表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
余り語られない撮影所のあれこれ  作者: 元東△映助
118/191

余り語られない撮影所のあれこれ(117) 「『特撮ヒーロー』と『時代劇』」

★余り語られない撮影所のあれこれ(117) 「『特撮ヒーロー』と『時代劇』」


●特撮時代劇

現在「特撮」のテレビ番組も少なくなりましたが、「時代劇」のテレビ番組は民放に於いては特番を除きレギュラー放送番組は皆無となっています。

その「特撮」というジャンルにおいて、「時代劇」を主体とした『特撮時代劇』というモノが過去にありました。

「仮面の忍者 赤影」「怪傑ライオン丸」「変身忍者 嵐」などといった作品群です。

これらの『特撮時代劇』は、「特撮ヒーロー作品」ではありますし、「特撮」を母体として生み出されたモノの様に感じます。

勿論、「特撮」と「時代劇」のコラボ的な作品ではありますが、そもそもが「特撮ヒーロー作品」が「時代劇」のエッセンスを色濃く取り入れて生まれ出た作品群だということを知って欲しいと思います。


今回は、「特撮ヒーロー作品」と「時代劇」とを掘り下げながら、その歴史と関係性に関してのお話です。


尚、例によって情報のほとんどが約30年前ですw

今となっては変わっていることや、無くなっていることもあります。また、記憶の内容が30年の間に美化されたり劣化してしまっているものも存在しますwwその点をご理解の上、あらかじめご了承下さい。

そして、ここでの意見は、あくまでも個人的な意見です。

東映をはじめとした各社や映像業界の直接的な意見ではありません。その点を予めご理解ご了承下さい。


●特殊な撮影

「特撮ヒーロー作品」が特殊な撮影技術を使用した作品だということは、周知の事実です。

そもそも「特殊効果撮影」というモノ自体が、映画や映像作品の黎明期から存在していて、現在では「特殊効果撮影」とは言えないくらいに多用されている撮影技術ですら、黎明期では「特殊効果撮影」と考えられて来ました。

「ストップモーション」「スローモーション」「カットバック」「場面転換」などといった現在では極普通の撮影方法ですら、映像の黎明期に於いては「革新的な特殊な効果を生む撮影方法」だったのです。

勿論、今ではその様な「基本的な撮影方法」を「特撮」とは称していません。


「現実的に起こり得ない場面を、技術を活用してあたかも現実的に起こっているモノとして撮影する方法」が「特殊撮影=特撮」と定義付けるとすれば、どんな映像も「特撮」映像になる訳です。

言い換えれば、どんな映像作品であろうとも基礎的な撮影技術の部分から既に「特撮」の技術を利用して作られているとも言えると思います。

つまり、「時代劇」も全く「特撮」技術を使用していないとは言えないという事になります。


これら「映像作品は全て特撮技術で出来ている」という意見は、自分でも暴論だと思います。

しかし、それぐらいに「特撮」は映像作品に浸透している技術だと知っておいて欲しいのです。

尚、この場合の「特撮」は、技術的な事であってジャンルやエッセンスとしての「特撮」ではない事は明記しておきます。

「特撮」という単語は、幾重にも意味を持つので……


●特別な準備

「現代劇」というジャンルを「刑事ドラマ」や「恋愛ドラマ」といった、普通ならば「特撮」を多用しない作品に絞ってしまうのならば、それら作品群には「特別な準備」などというモノは、余り多くありません。

アマチュアが自主映画を撮影しようとする際に、余りにも多くの「特別な準備」が必要となる映像作品を作る事が困難な様に、プロの現代劇でも「派手な銃撃戦」や「爆発」なんていう「特別な準備」が必要とする撮影は、手間がかかります。


「特撮ヒーロー作品」の多くは、「現代劇」の様な様相がありながらも、「非日常的」な「特撮ヒーロー」を見せなければならないという特徴上、「ヒーロー」や「ヴィラン」達の造形的な「特別な準備」が必要ですし、撮影中に於いても「吊り」「爆発」等の「特殊効果撮影」の「特別な準備」が必要となります。


これが「時代劇」に於いては、撮影前から「特別な準備」の連続です。

「髷」「二本差し」「草鞋」といった現代日本に於いては皆無の様な様相の準備や、「日本髪」「着物」「時代的建築物」などといった、現在の日常生活に於いては見かける事の少なくなったモノの準備といった、現代日本の中では事前に「特別な準備」となるモノがなければ、撮影もままならないという特殊な作品でもあるのです。

