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余り語られない撮影所のあれこれ  作者: 元東△映助
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余り語られない撮影所のあれこれ(113) 参加作品のメイキングvol.2「髑髏戦士スカルソルジャー 復讐の美学」

★参加作品のメイキングvol.2

「髑髏戦士スカルソルジャー 復讐の美学」


●メイキング

「髑髏戦士スカルソルジャー 復讐の美学」は、ケイエスエスと㈱愛企画、そして円谷映像(現:円谷エージェンシー)によって1992年に共同製作されたオリジナルビデオ作品の1本でした。

以前にも、「その30」で「円谷映像の特撮作品の現場」で内容は語らせて頂いた作品ですが、内容と照らし合わせたメイキングではなく、撮影の裏話的なモノでしたので、今回は「メイキング」として、作品を順を追って語らせて頂こうと思います。


さて、この作品の特徴としては、特撮ヒーロー作品が大好きな京本政樹氏が、雨宮慶太氏のデザインのヒーローが主役というデザイン性の高さと、京本氏の人脈の広さと、時代劇を経た京本氏のアクションをふんだんに使い作り上げた作品です。

更に京本政樹氏が「企画」「製作総指揮」「原作」「監督」「主演」と八面六臂の活躍をする作品です。


しかし、その「髑髏戦士スカルソルジャー 復讐の美学」の内容はおろか、メイキングを語ったスタッフやキャストが殆どいない作品らしいのです。語っても、一部のシーンぐらい。

更に作品自体を知らない方もいらっしゃるくらいです。

誰も語らないから、いつまでも伝わらない事があるのは、特撮ファンとして悲しい事です。

では、サード助監督というペーペーで申し訳ありませんが、当時のスタッフとしてその殆どの撮影に参加した私が、僭越ながらメイキングを語らせて頂きます。


何か同じ様な事を他の作品で語った様に思いますが、今回も語られて来なかったメイキングを発売30周年を期に語らせて頂こうと思います。


●作品データ

タイトル「髑髏戦士スカルソルジャー 復讐の美学」

1992年9月 ケイエスエス+㈱愛企画+円谷映像 共同製作

オリジナルビデオ作品

収録時間91分。

主演 京本政樹

助演 本田博太郎

監督 京本政樹


尚、例によって情報のほとんどが約30年前ですw

今となっては変わっていることや、無くなっていることもあります。また、記憶の内容が30年の間に美化されたり劣化してしまっているものも存在しますwwその点をご理解の上、あらかじめご了承下さい。

そして、ここでの意見は、あくまでも個人的な意見です。

東映をはじめとした各社や映像業界の直接的な意見ではありません。その点を予めご理解ご了承下さい。


●冒頭

マンションの室内もシャワールームも実際のマンションの一室を借りて撮影しました。

全裸を見せる女優さんも男優さんも「前バリ」はキッチリして頂き、リハーサルまではガウンで演じて、本場で全裸(前バリ有り)でした。

男優さんは、北町嘉朗さん。

仮面ライダーや怪傑ズバットにも出演された方で、京本政樹氏とは時代劇でご一緒されたのが縁の様です。

女優さんは、水鳥川彩さん。当時の名のあるポルノ女優さんでした。


勿論、外壁に「スカルソルジャー」がロープで降りるというカットもこの後の飛び降りのカットも同じマンションで、ピアノ線によるCG無しのアクションカットでした。

室内の血しぶきのカットもマンションの室内でやっつけてしまいました。

エアーで血しぶきを吹くのはブルーシートで受けています。

女優さんへの血糊も同じマンションの室内の撮影現場でした。

流石に壁の血糊は、実際の壁紙の上から別の壁紙を仮貼りして対応しました。


一番難しかったのは、電話線を切るカットでした。

電話線を切る時に「火花」を散らせたいのですが、女優さんは設定的に衣類でガードする事が出来ませんでしたから、怪我をさせる危険がある為に現場で火花を散らせることが出来なかったのです。

