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余り語られない撮影所のあれこれ  作者: 元東△映助
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余り語られない撮影所のあれこれ(107)「トランシーバーと携帯電話」

★余り語られない撮影所のあれこれ(107)「トランシーバーと携帯電話」


●伝達手段

撮影現場は案外広くて参加するスタッフも多く、周囲に指示を伝達する為には「大声」を出してしまう事が殆どでした。

特に監督は、照明部や録音部とは違い同じ部署にだけ指示を出していれば良い訳ではなく、むしろキャストをはじめとする広範囲の人達に指示を出していましたから、指示を確実に伝達するのは重要でありながらも同時に困難な事でもありました。

ですから、昔の映画監督の三種の神器のひとつ「メガホン」が必需品であったのも納得させられます。

今回は、そんな伝達手段の中でも最遠距離に使用されていた「トランシーバー」と、近年その「トランシーバー」に取って変わられた感のある「携帯電話」に関して語ってみたいと思います。


尚、例によって情報のほとんどが約30年前ですw

今となっては変わっていることや、無くなっていることもあります。また、記憶の内容が30年の間に美化されたり劣化してしまっているものも存在しますwwその点をご理解の上、あらかじめご了承下さい。

そして、ここでの意見は、あくまでも個人的な意見です。

東映をはじめとした各社や映像業界の直接的な意見ではありません。その点を予めご理解ご了承下さい。


●まずはトランシーバー

30年前の撮影現場では、遠距離に声を運ぶには「トランシーバー」が使用されていました。

勿論、東映撮影所の制作部の備品扱いで、制作部の建屋のロッカーに置いてありました。

「トランシーバー」の利点は

○使用料金が要らない

○携帯するのに小さくて済む

○個人的には勿論、集団的にも使用可能

○遠距離(1km程度)まで電波が届く

○バッテリーの消費時間が長い

○操作が簡単

でした。

コレは、他の伝達手段との対比ではありますが、当時の時点での対比です。

現在では、「トランシーバー」に比べ他の伝達手段の方が優れているモノも存在します。

例えば、近場に向けて広範囲に同時に指示伝達するには、「電気式メガホン」が有効ですし、30年前でも同じく有効でした。

「電気式メガホン」自体が軽量小型化していますから、当時と比べると取り扱いが楽になっています。

「トランシーバー」の欠点としては

○受信バンドを調整しないと混線する

○相互通話しか出来ない(発信者以外は受信のみ)

○一定の距離よりも遠くでは受信出来ない

○遮蔽物があると受信が困難になる

○ボタンを押さなければ会話出来ない

があげられますが、30年前の当時の撮影現場にとっては、遠距離間での伝達手段の必需品であって、コレより便利な道具はないという唯一無二の様な道具でした。


「トランシーバー」を使用する場合には、先ずスイッチをONにしてから通信用のバンドの数字を合わせる必要があります。

このバンド数字は、東映内でも各部署や各作品によって決まっていた様に思います。

古い機種ではダイヤルで合わせていました。その後、デジタル数字表示機能のある機種に変わっていったと思います。

今でも同じ様にしているのかどうかはわかりませんが、少なくとも30年以上前の当時は、そうしていました。

同じバンド数字に合わせると、何台「トランシーバー」があっても同じ声が同時に聞こえてきます。

これを利用して、同時に多人数に指示を送る事ができる為、「電気式メガホン」と同じ様に活用する事も可能なのです。

そして、「電気式メガホン」と大きく違うのは、1台毎の一方通行での会話ではあるものの、相手からの声も届くという点でした。


●現場での実例

「トランシーバー」は、特に外での撮影において活躍し、ロケーション撮影の現場には必須の道具として用意されていました。

それは、制作進行が準備し助監督がチェックし、制作部をはじめ監督・助監督・カメラマンが主に使用していました。

制作部は、少なくとも前日から電源である単三電池や充電式バッテリー等のバッテリーチェックをして、予備の電池やバッテリーパックまでを用意しなければなリませんでした。

30年前の時点で制作部で所持している「トランシーバー」は、3〜4台だったと記憶しています。

その当時からあまり大きなサイズのモノではなくて、手のひらサイズの小型の「トランシーバー」を使用していました。

因みに、同じ遠距離への指示伝達手段である「電気式メガホン」も、基本的には制作部が所持していて整備していました。

監督は会社の備品を使わせてもらっているという感覚でした。

「トランシーバー」が使用されるのは、この「電気式メガホン」でも指示が届き辛い距離での指示伝達が予想される場合でした。

事実、「トランシーバー」の通信範囲は1kmぐらいまででしたから、ギリギリ目の届く範囲という感じでした。

つまり、アクションシーンで広範囲での爆発やタイミングが必要な仕掛けなどをセッティングした時などで、遠距離に控えているスタッフにきっかけを伝えるために使用されたり、スタッフはもとよりキャストを含めて大勢の遠距離に控える人たちに一斉に動きやストップのきっかけを伝えるためにも「トランシーバー」は使用されていましたが、以上のような広範囲だけの場合では同時録音でもなければ「電気式メガホン」を使用していました。

ですから、「トランシーバー」の使用例としては同時録音の際に遠距離にスタートやストップやカットなどの「きっっかけ」を録音されないように死角のキャストなどに伝える手段としての使われ方や、「電気式メガホン」では届かないような遠距離への指示に使用されているのが通常でした。


