辺りまでの機械が露出します。

この関根さんの顔のパーツは、レインボー造形さん製作のプロップで、関根さんのライフマスクから作られたモノでした。

そして、左耳や後頭部等を利用して固定化できる様になっていました。

アンドロイドR24としての正体がバラされる瞬間です。

目からビームを放ってウォルターをタンクローリーの外に弾き飛ばします。

ウォルター。その助手席に赤ちゃん居なかったかい?等というツッコミはしないで下さい。

ましてや赤ちゃんを身体の下に轢いちゃていないかい?等というツッコミもしないでやって下さいw

山岡アクション監督のせいと言いますか…演出上の「ワスレ」として脳内処理して頂ければ幸いですw

タンクローリーが街なかを疾走し、歩道に乗り上げて店先を進み、乗用車を薙ぎ倒すカットは、一瞬ミニチュア撮影の様な微妙なスローで撮影されていますが、件の撮影所のオープンセットの店先を使用した本物の暴走・爆発カットとなりました。


●事件の裏

純子さんが前日に誘拐された赤ちゃんの自宅である高沢邸に赴き、関根さん=アンドロイドR24の事を聞き出そうとしている。

重い口を開いた高沢博士から、事件の首謀者の黒部進さん=黒田鬼吉とその動機を聞き出した純子さん。

黒田は、元友人だった高沢博士の才能を妬み、高沢博士が大切にしているお孫さんの命と研究施設の破壊をしようとしているらしい。

その情報を正木本部長や竜馬が共有する。

そう言えば、竜馬は千葉からまだ帰って来ていない様で、やっと横浜ベイブリッジを渡った様です。

正木本部長の車の走り、ウインスコードの走り、タンクローリーの走りと各運転手と赤ちゃんのカットインを入れながら、黒田の情報と動機が語られる。

黒田の画像は、レンズ付きフィルム「写ルンです」=簡易カメラを使って撮影した印画紙印刷の写真を16mmカメラで撮影して、合成素材として使用しています。

当時の写真素材の定番の作り方でした。

中盤のCM前に来て、事件の首謀者と動機を語る為に走りカットを連発しなければならないのは苦しい映像演出なのですが、爆発等の派手なカットの無いホッと一息つける緩急の「緩」の状態を作り出しています。

そのまま、CM前のアイキャッチに入ります。


●黒田邸

黒田の家にあるアンドロイドの素体は、レインボー造形さんによる新規作成ではなくて、小道具さんによる過去の造形物の流用による創作物です。

マネキンの頭にある左目の機械部分は、関根さんが装着するプロップをマネキンの首に装着させているだけです。

黒田=黒部さんが食べているカップラーメンは、ベースは日清のカップヌードルだったと思います。そのパッケージをメーカーも特定出来ないオリジナルな物に作り変えて使用しています。

テレビの中の映像は、合成処理です。

この合成処理用の映像もフィルムを焼き増したり撮影が必要なモノでしたから、意外と撮影しなければならないカット数は多かったです。


赤ちゃんに改めて手を伸ばすR24。

R24の手を抵抗する様に両手で掴まえにいく赤ちゃんが良い演技をしています。

映像業界には「畜生(=動物)と子供(=特に赤ちゃん)には勝てない」という言葉があるようで、意味としては「演技演出が出来ない動物や赤ちゃんが予期せぬ良い演技が出来た時には、どんな大御所の演技をも超えるものだ」ということらしいのです。