しかし、いくら合成するとはいえ電話線は撮影現場で実際に切らなければなりませんから、簡単な仕掛けが必要でした。

切るタイミングが難しかったと記憶しています。

その後のスカルソルジャーのカードが突き刺さったカットのカードのカット角度は、京本政樹監督自らが決めて、自分でカットしていたと記憶しています。


余談ですが、このカットされたスカルソルジャーカードは、打ち上げのビンゴの景品に出たのですが、惜しくも一歩手前で制作部の女性に持って行かれてしまいました。

欲しかったなぁ〜w

更に、ピアノ線による吊りの場合、東映ではピアノ線の隠しの為の色塗りは助監督と操演の仕事でしたが、円谷映像は東宝の仕事の手順で進めている為に、隠しの色塗りは撮影助手と操演の仕事になっていました。

私の出番はありませんでした。


●タイトル後・横浜

横浜の中華街を始めとして、ほとんどのロケーションは横浜で行われました。

この暴力団の事務所のシーンも横浜の電車の沿線でした。


実は、既にここからの出演者には京本氏の交友関係が大きく、様々な出演者が「友情出演」で登場する事となります。

どこでどういった関係性を持って出演を依頼したのかは分かりませんが、錚々たる面々がワンシーンの為に、又はワンカットの為に参加してくれていた様です。


このタイトル開けのシーンでも日本テレビ?のプロデューサーの梅澤勝哉さん、龍虎さん、ガッツ石松さん、安岡力也さんが参加しています。

京本監督は、この後にも多くのモブとしての出演者や重要な脇役に大御所や名のある役者さんを次々と贅沢に出演させています。

私は、これらの出演を自分の初監督作に共感してくれた人達に、何かの記念的なモノとして、映像に焼き付ける事によって「御礼」をしたのではないかと思っています。


潮健児さんにしても京本監督の特撮好きな姿勢に共感しつつも、「台詞無しの役柄」と「悪魔くん」の当時に実際に使用していた「メフィスト」のシルクハットを御自身でお持ちになって「使用したい」と提案されていました。

深く考察するに、過去の自分のキャラクターの内でも正義の味方のキャラクターであるメフィストの象徴のシルクハットを掲げて、メフィストの様な特殊メイクをほどこしながら、過去のキャラクターと一線を画す様に「台詞無し」という潮健児特有の台詞回しを封印した今迄と違った「潮健児」のキャラクターを京本監督作品に遺し、京本監督に対して応える意味でも意欲的な芝居に挑みたかったのではないのかと思ったぐらいでした。


まあ、暴力団事務所のシーンはアドリブが多く採用された、少しベタなコメディカットになりました。


●鳴海探偵事務所

この作品の17年後になって、「鳴海探偵事務所」という看板を背負った「髑髏のマスク」の「スカル」という名称のヒーローが、東映から誕生する事になります。

石ノ森章太郎関連の作品であれば「髑髏のマスク」の「スカル」という名称のヒーローは出て来てもおかしくありませんが、それが「鳴海」という名前で「探偵」を生業にしているのは、偶然なのでしょうか?

私には分かりません。


この屋上に「鳴海探偵事務所」のある雑居ビルは、映像に映っている通りに港のすぐ側にあります。

本来の建物の1階部分は修理工場で、何年か前までは車かモーターボートの修理でも行っていたのではないかと思われる場所でした。

作品中には1階は一切映されませんが、2階と3階は後々映されます。

屋上は主人公の居場所ですから外観は頻繁に出てきますので、他の用途には使用していませんでしたが、1階はロケバスならぬロケーション用のハイエース等の駐車スペースとして、2階と3階は衣装部屋やメイクルーム(特殊メイクルームも兼用)、そしてスタッフルームとして使用されていて、この作品の間の拠点の様な場所になっていました。


