余り語られない撮影所のあれこれ(109)「東映の怪人倉庫」
★余り語られない撮影所のあれこれ(109)「東映の怪人倉庫」
●怪獣倉庫
怪獣などのキグルミを次回使用する可能性のある場合は倉庫に保管という事になる訳ですが、これらのキグルミ(特に怪獣をメインに)整然と並べられた倉庫のことを俗に「怪獣倉庫」と称します。
特に円谷プロダクションの「怪獣倉庫」は、少し「特撮」のサブカルチャーに触れた人間で、ウルトラマンシリーズを好きな方ならば、入門的に知ることが出来る有名な場所です。
私もまだ高校生の時代に夜行バスで砧にあった時代の円谷プロの「怪獣倉庫」に行ったことがありました。
部屋の梁に架けられた番線と角材で作られたハンガーに、過去の怪獣達が処狭しと吊られていました。
ウレタンフォームとラテックスとボンドと汗のニオイが混じり合う独特の空間でした。
表皮の表現と接合部の繋ぎ方、そして劣化したラバーフォーム。全てが新鮮な体験。
まだまだネットも無く、サブカルチャーの情報の殆どがコミックマーケットやコミュニティの同人誌や仲間内の噂程度しかなかった時代であった地方のヲタクにとっては、初めて怪獣のキグルミの内部をマジマジと見た瞬間でもありました。
その「砧の円谷プロの怪獣倉庫」は、今はありません。
そんな超有名な「怪獣倉庫」ではなくて、今回は東映にもあった「怪人倉庫」のお話です。
尚、例によって情報のほとんどが約30年前ですw
今となっては変わっていることや、無くなっていることもあります。また、記憶の内容が30年の間に美化されたり劣化してしまっているものも存在しますww
その点をご理解の上、あらかじめご了承下さい。
そして、ここでの意見は、あくまでも個人的な意見です。
東映をはじめとした各社や映像業界の直接的な意見ではありません。その点を予めご理解ご了承下さい。
●倉庫
最初に断って置きますが、「怪人倉庫」は正式な名称ではありません。
円谷プロの「怪獣倉庫」が余りにも有名で、東映には怪獣よりも怪人が多いと言う事で、東映内の一部の人間達が自然発生的に名付けた場所の名称です。
更に、「怪人倉庫」はひとつの倉庫に留まりません。
「ヒーロースーツ」「怪人=キグルミ」「車輌(これ等は流石に屋外)」といった様々な造形物が、ジャンル毎に纏められて、それぞれのプレハブ倉庫に収まっていました。
ですから「ヒーロー倉庫」「キグルミ倉庫」とか「スーツ倉庫」や「怪物倉庫」とかといった名称でも呼ばれていたのも確かです。
●ヒーロー
ヒーロー番組の撮影中は、流石に小道具さんが保管し修理をすることが通常になっていましたから(現在ではこの保管や修理の作業は、小道具さんの手から離れ「キャラクター担当」という部署が出来ているようです)、過去の他のヒーローたちと一緒に倉庫に保管されていることはありませんでしたが、一旦番組が終了するとこの保管倉庫にやってくることになります。
俗に「ヒーロー倉庫」と呼称されるこの保管用倉庫にはFRP製のスーツとマスクが棚に保管されていました。
勿論、FRP製のスーツやマスクはヒーロースーツやマスクに限った訳ではありません。
悪役のモノもありました。
生地状のスーツもハンガーにかかって同じ倉庫内に吊るされていました。
●キグルミ
「ヒーロー倉庫」とは打って変わって、雑然としていたのが「キグルミ倉庫」つまり「怪人倉庫」でした。
元来、キグルミ自体が大きなモノから小さなモノまで存在していましたし、棚に置くとか吊るすとかといった保管状態などという均等な保存方法が出来ないぐらいに千差万別なモノがありました。
ですから、文字通り「山積み」に積まれていました。
「ヒーロー倉庫」もそうですが、こんな保管用倉庫に空調が設置されている筈もありませんでしたから、夏場の暑さを越えた時期にはラテックス同士がくっついてしまっているモノも存在していました。
一定の怪人やパーツを探していると、バリバリやパリパリといった音と共に中のウレタンが露出してしまうモノもありました。
余談ですが、キグルミはその素材上の特徴からかさばりますし、弾力もあります。
ですから、積み上げて「山積み」にすると少し固めのクッションにも為ります。
崩れてきて圧死や事故にあったという話は聞きませんでしたが、春や秋は気持ち良かったと思います。
私は、夏場や冬場しか入っていないのでわかりませんが……
夏場のベタベタな揮発性のニオイの「怪人倉庫」も長居はしたくありませんでしたが、冬場のカチコチになったキグルミの塊は、ニオイこそありませんでしたが重く冷たい兇器でした。
●車輌
「ヒーロー倉庫」「怪人倉庫」が並ぶ一角の周りに、一部はシートを被り一部は野晒しのままで、ヒーローやヒロイン達が乗っていたバイクや車が並んでいました。
勿論、普通のバイクや車では無く、所謂「改造車輌」ですから、番組が終わってしまえば公道を走る事など殆どといってありません。
だからこそ、そんな車輌達は、1箇所に集められて保管されている訳なのですが、先ずは二度と表舞台に立つことはありません。
コレは車輌だけに限った訳ではなくて、「殆ど」のヒーローやキグルミも同じ様に映像に再び記録される対象とはならないのです。
通常ならば……
●蘇る再生怪人達
何か書いていて悲しくなってきましたが、しかし、それでは何故保管するのでしょうか?