危機一髪でウインスコードとバイクル・ウォルターが駆けつけます。

バイクルとウォルターが2体がかりでタンクローリーを停めようとします。

足元の火花のカットは、後日撮影所のセット内で撮影された映像です。

バイクルとウォルターがタンクローリーに後ずさりしている映像は、バイクルとウォルターの足裏にガムテープを貼って滑り易い様にしていたと思います。

それにしても通常の人ならば、このバイクルとウォルターの様に絵に描いたように背中が真っ直ぐなままにはなりません。

中の人の筋力が素晴らしいという事です。

小さなお友達も大きなお友達も、決して真似しちゃダメですw

バイクルとウォルターが弾かれます。

タンクローリーって盗んだモノじゃなくて、コレも黒田が強化した改造車だったのじゃないのかと思える程のパワーです。


●レスキュー

タンクローリーは工場(高崎金属)へ。

特撮研究所さんの映像に実際のタンクローリーの走りのカットを差し込む事で、特撮映像までが実際の映像であるかの様な錯覚を覚えさせる程の特撮研究所の映像です。

工場のパイプ等を壊しながら爆発の中を突き進むタンクローリーは特撮研究所さんのカット。

壁を突き破って工場内へ入るタンクローリーは実際のカット。

工場内をドラム缶等を吹き飛ばしながら進むタンクローリーは、特撮研究所さんのカット。

危険だったり、爆発が大掛かりになって実際のロケ先で行う訳にはいかないカット等は特撮研究所に助けて頂くのですが、人間が絡むカットは、どうしても実際の撮影という事になります。

工場職員と事務員が居る場所にタンクローリーが突っ込んで来るカットは、実際に高崎金属の屋内に作り物の壁や柱を持ち込み建て込んで作られた場所に実際のタンクローリーが突っ込んで撮影されました。

逃げる工場職員と事務員さんらは全てJAC(現:JAE)の若手のお仕事です。

他のアクションのカットにも言える事ですが、当時は若手といっても30年以上前ですから、今やアクション界の大御所やアクション監督になっている方もこの中にはいらっしゃいます。

タンクローリーは工場の壁をふたたび突き破って外に出てきます。

象徴的なカットなので、カメラを数台にして少なくとも普通のコマ送りカットとスローカットは撮影されました。

オープニングにも使用されて、最終回まで使用され続けました。

タンクローリーの暴走によって破壊された工場内には、瓦礫と炎の中に負傷者が多数見える。

レスキューポリスの真骨頂のレスキューカットです。

竜馬は、まだ「着化」しません。

ウォルターは空から、バイクルは地上からのレスキュー作業です。

ウォルターの吊りは、脚も上がらなければ飛んでいる感じに見えない為に、脚にもピアノ線を取り付けて引っ張り上げています。

但し、羽根=ディスライダーが異様に重かった為にバランスが取りにくい状態でした。

また、上空とはいえ炎に近い事から地上で感じる以上の熱風が当たっていたのではないかと思われます。

更に救出する為にウォルターに抱えられる工場職員や事務員も、マネキンではなくて実際の人間でした。

吊りのピアノ線は、ウォルター、工場職員、事務員の三者共に装着されています。

彼女らは生身ですから、炎の熱風は元より爆発の火の粉も飛んで来る可能性もありますから、手で顔を覆わなければならない状態でした。

そういった意味からも、ウォルターよりも救出されるJAC(現:JAE)の若手さん達の方が大変なカットでした。

尚、ピアノ線吊りのカットにはスタッフはもとよりJAC(現:JAE)の面々もピアノ線が結ばれているザイルを引っ張る人員に参加するのが通例でしたから、工場職員役の男性のJAC(現:JAE)の若手も衣装のままで参加していました。

そして、バイクルやウォルターのマスクやプロテクターの装着の補助もJAC(現:JAE)の若手さん達の仕事でしたから、端で見ていると役衣装のままで兼務をこなすJAC(現:JAE)の若手さん達の光景は、一種不思議なものに見えてくるモノでした。

私は、そんなJAC(現:JAE)の若手さん達の直向きさが好きでした。


バイクルはバイスピアを伸ばしたロッドモードで鉄柱を跳ね除けるのですが、この鉄柱にもピアノ線を付けていてバイクルの演技に合わせて引っ張って跳ね除けられた様に見せていました。