横山ノック氏扮するビルの大家さんが持つ赤い傘は、遠距離からの撮影でも動きが目立つ様にというストレートな理由からです。

事務所内もロケセット撮影です。

実際の屋上の建物の室内を使用しても良かったのですが、如何せん狭過ぎましたから、別の部屋ですが、ステージセットではありませんでした。

本来この様な狭い空間を撮影場所に設定するのならば、ステージセットを組んで壁が取り払える様な状態で撮影空間を確保するのがセオリーなのです。

ですが、この雑居ビルの地下室がロケセットとして使用できましたし、屋上の部屋よりも広かった為に、こちらを使用しました。

地下ですから、事務所には窓がありません。


基本的に、この作品のどのシーンにもステージセットは組まれず、ロケセットだけで進められました。


ポタポタと落ちる水道の水量は、監督自らが調節しました。


回想カットで首を切られる妹。

このナイフが喉に当たって血しぶきが出るカットは、ナイフの裏側に仕込まれたチューブから血糊が吹き出す操演カットでした。

因みにナイフを持つ手は京本政樹監督自らであったと記憶しています。


●警察

外観は別場所ですが、件の雑居ビルが早々と出てきました。

雑居ビルの3階部分の窓際が警察の内部セットとして使用されました。

長門裕之さんの登場。

相手役の若い刑事は新人の役者さん桑田健吉さんでした。

この新人役者さん。セリフ覚えと芝居度胸は良いのですが、滑舌と動きが辛かった。


割れたビンは、割る前のビンと同じビンを割って用意しておいての差し替えです。


森田健作さんの登場。

このシーンのロケ地は、雑居ビルとは別場所。

長門裕之さんと森田健作さんの掛け合いは安心して見ていられます。

婦人警官も新人役者でしたが、こちらは出番も少ないですし、芝居の間に入って行くタイミング勝負なので、タイミングはチーフ助監督が出していたと思います。

実は、この時点で冒頭部分の撮影は行っておらず写真もありませんでした。

ですから、封筒内の写真は見せられませんw


屋上シーン。線路移動ドリーによる撮影。

この屋上は、雑居ビルとは別場所。

写真が飛びそうな感じがしますが、後から置かれる写真以外は確か両面テープで貼り付けていました。


●屋敷

豪邸は、東映でも御用達の定番の入間の豪邸ロケセットです。

確か旧石川邸だったと思います。

本田博太郎さんの登場。

伯牙天慌(=ハクガ・テンコウ)役。

この後の電話のシーンのカットバックの音声トーンが明らかにおかしいのは、この後の重役の部屋のカット用の音声が先に撮影されて、本田さんのジャンプしながらの電話のカットがアドリブ的に本田さんから提案された芝居に他なりません。

半裸の女性は、冒頭の全裸の女性、水鳥川さんです。

注射は、本当に注射が出来る資格のある方に来て頂いてビタミン注射をして頂きました。


重役の部屋。

この部屋は、警察内部のロケセットの組み換えです。つまり雑居ビルの3階ですね。

この重役は、和崎俊哉さん。

ミラーマンのSGMチーフをはじめとして、ギララやジャンボーグAにもご出演され、京本政樹氏とは、これまた時代劇でご一緒されたことが縁の様です。


ビデオの映像。

黒部進さんのスカルソルジャー計画の説明映像。

間に挟まれる写真は、図鑑からの引用です。

動画に関しては、スポーツ選手のカットは他の映像からの借用映像ですが、筋肉の男性カットは新規に撮影したカットです。

コレらを事前に撮影して編集したモノをモニターに映し出して撮影し直しました。


●カード賭博

鳴海探偵事務所の中でカード賭博をやっているカットです。

早乙女愛さん、ダンプ松本さん、梅津栄さん、の初登場。

本編には絡まない緩急の緩のカットです。


●スカルソルジャーvs天慌

天慌が高級車に乗り込むのは、高級マンションの玄関先だけを借りて撮影。


夜間シーンで、剣撃でのアクションシーン。

勿論、アクションアクターの吹き替えによるシーンなのですが、殺陣のシーンが日本刀という事で、体術も刀の殺陣も演出が可能な殺陣師である中瀬博文氏にお願いする事になりました。

