78 任務開始
その78です。
「なにより、問題を単純化させるのが最優先であるのだ」
適当に選んだ控室の扉を閉めたところで、魔王サマは胸を張った。
「あのエックホーフとやらは、国王の意思をある程度捻じ曲げられるほどの影響力を持っていると見ていいのだ?」
ひょいと矛先を向けられ、ゲアハルトは「は、はい」と何故か背筋を伸ばす。
「エックホーフ伯は、宮中伯十人の中で最も若い人物なのですが、その力は頭一つ抜きんでています。その力の源は、あのエクヴィルツなどを擁するリンクス騎士団の存在が大きいでしょう」
「あやつらが騎士団を名乗るなどおこがましい!」
バイラーが心底軽蔑した口調で吐き捨てる。もしこの場にゲアハルトや泰地たちがいなかったら、手近な椅子の一つでも蹴り飛ばしかねない勢いだ。
それを抑えるように、カウニッツが解説役を引き継ぐ。
「エックホーフ伯は周辺八国との外交をすべて成功させてきました。伯爵自身の巧みな交渉術や根回しの周到さもありますが、何よりリンクス騎士団による仕事が決定打になっている、と噂されています」
「仕事って、もしかして……」
泰地の質問に、カウニッツは「ええ、いわゆる汚れ仕事です」と頷いた。
交渉というものは、お互いに自らの意見を主張しつつも一定の妥協を重ね、双方がおおむね納得できる着地点を模索するものである。一方の要求だけが全て通るなんて都合の良い話は、戦争で大勝でもしない限りは絶無だと断言していい。
ところが、エックホーフは外交の場で全戦全勝と評しても過言ではない結果を出し、宮中伯――いや、シェビエツァ王国内でも屈指の実力者と認められ、国王ですら一目置かざるを得ない政治基盤を築いていた。
「で、その勝利の鍵は、例の騎士団が政敵を潰したり懐柔したり、相手の国の弱味を握ったり、無ければ作ったりしてきたって感じか。……やれやれ。どこの世界も、その手の裏工作の強い奴がのさばるもんだな」
嘆くヴェリヨの唇は、苦々しくも諦めたような笑みが浮かんでいた。




