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その4です。
「すみません。今日は職場への挨拶って話でしたよね?」
「そのとおりだ」
「なら、どうして『UN芸能事務所』なんて書いてあるドアの前に来たんですか?」
てっきり豊浜都浜松地区の中央署へ行くものだと思い込んでいた泰地は、中央署の前をあっさりと通過したときから、いつ質問しようかとタイミングを窺ってはいた。
まさか、何の変哲もない雑居ビルに案内されるとは予想してなかったのは事実だが、ここに至るまで質問できなかった自分が情けなくなってしまう。こんなに優柔不断だから、魔王サマの座とやらにさせられたのだろうな、と。
対するヴェリヨは、その質問は想定範囲内とばかりに頷く。
「もちろん、隠れ蓑としていろいろと便利で融通がきくからなんだが、一番の理由は――」
わざと焦らすような口調に、泰地はイラッとなってしまうのを禁じ得ない。とはいえ、ここで怒ったところでヴェリヨは何も堪えないだろうし、話を進展させる気もないであろうことは、短い付き合いでも察することができる。
どうせくだらない理由なんだろうなー、と予想しつつ「なんです?」と促してみる。
「俺みたいな、あからさまに怪しい野郎が出入りしていても、そこが芸能事務所なら納得できるだろ?」
「……確かに」