火花は合成です。


●回想

妹の殺害シーン。

妹役は、新人の繁田知里さん。

といってもスカルソルジャーよりも3年前に山口智子さん主演の「純ちゃんの応援歌」にもご出演されていた様ですから、全くの新人でもなかった様です。


本田さんの若い頃の天慌との絡みを含めた一連のカットは、妹の殺害シーンのロケ地と同じ場所で日を変えて撮影しました。


回想カットからの副作用カット。

主人公鳴海がスカルホルモンの副作用で苦しみ、ガジャが注射で抑えるカット。

鳴海の腕は勿論特殊メイクであり、内部にセットされた風船をチューブによって空気圧をかけてボコボコと波打たせる事が出来ました。

特殊メイク自体は、京本政樹監督本人の腕に施されていました。


●警察前〜おでん屋台

警察前は、前途の警察前と変わりません。

警察内部も雑居ビルの3階のロケセットと変わりありません。

設定的には前出の警察内部より数年前の筈なのですが、余り変わり無いのは御愛嬌ですw


おでん屋台は、雑居ビルの側にセッティングされました。

おでんが煮えているカットは無かったのですが、小道具さんはちゃんとおでんを屋台のステンレスの四角い鍋で煮て作っていました。

無論、撮影終了後はスタッフとキャストの夜食になりましたw


長門さんと京本さんの前でナメ役として、若い刑事である桑田さんがアップでお酒を飲みおでんを食べる芝居をするのですが、コレが顔の位置を余り大きく動かせかせない難しい無言芝居なのですが、自然にこなしていました。


●潜入(回想)

前出の鳴海の工場への潜入シーンの詳細。

給水タワー等の外観からも分かる通り、大田区にあった「ゼイラム」でも有名な巨大廃工場です。

研究施設も同じ場所でロケセットが組まれました。

この研究施設をセッティング後直ぐに撮影したのが、前出の黒部進さんのビデオ撮影でした。

この研究施設の棚等をバックに撮影した訳です。


本田さんが手にする生首は、理髪師や理容師が練習用に使用する「ウィッグ」の簡易改造です。

血糊をソルジャーのジャケットで拭おうとする芝居は、本田さんの提案での演技だったと思います。


スカルホルモンの廃液タンク。

落とされる鳴海は、流石に人形。

廃液は、元々溜まっていた雨水にホースで水を追加して水かさを増しました。

色は、水彩絵の具でブラウンとグレーの中間っぽく調節しています。

這い出した場所の髑髏と骨はプラスチックの造形物。

造るのには時間がかかっていますが、映るのは一瞬、それでもインパクトはあるモノの典型です。


●天慌の屋敷と澪

天慌の屋敷と、妹の澪の登場です。

澪を演じるのは、浜田朱里さん。

浜田さんは元アイドルから女優へ転身されただけに安心の芝居でしたが、この後に結婚し、出産の為に芸能界引退されたことから、彼女としては唯一の特撮作品となりました。


天慌の狂鬼に耐え、悩みながらも純粋に生きる妹。その妹を天慌の弱味とみて誘拐する鳴海。

身内にも肉親にも手を上げ、しかし愛するという矛盾した感情を見せることで天慌の狂鬼を表そうという演出意図がみられます。

その狂鬼を本田さんは、見事に演じていらっしゃいました。

地じゃないかと疑うぐらいにw


裏庭の赤外線センサーは、勿論作り物のダミーで赤いランプだけが光ります。

天慌の屋敷の警備員との戦闘シーンです。

天慌との戦闘とは一線を画す為にも、剣術によるものではなくて、あくまでも体術による戦闘シーンです。

ロケセットとして使用した屋敷の裏庭をアクションシーンの現場として使用しました。


●鳴海の部屋と澪

連れ去られてきた澪。

逃げようとする澪に果物ナイフで手を刺される鳴海。

手は京本さんの本当の手で、果物ナイフを二つに切って、手の甲と掌に貼り付けています。

接合部は血糊で誤魔化してあります。

その手にタオルを巻く鳴海。

しかし、しっかり巻くとくっつけてある果物ナイフが落ちるので、痛みを堪える為にやんわり巻き付けているという芝居で誤魔化してあります。

このタオルを巻き付けていないと、この後の果物ナイフを引き抜くカットで果物ナイフの先端がくっつけてあるのがバレバレになるので、あえて巻いていますw

果物ナイフを引き抜くカットは、カットを変えてちゃんと二つに切っていない果物ナイフをタオルの下から引き抜いてみせています。


朝の鳴海の部屋。

鳴海の友人達が澪の為に食事を持ってくる。

中身が映る可能性は無いので、小道具係は台本通りの食事は用意していませんでした。

フタのある食事は良いとして、フタの無いラーメンの中身を映さないようにするのに、あえて食事には寄って映しませんでしたし、だから下からのアングルです。カットバックしても身体で隠してもらいました。