しかし、時代劇に於いては、いざ撮影に入ってしまえば「特別な準備」や「特殊効果撮影」の必要な状況は、そう多くありません。


そして、これら「特別な準備」がどちらの作品でも、作品を魅力的に魅せている事になっています。


●特殊な芝居

『「舞台俳優」は、「時代劇」や「特撮ヒーロー作品」の役者に向いている。また、その逆もしかり』とは、私が撮影所に居た頃に聞いた言葉です。

その理由は、「舞台俳優」「時代劇俳優」「特撮ヒーロー俳優」の三者に共通する事が、「大きな芝居」が必要だからという事でした。

「舞台」では、大きな身振りで大きな声で観客に見せなければ、少なからず距離のある舞台と客席では芝居自体が伝わり難いモノです。

「時代劇」では、小さな身振りや声でも伝わるかに思いますが、現代劇に比べて所作の「見栄」や「キレ」がなければ、特に「勧善懲悪」モノの「時代劇」では「善」としても「悪」としても、その要素が薄らぎます。

コレは、「時代劇」が「歌舞伎」や「狂言」の延長線上に変化を加えたモノに他ならないからです。

「特撮ヒーロー作品」は、この「時代劇」の中から「勧善懲悪」なヒーロー劇を「現代劇」風にアレンジしたモノですから、「見栄」や「キレ」が必然的に出てきます。

しかし、それは「日本の」「特撮ヒーロー作品」に於いてだけの要素であり特徴です。


「時代劇」の呼称も「歌舞伎」や「狂言」の流れから来ています。日本映画の草創期に於いて、役者は「歌舞伎」や「狂言」の様に全て男性だけであり、女性の役は女形役者を使っていました。

そして、「歌舞伎」や「狂言」では江戸時代以前を題材にした内容のことを「旧劇」や「時代物」と呼んでいました。

それが、日本映画に於いて女優を実際の女性に演じさせる事などから、「(旧劇に対して)新劇」+「時代物」の呼称から「新時代劇」→「時代劇」へと呼称が変化し継がれて行くことになった訳です。


●忍者映画

時代劇には、「忍者映画」と呼ばれる作品群があります。

その中でも忍者をヒーローの様に扱った「妖術」や「忍術」を使った作品が存在します。

「忍術」で空を飛び、「妖術」で龍や巨大なガマガエルに変化するといった、非現実的な作品群ですが、「特撮ヒーロー作品」のなかった時代には、この様な「忍者映画」が子供達の人気を得ていました。

特に1921年に公開された映画「豪傑児雷也」は、日本初の特撮映画と呼ばれています。

しかし、CGもないフィルム時代の「特撮」は、全てが現実に作ったり爆破したりしなければならず、予算のかさむ作品であり、劇場作品以外では制作できていませんでした。


●特撮ヒーローの誕生

日本の「特撮ヒーロー作品」の元祖は、1958年の「月光仮面」だと言われています。

1954年に「ゴジラ」が公開され、怪獣が子供達の間に根付こうとしている時代に、連続テレビドラマで子供向けの「ヒーロー作品」が企画されました。

子供達の好きな「鞍馬天狗」の様な「ヒーロー作品」が考えらましたが、制作会社は破格の低額で制作を受けてしまっており、時代劇の様なカツラや衣装や刀といった世界設定を見せるだけでも予算のかかる企画では、全く制作費が足りませんでした。

そこに「スーパーマン」の様な作品というアイデアが出ます。

そして、舞台設定の予算が少なくても済む「現代劇」で「スーパーマン=鞍馬天狗」+「探偵要素」という企画から「月光仮面」が生まれたのです。

そこに「忍術」や「妖術」的な要素が加わり、光学合成等の当時高額な特撮を除いて、撮影現場で出来る簡単な技術による「特撮」を取り入れて作品が作られて行きます。


この企画は大当たりします。

チャンバラごっこや戦争ごっこだけだった子供達の世界に、「覆面のナゾのヒーロー」が大きく台頭して来たのです。

そして、後にはSF的な要素や光線等といった合成を必要とする様々な舞台設定によって、幾種類もの「特撮ヒーロー作品」が形作られて行くのです。

「月光仮面」「遊星王子」「七色仮面」「アラーの使者」「ナショナルキッド」といった1960年までの初期特撮ヒーロー作品を経て、1966年には「怪獣」+「特撮ヒーロー」という子供達の夢の共演であるエポックメイキング作品「ウルトラマン」が放送されるのです。


●日本独特の「名乗り」

日本の特撮ヒーローには、海外のヒーローには無い「名乗り」が存在します。

これも「歌舞伎」や「狂言」の「見栄」から来ているのは、有名な話です。


マーベルをはじめとして海外のヒーロー達は、自分から名前を名乗る事は基より、お決まりのポージングもありません。

ましてや武器や必殺技の名前を連呼する事もありません。

つまりは「合理的」というか「現実的」なのです。

「スーパー戦隊」が海外で「パワーレンジャー」として放送される際に、海外のプロデューサーから「何故、敵の前でわざわざ自分達の自己紹介をするのか?」と質問されて「日本の伝統」として押し切ったというエピソードが残っている程です。

