181 凱旋魔王
その181です。
『心して耳を傾けるのだ! 離れ小島で城に引き篭っていた魔王とやらは、ルデルの敵ではなかったのだ。少なくとも、200年以上はウンウン唸るしかできなくなったのだ!』
いの一番に飛び出した勝利宣言に、人々は困惑しかできない。そもそも、ルデルたちがシェビエツァ王国にいることを知っている人間が少数なのだ。いきなり魔王云々なんて言われても理解できないのは当然だろう。
珍しいことに、ルデルはそんな民衆の心を汲み取ったように言葉を続けた。
「まあ、急に告げられても信じられないのは想定済みなのだ。そこで証人を用意してあるのだ。ゲアハルト!」
巨像が自分の胸に指を当て複雑な動きをすると、ぱかりと胸の一部が開く。それもなかなかのインパクトがあったが、その中から王国第一王子にして祭騎士であるゲアハルトが姿を現すと、大きなどよめきが夕空にこだました。
「ゲ、ゲアハルト殿下?」
「なんだ? なんであんな所に殿下が?」
「魔王って――証人って?」
蜂の巣を突いたような喧騒を、ゲアハルトは「静粛に!」とよく通る声で冷静に一蹴した。このあたり、さすがに手馴れている。
「我が愛すべきシェビエツァの人々よ。事後報告となってしまって申し訳ない。……私は、このルデルと名乗る異界の魔王とともに、復活が近いと噂されていた魔王が眠る魔城へ赴いてきた」
おおおおお、と控えめな歓声が広がる。
まるで英雄譚を諳んじる吟遊詩人を前にしているかのような雰囲気だ。早く続きを、と視線で催促している。
「結論から言えば、魔王ルデルが言葉にしたままだ。魔王ルデルは国王陛下の依頼に基づいて魔城は跡形もなく破壊され、魔王は自らの復活のため、より多くの時間が必要となったのは疑う余地がない!」
おおおおおッ、と興奮の歓声が沸く。
よく考えれば、魔城が潰れたのと魔王復活が遅れるのとの因果関係が説明されていないのだが、この王子による力強い弁舌を前にしては「些末な問題」と切り捨てられるのも仕方がない。
王子万歳、王国万歳――眼下の熱狂を見下ろす魔王サマは「むかーし、よく見た光景なのだ」と僅かに辟易したような呟きを漏らした。