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34 学校生活の始まり
その34です。
イロハは食べるのを中断し、そろりと歩き始めた。自分の意志ではなく、見えない糸に縛られ手繰り寄せられているような、異様な感覚だ。
無防備にふらふらと進んでいるのだけど、誰も声をかけてこない。むしろイロハの姿が見えていないかのように、誰もが無関心である。
あらゆる点で気味が悪くて不安が膨らんでいくイロハは、やがて校庭の一角――大きな緑葉樹が三本並んで植えられている陽当たり良好な場所へとたどり着いた。
明らかに場所取り争いが発生しそうな良スポットなのに、なぜか人の気配がない。イロハが改めて目を凝らそうとした途端、突然視界が暗転する。
「あっ――え?」
「ウム。ようこそなのだ」
まばたきを何回か繰り返すと、木の下に誰かが座っているのが見えた。数秒前は誰もいなかったはずなのに、と怪訝に思ったが、声の主が全てを氷解させてくれた。
「ルデル様と長谷野君とは、はら……」
「うん。俺の名字がちょっと呼び難いのは分かってるから、適当なあだ名付けてもいいよ」
「えっと、じゃあハラミで」
「……肉の部位で呼ばれたのは初めでだよ……」
「ノータイムでその単語が出てくるとはなぁ」
「清々しいほど己の欲望に忠実なのだ」