ダンプ松本さんに皆がツッコミを入れるコミックカットでした。


●雑居ビルの屋上。

夕暮れが上手く撮影出来そうにない天候でしたから、少しあざとい感じがしますがオレンジの画面処理で誤魔化しています。

梅津栄さんの歌はアドリブですw

ドラム缶風呂は小道具係さんの用意で、お湯はポットとヤカンで沸かしたお湯を用意して水で緩めて適温にして撮影していました。

本当にドラム缶風呂を沸かすと、ドラム缶が熱すぎて火傷をする危険もあって撮影に支障をきたすからという理由からの配慮でした。

火を着けているカットは1カットのみで、その後のカットでは消しています。

目隠しシーツがなびいているのが見て取れるように、風が強くてお湯が直ぐに冷めてしまっていました。

勿論、カットがかかるたびに浜田さんはドラム缶風呂からあがり、撮影用意でお湯を足して撮影を再開させていました。

浜田さんは肌色の撮影用の水着を着ていました。

肩紐のないワンピースタイプで、他の作品でも女優さんが温泉やお風呂に浸かっているシーン等では良く使用していました。


澪の背中の傷。

これも特殊メイクとメイクさんの作品です。

お湯に浸かりますから、お湯で直ぐに取れない様にしていなくてはなりませんでしたから、基本は特殊メイクとなりました。

そこにメイクさんが浜田朱里さんの肌の色と馴染ませるメイクを施して修正しています。


この方法は、ガジャ=潮健児さんの特殊メイクも同じ方法でした。

単なる切り傷や血糊だけならばメイクさんのメイクのみで表現するのが、一般的な撮影現場では通常でした。


●再び鳴海の部屋と澪と天慌

澪のパジャマは、鳴海のパジャマを着させているだろうからという設定でサイズが大き目の男性モノです。

パジャマの柄は、京本監督のセンスですw


個人的には、この事務所のシーンの音声が響き過ぎていて好きではありませんでした。

撮影をしている最中は、当たり前の様に聞こえているのですが、そこは人間の耳ですから無意識にノイズを除去してしまっています。マイクが拾う音声はシビアです。


天慌との電話。

電話先の天慌のトーンが異様ですw


●フェンシング

壁掛けから天慌が取るフェンシングの「エペ」は、日本フェンシング協会からの頂きモノです。

小道具係がフェンシングの剣の売っている店舗をなかなか探し出せなくて、私が日本フェンシング協会に問い合わせをして、当時渋谷にあった事務局まで訪ねて行きました。

「ご希望の剣は、『フルーレ』ですか?『エペ』ですか?それとも『サーブル』でしょうか?」

事務局を訪ねた私に、事務局の担当者は聞いて頂いたのですが、「フェンシングの剣って1種類じゃないんだ」と困惑していると、実物を持って来て頂きました。

その際に困ったのは、競技用の剣先でした。

武器として人を傷付ける為の剣先ではなくて、あくまでも競技用ですから、潰されているのです。

「あの〜、剣先が尖っているモノってありませんか?」

「ありませんね。危ないですから」

「撮影用ですから、尖っているモノが欲しいのですが、どちらかで取り扱っているお店とかありませんか?」

「ありませんねぇ。危ないですから」

「レプリカでも良いのですが……」

「私共ではレプリカは知りませんねぇ」

まぁ、今となっては、競技用という時点で本物のレプリカなので、不毛な質問であったと思っています。

「これらは練習用のモノで古いモノなので、宜しければ1本差し上げますよ」

という有り難い申し入れに、握りの形状が競技用に見える「フレール」や、フェンシングの剣の柄ではなくて「サーベル」の柄にしか見えない「サーブル」ではなくて、「エペ」を頂いて帰りました。


持ち帰った「エペ」を小道具係に渡して、剣先を尖らせて、武器としての様相に仕立てて劇用のフェンシング剣に仕上げてもらいました。


●鳴海の部屋、再びの回想

鳴海がスカルソルジャーのマスクをあてがって、澪の事を回想している。

このマスクは、本来のスカルソルジャーのマスクから取り外して使用していました。

コレ用の別のプロップという訳ではなくて、後々「面割れ」をするマスクとして別のプロップがあり、そのマスクと取り外して交換する様のプロップを、演出上の小道具として使用したのです。