机の上に要救護者を乗せてバイスピアで持ち上げるバイクル。

このバイスピアを二本繋げた様なスピアモードは、鉄パイプで作られたレインボー造形製です。

勿論、机の方にピアノ線を付けて吊り上げています。

バイクルはその吊り上げスピードに合わせてバイスピアを持つ腕を上げて行くのです。


マルチパックファイヤーバージョンでの消火カットです。

無害な炭酸ガスを噴射して、消火剤を噴射している様に見せています。

但し、炭酸ガスの噴射には大きなガスボンベが必須で、空を飛ぶウォルターが空中で炭酸ガスを噴射するカットは、全身が映る場合は合成で噴射している様に見せてもらっていました。

このマルチパックを装着したウォルターは更に重くて、ピアノ線吊りも大変でしたが、地上ではディスライダー+マルチパックとなって、ディスライダーだけでも背中に傾いている重心が更に背中側に傾く事になっていました。

しかし、前屈みになる訳にもいかず、重心バランスが大変だったと思います。


●逮捕

純子さんが黒田の逮捕に赴きます。

抵抗はあるものの黒田を逮捕。

ちゃんと純子さんのオートマグの発砲シーンを入れて、登場人物や装備品の紹介を網羅するパイロットらしい作りです。

黒田は逮捕したもののR24はプログラムで動いていて止められない。


タンクローリーは高沢博士の研究施設へ。

待ち受ける正木本部長。

流石にレジェンドヒーロー様は変身しないようですw

そこへ、孫可愛さに車で駆けつける高沢博士。

危険だと感じた正木本部長は、竜馬に「着化」を促す!