さらに、「トランシーバー」の使用される真骨頂ともいうべきモノがあります。

それは、「劇用車両の走り」でした。

さすがに1kmとは言わないまでも、数百メートルも離れた場所を走る車両やバイク、または数百メートル先から走ってくる車やバイク、またはその逆で数百メートル先に走っていく場合でも「トランシーバー」は使用されていました。

数百メートル離れて走る車両の撮影の場合は、「トランシーバー」を車内に置いてドライバーにきっかけだけを伝える場合と、スタッフが乗り込んで監督やカメラマンの指示を伝える場合とがありましたが、これは演出や画面構成の違いによって細かな指示が必要かどうかという使用方法の違いによるものでした。

これが何台もの車が連なって走る場合には、先頭車両だけに指示を出せばよいので、先頭車両にだけ「トランシーバー」を乗せておけばよいのです。もちろん、細かな指示のある場合は助監督などのスタッフが先頭車両に同乗するのも同じでした。

しかし、バイクの場合はスタッフが同乗する訳にはいきません。

ですから、バイクの運転手(=キャスト本人でなくても良い場合は、バイクスタントマンが運転するのが「仮面ライダー」の事故以降の了解ごと)に渡しておいて、直接監督やカメラマンの指示が伝えられました。

但し、車と違いバイクに乗っている状態では通話用ボタンが押せず、イヤホンからの声だけを聞くという一方通行な使用ではありました。


●携帯する電話

「携帯電話」というか「無線電話」の技術は1950年代には存在し、その小型化が求められていたが、人が「携帯」できる程になるには1980年代を待たねばなりませんでした。

そんな小型軽量化した「携帯する電話」なるモノが登場する以前には「車載電話」というモノが存在していました。

私が東映で仕事をし始めた1989年においても「車載電話」は、特撮番組のギミックとしての紛いモノではなくて、実際に使用可能なモノが出回っていましたし、激用車両に搭載されているモノを見て、電話を掛けさせてもらった記憶もあります。

そして、ロケバスに公衆電話と同じ様な通話料を現金やテレフォンカード等で支払って掛ける緑色の「車載公衆電話」が付いたモノまで存在していました。

但しこの「車載公衆電話」は鍵付きで、制作部以外は緊急時を除き使用が不可能な状態になっていました。

まぁ、使用するにしても1分間に幾ら料金がかかるのか怖いものではあるのだが……


そこまでしてナゼ制作部が「無線電話」を欲しがったのか。

ソレは、ロケーション先で撮影所のテレビプロ事業部に連絡を入れたり入れられたりして、キャストのスケジュール調整に始まり弁当の手配までを、ロケ先に居ながら可能となるからでした。

それまでが「公衆電話」を見つけて連絡をするか、自分の足や車で直接出向くというスタイルでしたから、「連絡」に費やしていた時間と労力が格段に減ることになるからなのです。


ですから、「車載電話」から間もなく1990年代初頭には「ショルダーフォン」と呼ばれる本体重量3キロの肩掛けバッテリーに受話器の付いたシロモノを、ロケーション先で見ることが出来ました。

「シモシモ〜」と言いながら黒いバックの様なモノから伸びた受話器を耳に当てる。アノ女性芸人さんが小道具として使っている様なモノでした。

しかし、そんな巨大な「ショルダーフォン」も当時としては画期的な小型化サイズで、「公衆電話」でもなく「車載」もされていない「持ち歩き可能な電話」は、私も興味深かったのを覚えていますが、当時としても通常の公衆電話に比べてあまりにもバカ高い通話料を考えると、気楽に掛けさせて貰おうとは考えもしませんでした。


更にこの後、軍が使う無線通信装置かと疑いたくなる様な無骨で巨大な受話器だけを持ち歩くタイプに変わります。

制作主任がロケーション先で会うたびに「新兵器」を投入して来るので、メカ好きな私としては毎回興味津々でしたので、良く覚えています。

その後、PHS(=所謂、ピッチ)やセルラーフォンへの進化を経て、携帯電話は小型化して行き、一般人にまで浸透してしまう道具となっていくのは、周知の事実です。


●携帯電話の台頭

連絡手段として「携帯電話」が一般に普及すると、ひとり一台以上の「携帯電話」を所持する者すら現れます。

そうなれば、このツールを使わない手はありません。

個人的な連絡手段としては勿論、ロケーション先での個人的な通信手段や指示手段へと活用されていった様です。

通話料金の問題や「トランシーバー」程に多人数への指示が同時に行えない事等から、まだまだ指示手段としては「トランシーバー」が活用されていると思われます。


更に、「セルラーフォン」から「スマートフォン」へと進化が行われると、「LINE」や「ビデオ通話」等の新しい機能が加わりました。

そんな機能を使い、それまで紙媒体での配布であった「香盤表」の配布を「LINEグループ」を使って行うという事すら出来る様になりました。


●あとがき

今や「スマートフォン」は、我々の生活に無くてはならないモノになっています。

一般生活において便利なツールであり、アプリ等の活用によって今迄とは違った生活が訪れると言っても過言ではない位の正に「魔法の道具=マジックアイテム」になってしまっています。

しかし撮影現場では、そんな「マジックアイテム」が台頭して来ても「トランシーバー」や「電気式メガホン」や「メガホン」といった指示・連絡手段が廃れてしまう事はありません。

一部をより良いモノへとバトンタッチしつつ、古いモノも古いモノなりの良さを認めて活用を継続していくというのが、如何にも撮影所らしいところです。

最新のモノと年季の入ったモノとが同居して、どちらも活躍して以前より高みを目指すのが「撮影所」という職人集団なのですから。

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