174 我が愛機を見よ
その174です。
結局、ゲアハルトとヴェリヨだけではなく、バイラーととカウニッツも同乗する話で落ち着いた。他の騎士たちは、おいてきた馬や馬車を連れて帰らねばならない。
差し出された巨像の右掌に乗るのは、相当な恐怖を克服する覚悟が必要であったのは言うまでもないだろう。しかし、驚くのはまだ早かった。
巨像が開いている左手で自らの胸をいじり始める。
一部がスライドしたり突き出たり引っ込んだりした末に、ぽっかりと右胸に人が通れるくらいの穴が開いた。どうしてこんなギミックが必要なのか、ゲアハルト達にはさっぱり理解不能である。
中に入ってみると……禍々しい外観とは全く正反対の光景が待ち構えていた。
シェビエツァ王国の人間たちには「よく分からんけど、妙に落ち着く」くらいの認識だが、ヴェリヨは「純和風の座敷かよ」と呆れたように呟く。
二十畳ほどのなかなか広い部屋には真新しい畳が敷かれ、床の間には「休んでる暇はないぞ。出撃だ」と達筆で書かれた掛け軸がかかっている。日本語など見たことのないゲアハルトですら「なんか理不尽な文章が書いてある気がする」と連想させられた。
テーブルも椅子もない部屋に戸惑う一同だが、ヴェリヨが「ルデル様が来るまでは適当に寛いでようか」などと横になったので、とりあえず適当に座ってみる。
(……落ち着けない……)
床(正確には畳だが)は適度に柔らかく、ほのかに漂う香りも心地よいのは事実だ。だからといって、やっぱり床に直接座るというのは経験が無いので居心地が悪い。
待つことおよそ三分ほど。
「待たせたのだ、皆の衆」
ハイテンションな声とともに扉(正確には襖)が開かれる。そこから顔を出したのは、心底からスッキリして晴れ晴れとした表情のルデルと……
(うわぁ……タイジ様、顔が完全に土気色になってる……)
ゲアハルトはもちろん、ヴェリヨですら心配になってしまうほど生気の乏しい少年の姿だった。