●着化

竜馬「着化!」

バンクとなる着化シーケンスが、パイロットならではで細かく見せられる。

着化シーケンスの撮影は全て撮影所のセット内で行われました。

シートもウインスコードと同じカマロのシートをセット内に持ち込んで撮影しました。

勿論、ウインスコードのシートではありません。

竜馬=山下さんは基本的にこのシートから動きません。

プロテクターは、アップ用を使用しています。

但し、今後も使用する備品ですから「切る」とか「穴を開ける」とかの変形をさせる事はできませんでした。ですから、装着シーケンスにも工夫が必要でした。

先ずは腕から装着。

両腕が装着すると共に、胸にも黒い物が見えてきます。

線画合成で少し誤魔化そうとしていますが、この黒い部分は腕パーツを繋いでいるスーツ部分です。チャックは背中に付いています。

そこに胸のプロテクターが装着されます。

これで胸と腕のプロテクターが装着されました。

そして顔のアップ。

マスクの装着です。

マスクと首の周りを覆う首輪状態のパーツは別でしたが、マスク装着の際に両方とも一度に装着されます。

尚、本来マスクを装着する際には「下面」とか「面下」とかと呼ばれる髪を覆う頭巾を被ります。面=マスクの下から髪の毛が出たりするのを防いでいるのです。

マスクの装着と共に山下さんも「下面」を装着してマスク裾からの髪の毛の露出を避けていました。

マスクが装着した後に、先ずは後頭部が閉まります。眼の前のシャッターが閉まり、その後でバイザーが閉まります。

後頭部の閉まりとバイザーの閉まりは、私の担当でした。

どれもマスクから伸びているワイヤーを引っ張ることで、手動で作動する様に出来ていました。

マスク脇、胸、マスク頭、等のシグナルの点滅やアンテナの回転ギミックも、全て手動で操作していました。


危機一髪、ファイヤーが高沢博士を救って、高沢博士のメガネだけがタンクローリーに轢かれてしまいます。

スピード感が欲しかったのでしょう。高沢博士を救うファイヤーのカットは、コマ数が落とされています。

ファイヤー紹介カット。


●ファイヤーvsタンクローリー

跳んでタンクローリーにしがみ付くファイヤー。

流石に命綱は着けています。

腰から下が見えてしまっている場合は、本当に引き摺られています。

腰から下が見えにくい場合は、腰の辺りに平台車を敷き込んで、お尻が直接路面に接触しないようにしていました。

どちらにしても、アクション用のスーツの中にクッションやタオルなどの衝撃吸収用のモノを詰めて対応されていました。

タンクローリーから転げ落ちる場合も、腰や脚や膝や腕や肘や背中には、衝撃吸収材を詰めて撮影に挑んでいました。

再三のR24からの攻撃に、クラステクターの耐久力が限界を迎えようとするファイヤー。

マドックスが着化のタイムリミットが後1分だと告げる。

ファイヤーの身体のアップに火花が飛び散るカットは、撮影所のセット内での撮影です。


研究施設の門のバリケードを破るタンクローリー。

ファイヤーは、マックスキャリバーのレーザーソードをタイヤに突き刺す。

タイヤがバーストしながらも進み続けるタンクローリー。

バーストしたタイヤのカットは、特撮研究所さんのミニチュアのタイヤだったと思います。

それにしても、R24=関根大学さんの無表情な演技には、返って難しさを感じてしまう。

アンドロイドとして無表情なのにも関わらず、R24の怒りや驚きが感じ取れるからだ。

進み続けるタンクローリー。


純子さん、ウォルター、バイクルも駆け付ける。

ウォルターとバイクルの身体の間から身を乗り出したい純子さん。

でも2体の間隔が狭くて立ち往生している様に見える。

先にフレームインするウォルターが、ほんの数センチ止まる位置がズレただけなのだが、足元に止まり位置をマーキングしてあっても、マスクを着けた状態では足元を見る事すら難しく、止まり位置を自分が目にする狭い景色だけで、感覚的に止まっているに過ぎない為に、数センチのズレは誤差の範疇なのです。

まだ、進もうとするタンクローリー。

ファイヤーは、マックスキャリバーのレーザーパルスガンでタンクローリーを横転させる。

流石にタンクローリーの横転カットは、特撮研究所によるものです。

その後の研究施設に突っ込んでいくタンクローリーのカットは、高崎金属の工場前に組まれたベニヤ等で作られた研究施設の壁にタンクローリーが突っ込んで行くのを撮影しました。

タンクローリーの爆発。

タンクローリー自体を爆発させた訳ではなくて、爆発のみやタンクローリーの前で爆発を起こして、タンクローリー自体が爆発した様に見せる演出です。

爆発も高崎金属の前の広い荒れ地で行われました。

撮影所のオープンセットで爆発の撮影が出来る様に思われがちですが、流石にナパーム爆発は音も炎も大きくて撮影所のご近所に迷惑がかかる可能性が高く、オープンセットでの撮影を避けていました。


炎と煙の中から赤ちゃんを抱えたファイヤーが現れる。

勿論、赤ちゃんは人形です。

このシーンはスローで撮影されていますが、同じシチュエーションでオープニング様に別パターンも撮影されました。

バイクルとウォルターが、赤ちゃんを抱えたファイヤーに寄って来るというオープニングでのカットでした。

赤ちゃんの無事を高沢博士に見せているファイヤー。

ここからの赤ちゃんは、全て本物の赤ちゃんになっています。

そこにR24の影が……

ファイヤーは、眼の前の高沢博士に赤ちゃんを預けるのではなくて、脇に居た正木本部長に預ける。

赤ちゃんを守るより安全策な方を咄嗟に判断したという設定である。

腕を振りかざして攻撃をしようとするR24だが、倒れ込むように爆発してしまう。

バックには研究施設の壁の残骸とタンクローリーが置いてあるので、撮影場所が高崎金属でも研究施設の前の様に誤魔化されてしまうのです。

爆発しても尚、腕だけになっても迫ってくるR24。

この腕だけが這いずるカットは、撮影所のセット内での撮影でした。

ピアノ線による引っ張りによって、腕だけが動いているかの様に見せていました。

ファイヤーのデイトリックM-2のレーザーガンによって、そのR24の腕も破壊される。

このデイトリックM-2の使用によって、第一話の時点でウインスペクターに装備されている武器や備品を余すところなく使用した事となりました。

笑う赤ちゃん。

泣くよりも笑う方が撮影する事が難しい赤ちゃんですが、この赤ちゃんは良く笑ってくれました。

この赤ちゃんも今や30歳を過ぎているという時間の恐ろしさがあります。

正木本部長が赤ちゃんをあやし、高沢博士に還す。


●マスクオフ

ファイヤーのマスクオフ。

着化の反転撮影の様にも思われますが、見える山下さんの目元にはスプレーで汗が表現されていますし、後頭部を外す際には炭酸ガスを噴出させてマスク内の気密性と高温になっていたという表現を演出しています。

