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88 騎士サンと決闘
その88です。
追い詰めたのか、誘導されたのか――エクヴィルツは腹の底に不安が澱のように溜まっていことを自覚していた。自分にとってほぼ理想的な状況に持ち込めたのだが、それ自体に怪しさを感じてしまう。
幾十、幾百と戦いに身を置いてきた彼の直感が警鐘を鳴らしている。普段ならば、迷わず踵を返しているところだが……
(ここは退けん。おめおめ見逃すわけにはいかん)
自分が冷静でないことも自覚している。
しかし、エクヴィルツは頭を冷やす努力を放棄していた。
散々に挑発されたことも大きいし、エックホーフの許可なく試合放棄などできない上に、ゲアハルトたちの前で敵に背中を見せる姿を晒したくない。
だが、それよりなにより「あの魔王とやらを叩き伏せないと気が済まない」という部分が圧倒的にエクヴィルツの精神を支配していた。まだ出会ってから数時間しか経過していない相手なのに、異常に敵愾心が湧き上がってくる。
相対する泰地は、エクヴィルツの尋常ならざる殺気が頭上の魔王サマの何らかの力によるものだ、と根拠はないが確信していた。そして、それは正しかったのだが、泰地はいちいち確認する勇気などなかったし、質問されない限り魔王サマは答える気などさらさらない。
……完全に魔王サマが場を支配していた。




