87 騎士サンと決闘
その87です。
「いよいよ終わりが近いな」
完全に傍観者の口ぶりでヴェリヨが呟く。
何を呑気な、とゲアハルトは苛立ちを覚えたが、もちろん声にはしない。好意的に見れば、魔王サマが負けるはずがないと信じて揺らいでないのだから。
一方、当事者である泰地は信頼が揺らぎまくっていた。
(どうするんだすか! 右にも左にも後ろにも逃げられないですよ!)
(落ち着くのだ。ルデルの狙いどおり、これで逆に追い詰めたのだ)
確かに三方を壁に塞がれ、眼前には鞭を構えた敵が詰めている。傍目には窮地に陥っているのだが、実際はそう悲観したものではない、というのがルデルの見解だ。
鞭は槍と同じく、リーチが長いのだが小回りが利かない。特に、狙った箇所へ正確に当てるには向いていないし、長さとしなやかさゆえに連続攻撃も難しい。
エクヴィルツが今の得物の扱いに慣れているのは、これまでの流れで充分に把握できた。彼が鞭の特性を理解し、無駄な動作を極力排し、計算の上で訓練場の隅に泰地を追い詰めたのがその証左である。
これでもう憐れな少年は逃げる余地を失われ、鞭でなぶられるがままの運命しか待ち受けていない――と思ったら間違いだ。
(右も左も後ろも壁ならば、逆に言えば正面から垂直方向にしか打ちこめない、ということなのだ)
(そうでしょうけど、何の解決にもなってませんよ)
(何度も言ってるとおり、身体能力は上昇している上に、戦闘方法は頭ではなく身体が理解しているのだ。加えて、これも前に伝えたが、我々は高いところへ上るほどより強くなれるのだ)
(こんな屋根のある場所で、高いところもへったくれもないでしょう……)




