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32 学校生活の始まり

その32です。

 物陰に素早く身を隠したイロハは、自分を追いかけてくる気配がないことを確認し、軽く溜息を吐いた。


 自分の予想がいかに甘かったか、とことん思い知らされる数日間である。


 イロハ自身としては、いくらテレビに何度か出演した過去があるとはいっても、所詮は中学生であり、容姿が格別に優れているわけでもなく、きちんと引退を表明した上に、わざわざ地元を離れて転校してきたのだから、大きく騒がれはしないだろうと考えていた。


 念には念を入れて、色々な誘いを断って、歴史が浅く実績のない高校を選んだ。親戚も知り合いもいない土地だけど、逆にこれから始まる一人暮らしをのほほんと楽しみにしていたくらいである。


 だが、現実は「あの人はいま」状態ではなく、北南高随一の人間ホットスポットと化してしまった。


 初日は同級生たちからの質問攻めにあったが、翌日からは体育会系部活の顧問やら部長やらが入れ代わり立ち代わり押し寄せてくるようになった。いくら入部の意思がないとはいえ、毎度毎度断るのは心が痛む。



 加えて、あの「皐会」の勧誘だ。



 合格した直後から誘いの手紙が来るようになり、きちんと辞退をした。その時は部活動の一種かと軽く捉えていたのだけど、実際にあの山井嬢に遭遇して、高濃度の本気度を理解してしまった。何としてでも逃げ延びたい、が偽らざるイロハの本音である。


 とはいえ、先にも説明したとおり、断り続けるのは心苦しい。


 部活の勧誘は、顧問や部長の来訪以上に、新入部員が誘いに来るのが一番堪える。イロハが入部しないことで、その新入部員がいじめられるという理不尽が起こる可能性を否定できないからだ。腹立たしいが、そんな話は珍しくない。


 皐会の件も、山井嬢が定期的に勧誘してきて、その度に「ごめんなさい」を繰り返しているのだが、気丈にふるまう山井嬢の目尻にわずかな滴を発見してしまって、やっぱり自己嫌悪に陥ってしまう。




 だが、何より最優先の大問題があった。




「逃げ回ってばっかりだから、まともにお昼が食べられないんだよねぇ……」



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