そして、この後のマスクオフの撮影の仕方が、メタルヒーローシリーズに残る山岡アクション監督の発明という遺産なのです。

単に顔の前にマスクを持っていて、マスクを上に脱ぐ感覚で上方に掲げ、そのマスクを脇や胸の前に持って来て、あたかもマスクを脱いだ様に見せかけるのです。

このバイクのヘルメットを脱ぐ様な動きで、ワンカットでマスクを取り去って生身の顔を見せる事が可能となったのです。

少なくとも、このマスクオフの演出はこの後のレスキューポリスシリーズには受け継がれて行きます。

汗を振り払う竜馬。

コレまで含めてマスクオフです。


良かった良かったのカットです。

赤ちゃんと共にパトカーで送られて行く高沢博士。

普通で自然なカットですが、高沢博士は自分の車を置いて行ってしまう様ですw

当時はベビーシートもチャイルドシートも存在していない時代でしたから、赤ちゃんが車に乗る際には誰かが赤ちゃんを抱えて乗り込むとか、クーファン等の赤ちゃんを寝かせて置けるモノを用意しなければなりませんでした。

ですから、この演出は理にかなっていますが、少し高沢博士の乗って来た車の事を考えてしまいました。


全員の横並び歩き。

流石に竜馬がセンターです。

ナレーションが良いですね。

「新しいヒーローが誕生した。」

「その名も、警視庁特別救急警察隊隊長警視正ファイヤー。」

私が初号試写を観た時に1番ゾクッときたナレーションでした。


●あとがき

今回、メイキングを書いてみて、通常の記事の3.5倍、メイキングとしても倍近く、エクシードラフトのメイキングの1.5倍の文章量が必要でした。

コレは、内容の濃さもさることながら、私自身の思い入れも関係しているのだと思います。


「特警ウインスペクター」は、私にとっては最初にパイロットに関われた作品でした。

オープニングもエンディングもパイロットと一緒に撮影するとか、新品のスーツや装備品の輝きとか、設定資料集の配布と演出方法とか、全てが驚きの連続でした。

そして、パイロットを含めて数話の間にしかない作品の「箝口令(=かんこうれい)」を共有できたのも初めてであり、大きな収穫でした。

因みに「箝口令」と言っても、上からの命令も何もありませんでしたが、暗黙の了解で撮影所関係者以外には口外しないように努めていたという程度のモノでした。


兎に角「ウインスペクター」は、それまでの単独のヒーローとは「全く」違っていました。

敵の組織は無い。キグルミが殆どない。敵が人間の場合もある。レスキューがある。

仮面ライダーや宇宙刑事に親しんで育って来た私も少し戸惑いました。

しかし、撮影が進み試写を観た時には胸躍るモノを感じたのも確かです。

また、自分が関わった作品の主題歌が試写室に流れる度に、気恥ずかしく思ったのも事実です。

その感情が何だったかは分かりませんが、エクシードラフトでは起きなかった感情でしたから、こんな素晴らしい作品に自分の拙い仕事がフィルムに納まっても良いものなのか?という感情だったのかもしれません。


定番を廃し、人間ドラマや災害シーンを軸にストーリーが進む。

特撮ヒーロー番組だけに荒唐無稽な災害や兵器や設定はあるものの、出来るだけリアルに解決して行くWSPの面々。


観てくれている方々にも様々な受け取り方があるかと思います。

そして、好きになって頂いたポイントも視聴者の数だけ有ると思っています。

もしかすれば、嫌いな部分もあるかもしれません。

それでも、レスキューポリスシリーズを今も愛して下さる方々がいらっしゃるのには、感謝しかありません。


レスキューポリスシリーズよ永遠なれ!

愛する者達の胸の中で……

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