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84 騎士サンと決闘

その84です。

 だがしかし、実際に戦っているエクヴィルツは楽観的になれなかった。


 相手の少年が完全に素人なのは、正対した瞬間に看破できた。姿勢も構えも動きも、喧嘩すらまともに経験していないのが透けているし、その目も脅えで震えていた。



 けれど、いざ始まってみると攻撃を当てられない。



 スピードを上げてみれば、合わせるように向こうも早くなる。


 特に驚異的なのは、最後に出した「突き」すらもかわされた事実。


 一般的な剣法では最小の動作ゆえに最速となる突きは、熟練者でも避けるのは容易ではない。エクヴィルツも、自分の突きを「見てから逃げられる」経験など記憶にない。


(魔王を自称してるだけの実力はある、ということか? 無駄だらけの動作も、敢えてそう見せているのか?)


 疑心に四肢が絡め取られ始める。気味の悪さで胸がざわめく自分に、エクヴィルツは小さく舌打ちした。



「どうしたのだ? 当てられもしないのでは勝負にならないのだ」



 陳腐で安い挑発だ。だからこそ怒りが喉元に込み上げてくる。


 自分たちリンクス騎士団が、周囲から白い目で見られているのは重々承知している。気にならないと言えば嘘になるし、自分たちが騎士に相応しくない任務に手を染めているのも事実だ。


 それでも矜持を失っていないのは、自分たちを騎士に引き上げてくれたエックホーフへの忠義と、他の騎士たちよりも実力が上であり、結果としてシェビエツァ王国の国益に最も寄与しているという自負があるからだった。


 この魔王とやらは自分より強いかもしれない――徐々に持ち上がってくる怯懦を、エクヴィルツは無理矢理ねじ伏せる。




「逃げるだけしか能のない相手も飽きた。奥の手で早急に幕を引いてやろう」


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