171 魔王対魔王サマ
その171です。
なんとなく脱力しているシェビエツァ王国勢の耳に、あの音が上空から降りてくるのが伝わってきた。
相も変わらずアンバランスな造形で不安な気分にさせてくれる巨像が、ゆっくりと人間たちの頭の上に接近・降下してくる。そして響いてきた声は――案の定、魔王サマの得意気なそれである。
「簡単な仕事を、可及的速やかに終わらせてきたのだ。ルデルは有言実行を旨としているのだ♪」
上機嫌な魔王サマに対し、人間たちは逆に引いてしまう。改めて、相手が人間を遥かに超越した存在である事実を心の底まで刻み込まれた気分だった。
眼下から浴びせられる畏怖の念が心地よいのか、ルデルの声音はますます高揚する。
「それでは、演目を第二幕へ進めるのだ。ゲアハルト!」
「は、はいっ!」
不意に名前を呼ばれて、条件反射のように姿勢を正すゲアハルト。この時、名指しされた本人はもとより、場にいた全員が嫌な予感で慄いた。絶対にマズい展開だ、と。
(そういえば、タイジ様はどうしたんだろう?)
ゲアハルトはようやく思い至った。
魔王サマに抱えられて空の彼方へ消えてしまって以来、少年が姿を見せないどころか声すらも発していない。どうも何か物足りないと思っていたが、ところどころで挟まれる少年の諦念混じりのツッコミが無いのだ。
空気のように半分聞き流していたけれど、あのワンクッションは精神安定のために一役買っていたんだ、とゲアハルトは妙に納得してしまう。というか、現実逃避のネタを無理矢理ひねり出さざるを得ない心境だった。
無論、魔王サマは相手の胸中などを斟酌するはずがない。
「ゲアハルト、我が愛機――『御手杵』の最初の客人として招待するのだ」
「そっ、それ《・・》に乗れとッ?」
考え得る中でも、かなり厳しい要求が突き付けられた。