●天慌の着替

天慌の真っ白な決戦服への着替です。

本田さんに前バリをして頂いて、全裸の背中とお尻の全身カットです。

「後ろ姿でしょ?『前バリ』無くても大丈夫だけど?」

と言う本田さんに、

「本田さん、女性スタッフも居ますから(笑)」

と京本監督がなだめても、

「別に気にしないよ」

と真顔で言う本田さん。

執事役の本城裕(=現:本城丸裕)さんも困惑していました。

結局は前バリしての撮影となりましたw


●日本刀

妹の形見のペンダントを目貫(=めぬき)(別名;目釘(=めくぎ))に作り直すというカット。

普通の金属ではなかなか溶けてくれないので、熔解温度の低いハンダを固めて板状にしたものに熱を加えて熔けていくカットを撮影しました。

日本刀の手入れの作法は、京本監督が時代劇の撮影現場で教えてもらって身に付けたモノだそうです。

因みに目貫は、手で叩いたくらいの簡単な事では打ち込めません。

ですから、鳴海が目釘穴に入れた目貫も実際には固定されていません。

それどころか、目貫は中途半端な状態で飛び出していました。その目貫を片手で隠しつつも芝居を続けるのは色々と気を使う事であったのだろうと思っています。


芝居の最後で日本刀に周囲が映り込む箇所があります。

何度かやり直しをして試行錯誤しましたが、結果的にカメラに白い布を被せた上にカメラマンも被り、映り込む事を前提として対処する事にしました。

ですから、実は日本刀にはカメラがカメラマンと一緒に映り込んでいますw


●ガジャ

鳴海と共に泣くガジャ。

感情表現が、無表情とにこやかさと心配しか無かったガジャの表情に、泣くという大きな感情が表現されます。

それも無言での演技で表現されました。

潮さんの新境地を見たかの様でした。


泣くガジャの顔を抱えて一緒に泣く鳴海。

(ガジャの特殊メイクが崩れる〜!)

と心配しながらも涙の演技を見ていました。


●警察署

長門さんと新人の桑田さんの掛け合いから、刑事部屋に移っての桑田さんだけの芝居。

ぎこちなさもありますが、そこらの新人よりはセリフ回しも良いです。

動きに違和感が出てしまうのが難点です。


●決戦

最終決戦は、大田区の例の廃工場。

ガンアクションを含むアクションは、ワイルドアクションチームが担当し、殺陣や剣技はグループ十二騎(=現:グループ十二騎会)が担当しました。


日本刀とフェンシングの殺陣というのも不思議な組み合わせです。

フェンシングは本来「突き」がメインなので、メインが「切る」日本刀とはアクションが違っていて、接点が取りづらいのが難点です。


この作品で亀甲船の吊りと爆発を初めて見させて頂いたのですが、何故か「東映とは違う、東宝の匂いがする操演」という気がしました。

勿論、この時の亀甲船は根岸泉さんでした。

根岸さんは「宇宙からのメッセージ」や「スターウルフ」から始まり「ゼイラム」や「平成ガメラ」「ウルトラマンティガ」以降の「ウルトラマンシリーズ」、「ゴジラ」等の特殊効果や操演を今尚務める特殊効果界の重鎮です。

つまり、東宝を中心に円谷やクラウドにも特殊効果として参加されています。


アクションシーンは、全て廃工場の何処かを使用して撮影しました。

ザイルで滑り落ちるスカルソルジャーは、ピアノ線で吊っていました。

指先からのニードルの表現は、指先からの炭酸ガスの噴出と血しぶきの噴射で表現しました。


ワイヤーを飛ばすギミックに関しては、先ず手先からワイヤーを飛ばす「逆回転」映像を撮ります。

つまり、伸びたワイヤーが手先に引き込まれる映像を「逆回転」させて、ワイヤーが発射されたように観せるのです。

その後に「正回転」のピアノ線によるワイヤーの「走り」を撮影します。

これで、ワイヤーが張られた映像が出来上がります。

そのワイヤーによって天慌の手下の首が飛ぶのは、首を乗っけた胴体マネキンを台車に乗せてワイヤーの張られている場所を越えて進ませることで、乗っけただけの首がワイヤーに引っかかって勝手に落ちるだけなのです。