そして、結果として海外の子供達にも大いに喜ばれていったと言われています。


日本の特撮ヒーロー達も最初から「名乗り」や「見栄切り」のポージングがあった訳ではありません。

武器名や必殺技の連呼も行われてはいませんでした。

1971年に誕生したもうひとつのエポックメイキング作品「仮面ライダー」においてもなお「名乗り」は行われてはいませんでした。

それは、海外ヒーローをお手本としていたからに他ならないと思われます。

しかし、「時代劇」に端を発する日本のドラマとしては「物足りなさ」を感じていたのもしれません。


自分から名乗らずに、敵から「誰だ!」と質問されて名乗るというパターンに変化していきます。

これは、1973年の「仮面ライダーV3」が顕著でしょう。

そして、歌舞伎の「白浪五人男」の「見栄切り」と「名乗り」を基本に、1975年の「秘密戦隊ゴレンジャー」からはじまる「スーパー戦隊シリーズ」では毎回何らかの自らの「名乗り」と「見栄切り」のポーズが採用されていきます。


余談ですが、この「名乗り」は、鎌倉時代の合戦の際の「やぁやぁ我こそは……」という「名乗り」が発端だと言われています。

これは、闘って勝った場合に倒した相手の名前を上司に報告し報奨金を貰う為の材料とする為なのでした。


●原点への挑戦

「歌舞伎」「狂言」から始まり「時代劇」で昇華した「日本の特撮ヒーロー」は、「月光仮面」の本来の企画である「時代劇」を舞台にした作品「仮面の忍者赤影」を1967年に生み出します。

そして、変身ブームを得て「変身忍者嵐」「怪傑ライオン丸」「風雲ライオン丸」「魔神ハンターミツルギ」「白獅子仮面」と時代劇ヒーローが誕生していくのです。

しかし、時は「時代劇」が子供達に愛された時代から変化しており、モチーフとして「忍者」や「サムライ」や「チャンバラ」はあるものの他の多くの「特撮ヒーロー作品」の舞台としている「現代劇」が主流になっていました。


「時代劇」であり「特撮ヒーロー作品」でもある「特撮時代劇」は、制作費がかさみ、撮影場所も限定される傾向にあります。

だからこそ「時代劇ヒーロー作品」は、今後も制作される可能性は低いと思われます。

しかし、形を変えて「時代劇」のエッセンスを取り込み「特撮ヒーロー作品」に昇華させている作品も見受けられます。

私は「GARO」を筆頭とする「雨宮慶太監督作品」がそれだと思っています。

「未来忍者」を皮切りに「タオの月」といった明らかに「特撮時代劇」として制作された作品は勿論、「ゼイラム」等のキャラクターに和風テイストを前面に押し出して、チャンバラで魅せるスタイルは、現代劇である作品群においても原点を忘れてはいないと感じて仕方ありません。


実は、「GARO」を引き合いに出さずとも新たな「時代劇」を踏襲するヒーローは健在なのです。

なぜならば「特撮ヒーロー作品」は、「時代劇」を様々な形に変化させながら既に取り込んでしまっているのですから……


●あとがき

「時代劇」は「歌舞伎」や「狂言」を母体として誕生し、その「時代劇」を母体にして生まれてきたと言っても過言ではない「特撮ヒーロー作品」達。

それは、海外で生まれた「ヒーロー」という存在を、日本の独自文化である「時代劇」や和風テイストで日本に合う「ヒーロー像」へ変化させていった結果として生まれ出た「作品群」であると言えると思っています。


だからこそ、「特撮ヒーロー作品」と「時代劇」は似た部分がたくさんあります。

「ヒーロー」を父に「時代劇」を母として生まれた「特撮ヒーロー」だから、その似た部分は遺伝でありアイデンティティでもあるのでしょう。


現在では「時代劇」を見てチャンバラをする子供達等という存在は、稀有なものとなりました。

民放で「時代劇」が放送されていないことやシニア層が視聴者の中心となっている事などが要因と言えるのでしょう。

しかし、子供達は「特撮ヒーロー作品」の刀の玩具を使って遊びます。

チャンバラという言葉自体が聞かれなくなっても、子供達はチャンバラを身体で知っているのです。


「時代劇」も時代劇専門チャンネルが好評な様で、新作も少なからず作られているようです。

勿論、大河ドラマは別格としても、年末特番等で「時代劇」はまだまだ制作されています。

しかし、予算も準備も多くが要求されるが為にレギュラー放送のなくなってしまった「時代劇」。

今や京都の地は泣いている様に思います。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