170 魔王対魔王サマ
その170です。
「ほら、ここだ」
チョータン(警察手帳代わりの端末)を操作していたヴェリヨが、再生中の動画を一時停止し、その一部を拡大表示させる。
画像は荒くなってしまっているが、魔城のすぐ上を「垂直に落下してくる茶色い何か」が映っていた。わざわざ検証するまでもない。ルデルのあの巨像だ。
「じゃあ、ルデル様は正面から挑んだのではなく、魔城の真上から突っ込んで、そのまま叩き壊した――ということですか?」
カウニッツは打ちのめされたように顔面が蒼白になっている。予想の斜め上を飛ぶ無茶苦茶さに、精神が現実に追い付けないのだろう。
だが、それは他の面子も同様である。
やはり心のどこかで「ルデルの強力な攻撃にさらされて魔王が無理を押して復活を果たし、双方ともに死力を尽くし、勝機が二転三転する壮絶な戦闘が展開される」などと期待していたからだ。
あまりに呆気なく、あまりにワケが分からない幕引きに、感情の置き場所に迷ってしまうのは致し方ないだろう。
……というか、本当に終わってしまったのかという疑問が当然ある。けれど、端末の映像を切り替えると、ほぼ土台の部分しか原型を留めていない魔城の無残過ぎる様子がイヤでも目に飛び込んでくる。
現実は非情で、理不尽だ。
ゲアハルトたちはもちろんだが、おそらくは復活間近であっただろう魔王も嘆いていることだろう。
今回はここまでです。