台車に乗せられた胴体マネキンにはホースが着けてあり、首マネキンが切断される直前から血糊を噴出させています。

編集の仕方によっては効果的に見える仕掛けです。

惜しむらくは、廃工場の地面が小石混じりのガタガタな場所だった事でした。

台車がガタガタしてしまっています。

随分小石を拾って平らに近づけたのですが、残念です。

尚、ワイヤーを爪弾くのは京本監督の「組紐屋の竜」からのセルフサービスカットですw


この廃工場の地面は、小石混じりで乾燥もしているので滑りやすく、走って来て立ち止まる急ブレーキとか、勢いよく走って曲がる何ていうのは足を取られる程でした。

更に、アクションとしては受け身をする際に小石があるのは地味に痛いので、アクション俳優の方達は、自分達で受け身の場所の小石を拾っていた記憶があります。


●気温と息と氷

撮影は寒い時期に行われました。

更に夜の撮影でしたから、余計に冷え込みます。

そうすると、吐く息が白くなってしまいます。

これでは視聴者が気にしなくても良い「気温」の感覚に目が行ってしまう事になってしまいます。

ですから、役者は口に氷を含んで口内温度を下げて「白い息」が出ない様に心掛けるのです。


●面割れ

長門さんが撃たれてしまいます。

ソレに気を取られている間に、天慌にマスクを撃たれて「面割れ」をしてしまうスカルソルジャー。


面が割れているシーンやセリフを喋っているシーンのスカルソルジャーには、基本的に京本政樹監督自らが「中の人」を演じています。

ソレ以外は、基本的にはスーツアクターさんのお仕事でした。


●澪

ガジャと澪が駆けつけます。

天慌を説得する澪。

足で地面に線を引いて叫ぶ天慌。

「この線からこっちへ来なさい!」

このセリフは、台本では「こっちへ来なさい!」だけでしたから、芝居もセリフも本田さんが考えて、天慌の子供の様な破天荒さを表す要素として利用したのだと思われます。

京本監督のOKをもらっての芝居でありセリフでした。


フェンシングエペを構える澪。

同じフェンシングなのに、天慌とは違って女性的な優雅さと凛とした覚悟を感じる構えです。

コレは浜田さんが御自分で用意された狙った構えと表情でした。


天慌に撃たれる澪。

かばうスカルソルジャー。

スカルソルジャーをかばうガジャ。

3人が撃たれてしまいます。

澪もガジャも倒れます。


●天慌との最終決戦。

立ち回りは京本監督本人です。

天慌の最後。

血しぶきは細いホースを使って血糊を吹かせました。

タンクの廃液に落ちる天慌は、流石に人形です。

何処にもぶつからず、表にも向かず、見事な一発OKの人形落ちは、京本監督自らが「誰かにやらせれば、失敗したら周囲に責められるだろうが、俺がやれば失敗しても文句はないだろう。もう一度やるだけだから(笑)」と言って落としたのでした。


廃液の中から顔をあげる天慌。

汚い水に顔を浸けてスタートの合図を待ち、セリフがひと言あって再び水に顔を浸ける。

冬場の撮影だっただけに、本田さんの役者魂を感じるカットでした。


落とした人形の背中に突き刺さっていない鉄柱が、本田さんの背中に刺さっているのは、天慌の「死」を視覚的に納得させる為に他ならず、繋がり無視の「ワスレ」の演出でした。