それは「殆ど」以外のモノは、再び「蘇る」為だからなのです。
ヒーロー達は、周年記念に過去のヒーロー達として「蘇る」のを待ちます。
「蘇る」際にはメンテナンスされますし、どうしても「蘇る」ことが無理な状態になっていたとしても、新たに複製製作されるモノの見本として活躍します。
またヒーロー達やキグルミ達は、ヒーローショー等に貸し出される場合もあります。
中には、色を変えて一部のパーツを追加されたり改造されたりして全く別のモノとして映像の表舞台へ「蘇る」モノ達もありますし、ヴィランの一部は、周年記念で過去のヒーロー達と共に「蘇る」事もあります。
さらに、ヒーロー達やキグルミ達や車輌は、保管状態が良いモノに限りイベント等に参加したり展示されたりします。
そして、ヒーロー達もキグルミ達も、色を変えたりパーツを追加されたりするだけではなくて、その身体の一部ずつを繋ぎ合わせた形で、全く別のモノとして「蘇る」場合もありました。
「再生怪人」「改造怪人」「再登場」「パワーアップ」等などといった色々な「蘇り」があります。
できる事ならば、オリジナルと余り変わらない姿での「蘇り」を期待したいものです。
●蘇りの宝庫
特に「不思議コメディシリーズ」の「テレビプロ第二制作」の場合は、製作予算も少ないこともあり、よく「ヒーロー倉庫」や「キグルミ倉庫」に出向いては「改造パーツ」を探していました。
私は「不思議少女ナイルなトトメス」で初めて「ヒーロー倉庫」や「怪人倉庫」の中に入りましたが、それも「ナイルな悪魔の正体」として数カットだけ映るピアノ線吊り用の「それらしいパーツ」を探す為でした。
大抵は、ひとつのパーツだけでは無くて、いくつかのパーツをツギハギして、原型のパーツとは気がつかれないようにして、更に色も変更したりしていました。
ヒーロースーツやマスクは勿論、キグルミもプロに発注して製作して貰うと、どんな小さなモノでも報酬が万単位以上となるのは必至でしたが、それだけの完璧な仕事の品物が届きます。
ヒーロースーツに「弾痕」が付けられたり「刀傷」が付けられたりといった場合でも、ダメージ付のヒーロースーツを追加でもう一体発注するなんて費用のかかる事はせずに「弾痕」パーツや「刀傷」パーツ等のダメージパーツだけを「レインボーさん=レインボー造型企画」に発注していました。
「第二制作」以外でも「ヒーロー倉庫」や「怪人倉庫」に出向く制作部署は多かったという事です。
そういった意味でも「第二制作」の改造製作されたヴィラン達は、色々なパーツで出来た正に「蘇りの宝庫」だったりするのです。
●あとがき
最初にも書きましたが「怪人倉庫」は、東映“にもあった”という過去形で語られる場所です。
正確には現在も同じような保管倉庫が存在する可能性はあるのですが、30年前に存在した保管倉庫は、現在では同じ場所には存在していません。
「キャラクター担当」という部署が誕生している状況上、協力会社として「キャラクター」達のメンテナンス及び保管が行われていると考えると、保管場所自体が東映東京撮影所の所内に無い事も有り得ます。
しかし、専属の部署が存在するということは、以前より遥かに良い環境で「キャラクター」達が保管され定期的にメンテナンスされていると信じて止まないのです。