64 任務開始
その64です。
部屋の中を、唐突に白い霧というか靄のようなものが立ち込めてきた。
詰めていた十一人の間に動揺は走るが、うろたえて呻いたり浮き足立ったりしなかったのはさすがと褒めるべきだろう。
間もなく、霧の中心に二人の人影が浮かび上がってきた。
「…………」
先王の懐刀と呼ばれたラインターナー侯爵は、数十年ぶりに迷いで舌が動かなくなるという失態に襲われた。。
異界の魔王が現れると聞いていたが、どっちがそれなのか判断できない。
片や筋骨逞し過ぎる作業着のような服装の青年、片や異界の礼服(?)に身を包んだ頭に小動物を載せている少年。事前情報がなかったのを「まあ、実際に目の当たりにすれば分かるだろう」などと軽く構えていたのが間違いだった。
ごく自然に考えれば、人間離れした肉体を持つ巨漢が魔王だろう。しかし、少年の妙に洗練された服装と頭上の小動物が判断を大いに迷わせる。
「魔王と副官の少年」か「魔王と護衛の巨漢」か?
彼以外の十人は、ほっと胸を撫で下ろしていた。自分たちはラインターナー候を万が一の事態から守るために集められただけ。エスコートは候の仕事だ。……とはいえ、ヘタを打って魔王とやらが機嫌を損ねて暴れる、なんて最悪の展開は勘弁願いたいのだが。
十秒も黙っていては礼を失する――焦るラインターナーは、次善の策を出さざるを得なかった。
「御足労いただきありがとうございます。では、我らが王の元へご案内いたします」
頭を深々と下げると、そのままくるりと踵を返し、歩き始める。
相手を特定せずに案内を始める……微妙にせこいような気もするが、ごく自然にそれを切り出して予定どおりと言わんばかりに動き始めるあたりは老獪と呼ぶべきだろう。
ようやく異世界に到着しました。
血沸き肉躍る冒険譚となるのでしょうか(ならない)。