●余韻

長門さんが、良くある「弾が懐の○○で止まった」パターンで生還。

弾が自動小銃の弾じゃないのはご愛嬌という事で御勘弁下さい。

本当ならば「止まりません」絶対にw


ガジャの鉄板での防弾具。

プロップで、麻紐とプラスチック板の鉄板なので重くはありませんでした。

「澪にも着けさせてやってくれよ」と、ツッコミが入りそうだが、流石に矢面に立つとはガジャも思わなかったのだと思う事で「ワスレ」ました。


澪を抱えて歩く鳴海=スカルソルジャー。

浜田さん本人を京本監督が、所謂「お姫様抱っこ」をして歩いているのだが、重さを感じないのは京本監督の腕力か、浜田さんの軽さかは定かではありません。

ここも「車に乗せて行けよ」と、ツッコミが入りそうですが、映像としてはこちらの方が格好良いので「ワスレ」ています。

後ろの方に長門さんが佇んでいるのが、絵になります。


この後の澪を抱えて歩く鳴海も、浜田さん御本人をギミック無しで抱えています。

浜田さんも脱力していなければならないので、かえって大変だったと思います。


●黒幕

黒幕の重役の屋敷です。

コレは、天慌の屋敷の1階部分です。

甲冑は小道具さんのセッティングです。

尚、重役の部屋は雑居ビルの3階の部屋で、刑事部屋の組み換えです。

ですから窓の外は見せられません。なので、ブライドカーテンを締めて誤魔化しています。


煙の中から出て歩いてくる鳴海=スカルソルジャー。

このスモークは、京本監督のこだわりであり、上手く格好良い煙の去り方になりました。


●中華料理店

手前に居るのが「悪魔くん」でメフィスト(弟)役の潮さんと共演していた「悪魔くん」=金子光伸さんです。

金子さんは俳優は辞められていましたが、京本監督のオファーで「悪魔くん」キャストの夢の再会共演としてセッティングされました。

ガジャが「漫画のメフィスト」のオマージュの様な様相で、「当時のメフィストのシルクハット」を被っているのは、もしかするとこのカットの為の壮大な「前フリ」ではなかったのかとすら思えてきます。

本当かどうかは、京本監督だけが知っているのでしょう。


悲しいかな「潮健児」さんは、このVシネマの公開の翌年にお亡くなりになり、この作品が特撮作品としては最後の出演作品(=遺作)となりました。

そして、「金子光伸」さんも公開の5年後には潮さんの後を追う様に39歳の若さで死去されています。

奇しくも金子さんもこの作品が映像作品としての遺作となった訳です。


ロケ地は、本物の中華料理店です。

場所が何処だったのかは覚えていませんが、高速道路の高架脇で奥に電車が走っているのが見えますねぇ。

そして、横浜界隈だったと思います。


●走る車

エンディング前の横浜の街並みを走る鳴海とガジャを乗せた車。

ガジャ=潮健児さんは、全編を通してこの車を御自分で運転してくれました。

それも燕尾服にシルクハットに特殊メイクをしてです。

役の上では当たり前なのですが、自動車の運転やバイクの運転は、今の何事もコンプライアンスの御時世ならば専門職の方々に依頼しなければなりません。

30年も前とはいえ、70歳前の実績も充分な有名俳優さんに運転させるにしても、発車や停車のタイミングやスピード感覚等は、芝居よりも難しい場合すらありますから、多くを求め過ぎていたのではないかとも思えてきます。

しかし、潮さんは完璧にこなして頂けました。

まるで、車の運転も演技の一部とでも云わんばかりに……


●エンディングロール

出演者は、友情出演と特別出演と特別友情出演の山ですw

そして、京本政樹という名前もアチラコチラに見えますw


因みに京本政樹氏と雨宮慶太氏の最初の接点は、この作品であったとも言われていますから、此処から京本政樹氏の「牙狼」出演に繋がって行くのでしょう。


珍しく私の名前もエンドロールテロップに見る事が出来ます。

この作品に関わるまでは、チーフ助監督もセカンド助監督も特撮作品とは無縁の方々でした。


●あとがき

この作品をレンタルビデオ店で見る事も、余程稀有で奇特なお店でもなければ見かけなくなりました。

映像配信サービスのラインナップにも見かけません。

まぁ、amazon様ならば購入可能な様です。


この作品の後に京本政樹監督は、他の作品を監督することは、今の処ありません。

プロデュース作品は存在する様です。

それは、この作品が低評価だったとか売り上げがとかといった要因も無いとは言えませんが、当時の製作状況と現在の製作状況が変化してしまっているのも要因のひとつではないかと考えています。


因みに、この作品の撮影と同時進行して「京本政樹のHERO考証学」の製作も進められていました。

私が特撮好きな同士と思って頂いていたのか、その写真撮影の現場にも呼んで頂いていました。

ちゃんと購入しましたw


更に京本監督の奥様との結婚式は、この作品を待って挙げられました。

撮影の打ち上げに奥様を連れていらっしゃってご紹介しても頂きました。


因みに、打ち上げの際のビンゴの景品は全て京本監督持ちで、私は「京本コレクション ウルトラマングレート」のフィギュアにサインを入れて頂きました。


作品としては、京本政樹監督の想いが込められた異色作です。

戦闘シーンは夜間撮影ばかりだし、ヒーローが日本刀の殺陣で闘います。

見処は多い作品だと思います。

細かな部分は脇に置いて、先ずは一度視聴して下さいね。

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