94 汚れた部屋へ
その94です。
「やれやれ」
泰地たちと別れた後、雪郷はそのまま自ら車を運転して、東京の警察庁にまで足を運んでいた。
高速道路を利用して休み休みの行軍とはいえ、四時間くらい運転していたのだから疲労が意外と溜まっている。「なら、新幹線を使えば」と他人は言うが、雪郷の反論は「新幹線じゃタバコが吸えん」である。アホ以外の何者でもない。
そんな彼が真っ先に陣取ったのは、当然のように喫煙スペースだ。豊浜の事務所で吸えないストレスを一気に解消するかのように、既に三本目の半分近くが灰と化している。
さすがは天下の桜田門と呼ぶべきか、民間企業なら会議室にでもなりそうな面積の空間が喫煙用として用意されていた。昨今の禁煙ブーム(大手飲食店チェーンや新幹線も全面禁煙となってしまった)の中では贅沢な造りである。
だが、そんな警察庁内の喫煙者のオアシスを潰してしまおう、という勢力が出現しているのも事実だ。わざわざ空間を別々に区切っているというのに、それでも不満を主張するのだから始末が悪い。
「個人の嗜好を規制しようとするなんざ、息苦しい社会になったもんだよ」
「他人の健康を害する嗜好品を放置する社会の方が不健全だと思うがな」
四本目に火を点けながらぼやく雪郷に、背広の男がマスクをしているにもかかわらず咳をしながら近付いてきた。
無論、彼は雪郷の知り合いである。大陽寺という名を持つ彼は、いわゆるキャリア組であり、同期の中では最も早く警視長の座を獲得するであろう、と目されている。
(俺なんかよりよっぽど出世してるってのに、どうしてやたら突っかかってくるのかね? わざわざマスクしてまで喫煙スペースに来るって、どれだけ嫌ってるんだか)
……今なおタバコを揉み消そうとしないあたりも一因ではなかろうか。
今回から新展開となり、またおっさんだらけの展開となります。
とりあえず、女の子をご希望の方には申し訳なく思っています。
ちなみに、私は嫌煙家です。
生まれてこの方、一回も吸ったことはありません。




