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001 - 解けない呪い

 ――――――――――――ポツリ。ポツリ。


 水滴が落ちる音が洞窟内で木霊する。水滴の音以外は静寂に包まれるはずのこの洞窟。だが、うっすらと人の吐息のようなものが聞こえるのである。


「……ふぅ……ふぅ……うっ。」


 一定間隔で水滴とは別に響くこの音は、まさに人の吐息のようであった。洞窟は広く、その音はどこから聞こえるかは定かではない。だが、この洞窟には人の痕跡が残っていないのだ。かと言って他の生物の痕跡があるわけでもない。


 音はいつまでも止まないでいた。


 ⁂ ⁂ ⁂


「……これで冒険者登録は完了です。お疲れ様でした、これで貴方は冒険者です。最初は冒険者Level.1からのスタートです。受けられる依頼は数少ないですが、数をこなせばそれだけ冒険者ランクは上がっていきます。まずはLevel.10を目指してください。冒険者ランクはレベルが5上がるごとに一つずつ上がります。Level.1の貴方はA級冒険者です。それではいってらっしゃいませ。」


 ここに一人の冒険者が誕生した。エルゼ・リズレット。歳は17歳。職業(job)は魔導士。つまりは魔女というやつである。この世界では魔導士は決して貴重な存在ではないが、数が多いという訳ではない。だからこそ魔導士は仕事が多くなる。


「依頼は依頼ボードから……」


 丁寧に読み込んだ冒険者ガイドを元に流れをもう一度復唱する。


「そして受付に依頼の受注を伝え、依頼を受ける。依頼には討伐依頼と護衛依頼と簡易依頼に分けられる。

 討伐依頼は勿論、討伐の依頼。魔力を持つ人間以外の生物……つまり、魔物の討伐。

 護衛依頼は、商人などの護衛の依頼。短期間から長期間まで幅広いがある。

 最後に簡易依頼は薬草採取や冒険者補助、簡単なお仕事など、危険度が皆無の依頼。私が受けられるのはこれだけ。さて、どれにしようかな?」


 エルゼが依頼ボードの隅から隅まで目を通す。どうやらこの依頼ボードは分かりやすく、討伐依頼、護衛依頼、簡易依頼、そして指名依頼で分けられているらしい。指名依頼は特定の冒険者を指定する依頼。上位の冒険者ともなれば、そのような指名依頼も存在するようになる。


「簡易依頼の中にも常時依頼と短期依頼がある。常時依頼は、文字通り常に存在している依頼。これは依頼が無くなることが無いのだ。ある意味では安定した収入源ともいえる。

 短期依頼は一回限りの依頼。誰かが達成すれば、それで終わり。こちらのスタイルの方が多い、か。」


 何度も読み直した冒険者ガイドは少し擦り減っている。少なくとも十回や二十回といった少なさではない。その一生懸命さがこのガイドには表れていた。


「……何もない洞窟の調査依頼?」


 簡易依頼の中にレベル制限のない依頼があったのだ。何も無い洞窟というのは、言葉通り人間も生物も何もいないらしい。最近見つかった洞窟のようだ。万が一、魔物に出会った場合はすぐさま逃走せよ、とも記載されている。恐らく、高レートの魔物の可能性が高いからだ。だが、数回の調査の限りでは、何もなかったらしい。


「すみません、この依頼受けて良いですか?」


 先程、冒険者登録をしてくれた受付嬢の所へ依頼書を持っていく。


「あ、この依頼ですね。最終確認の為の調査なので正直、報酬もかなり少ないですが、受けられますか?」


「はい、これ大丈夫です。」


 エルゼは頷く。


「では、受注完了です。期限は明日の昼までなので、出来るだけ早く行かれた方が良いと思います。」


「有り難うございます。」


 エルゼは礼をすると、そのまま冒険者ギルドの外へ。眩しい日差しにこの季節の厳しさを感じる。今はまだ暑くないが、あと数日すればここ一帯は猛暑期になり、気温は35℃を余裕で超える。毎年死者も絶えないのだ。こんな猛暑期が始まったのもここ数年なのだが。それまではこの時期は、涼夏期(りょうかき)として夏期に入る前の涼しい時期だったのである。今では夏期をも超える時期として新たに猛暑期と命名された。


「……暑い。」


 国が調査に乗り出しているが、結果は出ていない。何しろ原因が皆目見当がつかないのである。涼夏期が猛暑期になった年には、大きな自然現象など無かったのだ。原因が存在しないというとはないのだろうが。


 エルゼは少しでも涼しく在ろうと自分に【爽風(そうふう)】という魔法を掛ける。これでだいぶ楽になった。


「じゃあ、行こう!!」


 気合を出してエルゼは声を上げるのであった。




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