16 学校生活の始まり
その16です。
豊浜都立浜松浜北南高校――平仮名にすると「とよはまとりつはままつはまきたみなみこうこう」と、異常に長い上に北なのか南なのかどっちつかずな名前の学校が、泰地が今日から籍を置く学び舎である。
「豊浜都浜松市浜北区」の南部に建てられたからこの名称となったそうだが、わざわざ北と南を並べる必要はなかったのではないか、と当時の責任者を問い質したい。
新入生約二百人が集合する講堂において、頭に子犬のぬいぐるみ(のようなモノ)を載せている泰地の姿は、ごく自然に浮いている。ふざけているのかと怒鳴られ叩かれても文句が言えない。
しかし、同級生たちはもちろん、居並ぶ教師たちも、壇上の校長もまるで咎める気配がない。確かにご近所さんなどを相手にしても問題なかったとはいえ、ここまで通常運行だと逆に不気味ですらある。
『だから再三言ったのだ』
急に頭の中でルデルの声が響いてきた。驚きのあまり大きく震えてしまった泰地は、周りからチラチラと視線を集めてしまう。……違う、そうじゃない。
『誰でも一度は道端に落ちている瓶のフタを硬貨と間違えたことがあるものなのだ。毎日見かける看板に描かれていたカバの絵を改めてじっくり確認したらイヌだった、なんてのも珍しくないのだ。かように人間の視覚誤認など珍しくない話なのだ』
言外で「心配し過ぎ」「肝が小さい」と呆れられてるような気がして、まずます気分が沈む泰地であった。
本日も5編投下します。