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第1話の始まりです。
お付き合いください。
思えば、散々な春休みだった。
何の因果か「ルデル」と名乗る、見た目は子犬のぬいぐるみな自称魔王サマの座にさせられ、公安警察への就職を余儀なくされ、廃ビルでの無茶苦茶な研修とやらを体験させられ……中学校の卒業式が一年くらい前の出来事とすら思える。
しかも、明日から高校生活が始まるというそれなりに繊細になってしまう時間なのに、職場への挨拶という用件でヴェリヨに連行されている。
「加えて、どうしてまたラーメン屋なんですか。俺、昼飯は食ったって言ったじゃないですか」
「え? 日本は呑みニケーションとやらで同僚との親睦を深めると聞いたが、未成年に酒を飲ませるのはマズいからって、これまた日本じゃ国民食らしいラーメンを選んでるんだが」
絶対後付けだろ、と泰地は呆れつつチャーハンを食べる。……なんだかんだで完食できそうな自分が腹立たしい。
と、ここで泰地の頭上で寛いでいるルデルが軍帽の下の瞳を輝かせる。
「侮るな、ヴェリヨよ」
「え?」
「確かに日本人はラーメンが好きなのだ。しかし、ここは豊浜都の旧浜松地区。地域性というものも加味して考慮しなければならないのだ」
「なるほど、さすがはルデル様」
「いや、そこまで考える必要はないでしょ」
「すなわち、旧浜松地区で馴染みの料理――お好み焼きの生地にたくあんや紅ショウガなどを加えて焼き、カツオ節やソースをまぶす、通称『遠州焼き』で攻めるべきだったのだ!」
「いや、浜松って言ったらウナギの方が有名じゃないですか?」
「孕石、いくら俺の奢りだからってウナギを要求するとは……恐ろしい子!」