90 騎士サンと決闘
その90です。
しかし、すぐにゲアハルトは「これは妙手だ」と胸中で感心した。
エクヴィルツの武器である鞭は、今まさに地面を強かに叩いたところだ。鞭はその特性上、攻撃を放って次の攻撃へ移るための戻し作業に少なからぬ時間を要する。泰地がへばりついている壁から飛び降りて一気に接近するより方が早いかは微妙だ。
(だけど、少なくともエクヴィルツとの間合いを詰めることは可能のはず。木剣を鞭として使うメリットはなくなる)
……ただ、ゲアハルトがひらめいた推測を、エクヴィルツが察知できない道理はない。
左右に逃げ場がない以上、上に活路を求めるのは自然な流れである(蜘蛛のように壁にへばりつくとまでは予想できなかったが)。戦いとは、相手の二手・三手先の選択肢を潰していくのが定石なのだ。
(鞭の戻りが遅いことを見越してるんだろうが、考えが浅い。俺は最初に説明したぞ? 持っているモノの性質を、いつでもどのようにでも変化できると)
つまり、今この瞬間にも木剣をもとの固さに戻すことも可能なのだ。長さを今すぐ、というのは無理があるが、硬度を少し戻す程度なら一秒も要らない。
鞭が地面を打つのを確認した刹那、泰地は飛び下りると鞭の先端を踏む。これもエクヴィルツの予想の範囲内だ。
エクヴィルツは鞭をやや硬く伸縮性のある特性に変え、少年が足を離した瞬間に素早く戻るよう仕込む。相手の選択肢を完全に潰した――そう彼は確信しても仕方がないだろう。
本日はここまでです。
決着が近そうですね。




