鬼の少女と世界の理
「あ、ナリユキさぁん、どうでしたか?」
「はい、一応ノルマは超えてると思いますよ」
「ふむふむ、確かに、はぁい、報酬の30ゴールドでぇす」
命の危機に晒されて30か......
「それでぇ、そちらの方は?」
「あ、ゴブリンに追っかけられてた時に助けてもらったんです」
「それはそれは」
「......」
「あぁ、すみません。なんか人見知りみたくて」
受付嬢に覗かれて彼女は俺の服の裾を摘みながら陰に隠れた。あ、可愛い…
「では」
「はぁい、ご苦労さまですぅ」
この間延びする感じ、癒されるなぁ。
「さって、料理も来たし落ち着いたし、話そうか」
目の前には料理が並び、その向こうに彼女が座る。
「......」
「…っと、俺の名前は前田成幸」
「......ルナ。ルナ・カスティリナ」
まだお互いの名前も知らなかったことを思い出し、名乗りあった。
「じゃあ、教えてもらうよルナ」
「......私は鬼族の者です。人間の街からは少し離れた小里にひっそりと暮らしていました。でも、一大勢力はあるんです。それで人類とはちょっとした敵対関係にありまして…」
「なるほどね」
「子供の頃から人間は悪いやつだと教わっていたんですが、私はそうは思えずに里を降りてこの街に来たんです。もちろん鬼の証である角は隠しました。そしたら人間の人達はとても優しかったんです」
「まぁあくどい奴も居るが、大体はそんなもんだ」
「でも、里を降りて人間街に行ったことが里にバレて追放されたんです」
おぉ、いきなり重い話になったぞ?追放とかあるんだな。
「更には自分で角を隠すことをままならなくさせる魔法も掛けられて」
「そうだったのか…」
「でも、前田さんにその魔法を解いてもらいましたので、今ではコントロールできます。ほら」
と自分の額に指を向けると、小さいながらも角が現れた。なるほど、こうやって出せるのか。
「これなら、この街に残っても誰にもバレなくてすみます」
「そうか......なら、俺から聞きたいことがある」
「は、はい......」
「この世界のことを教えてくれ」
真剣な趣でルナにそう尋ねた。
「へ?」
「俺ここに来たばっかでな一んも知らねぇからさ、ルナからこの世界のこと教えて貰えりゃいいかなぁと思って」
「わ、分かりました」
この世界は剣と魔法が蔓延るゲームのような世界。当然その世界には魔法使いと賢者、勇者やシーフなど数多くの職がある。それならば魔王も健在している。魔王はこの世界のあらゆる資材を我がものにしようと躍起になっていた。
この世界には十二の大きな国が存在する。海に、空に、森の中に......そこに魔王は十二人の幹部を忍び込ませ内部からその支配を侵食させていた。現にその手に落ちた国は最初の国、『ファスト』を除く全ての国だ。
「なるほど......」
「国の人達は魔王を誰かが倒してくれることを望んでます。ですが、魔王はとてつもなく強く誰も歯が立たないらしいんです」
「......」
なるほど......うん、無理だべさ。そんな強いのかよ!嘘だろ!?これチートあっても勝てんの?
「ち、因みにどれくらい強いの?」
「そうですね、レベルが80の勇者が百人ほどでも勝てるかどうか」
うわぁ、絶対無理ー!あの馬神なんてもん作りやがったんだよ!ふざけんなよそれで死んだらどうすんじゃボケがァ!
「はぁ、倒せるわけねぇだろうが」
「そう言えば前田さん、レベルはどうなりました?」
「レベル?」
「あれほどのゴブリンを倒したのですから当然レベルが上がってるはずですよ?」
と言われてポケットのステータスカードを開く。
姓名 マエダ ナリユキ Lv.10
年齢 18 / 性別 男性
ステータス 体力(HP) 100 →169
知力(IQP) 180 →180
腕力(PP) 270 →320
魔力(MP) 590 →840
属性 無属性
スキル 解除Lv.MAX
共感
職業 ソードウィザード
「あ、ほんとだ」
「え、ええ!!!」
俺のカードを見ていたルナが柄にもなく叫んだ。
「ま、魔力が840!?これ、魔王幹部並みの数値じゃないですか!なんでこんなに!?」
「え、そうなの?」
「初心者のレベル10なんてまだステータスが三桁いかない程度なのに......もしかして、貴方は神に選ばれた人ですか!?」
まぁ神に召喚されたものだし。
「あ、ルナのカードはどうなんだ?」
と疑問に思ったので見せてもらった。
姓名 ルナ・カスティリナ Lv.39
年齢 15 / 性別 女性
ステータス 体力(HP) 160
知力(IQP) 240
腕力(PP) 40
魔力(MP) 240
属性 火属性
スキル フレイムベール Lv.3
エクスマグナム Lv.1
職業 ウィザード
「あ…」
レベルはルナが高いのにステータスで超えてしまっている。ここまでくるのに何かと苦労してるはずなのに、なんか申し訳ない。
「......」
本人も悲壮感を感じてる。ごめんね、傷つけるつもりではなかったんだ。それもこれも全部あのアホ神のせいだから。
「と、とにかく、聞きたいことは聞けたよ」
「そうですか」
「それより、今日は疲れたなぁ。毎度一人じゃやってらんねぇよこれ」
「......なら、パーティを組んだらどうですか?」
「ん?パーティか......」
「も、もし良かったら、私がなってもいいですよ?」
「あ、そう?んじゃよろしく」
と、安請け合いした俺の言葉を聞いてカクっと肩を落とす。
「軽いですね!パーティは慎重に選ぶものですよ?こんなのでいいんですかこんなので!」
いや自分から提案しておいてこんなのって…
「まぁ、ルナなら信頼できるかなぁって思っただけ」
「......そ、そうですか…それなら良かったです」
「さてと、これからどうしようかなぁ」
「宿とか行ったらどうですか?」
確かに体力は回復したが魔力がもうゼロに近いし、今日はこのくらいにしておくか。
「このギルドは宿も締結してますから」
「じゃあここに泊まるか」
こうして、俺の偉大なる冒険者としての第一歩を他者に助けられながら。終えることが出来た。