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夕食を終えて部屋に入ると、途端に睡魔が襲ってくる。時計を見ればまた八時。寝るには早すぎる時間だけれど、初日で緊張したせいかもうクタクタで瞼も重い。ドレスも早く脱いで、軽く湯あみもしたい。でもそれをするにも億劫だ。故に私はごろりとベッドの上で横たわって目を閉じた。アリステア様、とメイドの声が聞こえたけれど、もう目を開けていることは不可能だった。








はっと目を覚ました。



心臓を刺された私は、沢山の戦士たちに踏まれてぐちゃぐちゃになった土の上へ倒れ、そこで息絶えた。ヒューヒューと必死で呼吸をするが上手く息ができないその感覚が未だに残っている。



死にいく私を覗き込んで叫んでいる戦士が二人いた。どちらも同じ年頃の少年だ。死ぬな、死ぬなと必死で私に声をかけている。そんな二人の少年を見ながら私は死んでいく。







ああ気持ち悪い。どうしてこんな夢ばかり。ぎしっと起き上がってみると、ベッドの上で横になったままだった。流石にドレスを着たままだったから体中が少し痛い。メイド達は眠ってしまった私を起こす事はしなかったようだ。



水を飲みたくなりベッドから降りたが、部屋には生憎水がない。自分で汲みに行こうと思って、部屋を出る時にチラリと時計を見れば、やはり三時前後。


来たばかりの屋敷の真っ暗な廊下を一人で歩くのは多少なりとも怖かったが仕方ない。なるべく音を立てないように歩く。





「アリステア嬢?」


「っ!?」



背後から声をかけられて思わず飛び上がった。こんな時間に誰かいるなんて思わない。勢いよく振り返ると、ゆったりとした服を着たユリウス様がそこに立っていた。


「こんな時間に何をしているのです?それに…どうしてドレスを着ているのですか?」


上から下へ視線を向けられると心地悪いが、正直に目が覚めてしまい、水が欲しいと答えた。するとユリウス様はさもあらんと頷き、自分の執務室で待っているようにと告げると水を取りに行ってくれる。ユリウス様はもしかしてこんな夜遅くまで仕事をしていたんじゃないだろうか?今まで寝ていましたという人の顔つきではなかった。もし仕事中であったのならば悪いことをしてしまったな…。


待つようにと言われた部屋で、ろうそく数本の光だけが部屋の中で静かに揺らめいている。それが不気味なくらい美しく、うっとりと炎を眺めていたら自然と眠気が襲ってきた。


「……アリステア嬢…?」


近くでユリウス様らしき人の声が聞こえたけれど、眠さのせいでもうダメだった。そのまま深い眠りに落ちた。







悪夢のせいで全く眠れなかった私だと言うのに、なぜかその時気持ちよく眠ることができた。こんなに安らかな時間は本当に久しぶりで、もっともっと寝ていたいと思えたほどだ。私を包み込む何かがとても暖かく、そして心地よい。私を安心させる、これは一体何…?


その時ばかりは悪夢を見なかった。広い大地で楽しく笑い合っている声が響き渡る。ああ、幸せで懐かしい感じ。こんな事今までなかった。こんな幸せな夢、見た事がなかった……。






***




「………起きたか……?」


「…………?」


ユリウス様がなぜか私の目の前にいる。けれどなんでユリウス様の顔が浮かぶのだろう?私は久しぶりに気持ち良く眠っていたはずなのだが。ああいけない、頭がぽーっとする。




「……起きたらその……、離してもらえると有難いのだが……」


ユリウス様の頬が赤い。照れたように視線を私から反らす。なぜそんな表情をするのか理解できなかったが、しばらくして覚醒すると、私は自分の状況を把握して固まった。




私とユリウス様はベッドに横たわっている。私は昨晩から着ているドレスのままで、そしてあろうことかユリウス様の胸にぴったりと自分の体を押し付け、腕を彼の背中に回して抱き着いている。つまり、はたから見れば若い男女が抱き合いながらベッドに横になっているという図だ。


言葉にならない悲鳴を喉で上げ、ざっと腕を抜き後ろへ下がる。そんな勢いよく下がったらベッドから落ちてしまうと言って、ユリウス様は私の腕を引っ張った。



聞くところによれば、どうやら私はユリウス様を待っている間に寝てしまったようだ。ユリウス様はそんな私を抱きかかえて客室のベッドに移動したのはいいが(私の部屋に入るのはやはりいけないと思ったらしい)、ベッドに降ろした瞬間に抱き着かれてしまい身動きが取れなくなった。そして今に至ると…。



「も…申し訳ございません…。無意識とは言え、はしたない真似を…」


「いや…それは構わないが…」



ぽりぽりと頭をかいてそっぽを向くユリウス様は少し困り顔。当たり前と言えば当たり前だ。いずれ結婚する相手なのだからこの程度の事どうってことないのかもしれないけれど…でもやはり困ってしまうよね、お互いに。



とは言え、久しぶりに安心して寝ることができたのはユリウス様のおかげと言わざるを得なかった。彼の胸の中はとても暖かくて安心でき、だからだろうか、悪夢を見ることもなかった。



「…まだ目覚めるには早い。もう少し寝ているといい。必要ならば誰かを寄こすが」


時計を見ればまだ朝の五時前。二時間ばかり寝ていたようだが、十年分ぐらい寝た気分だ。


「そうですね…気持ちよく眠れそうなので、このまま寝ていても構わないでしょうか?」


「ああ、そうするといい。私はもう行くが…」


「あ、あの…!本当に申し訳ございません…。ユリウス様はお仕事されておりました…よね?邪魔してしまって…」


ユリウス様は私の言葉を遮るかのようにふわりと笑った。そして私の頭に手を置いて優しく撫でると、何も言わずに部屋を出ていく。彼の様子から察するに、やはり深夜でも仕事中だったのだろう。けれども気にするな、ということか。まるで子供扱いのようだが、しかし不思議と悪い気はしなかった。


ぬくぬくしたベッドに潜り込み、心地よく眠るつもりだったのに、やはりその後は悪夢が襲ってきた。安らかに眠れたのはユリウス様に抱き着いていた二時間程度で、それから私は当たり前のように悪夢と付き合う、変わらない日々を過ごしていた。





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