169 魔王対魔王サマ
その169です。
変化は唐突に訪れた。
誰からともなく「……ん?」と声が漏れる。なにかがおかしい。小さな画面上に映っている魔城に少しも変化はないはずなのに、明らかな違和感が彼らの感情を逆撫でする。
まるで、虫の甲高い羽音は耳元で聞こえているのに、どこを飛んでいるのか見当たらない感覚に――――
(そうか、音だ)
全員がその正体に気付いたと同時に、世界は劇的な変化で、文字どおり揺れた。
予兆もなく魔城が爆発四散し、瞬きすら許さない勢いで液晶画面は白一色で染まりった後にノイズが走り、遠雷のような音が鳴り響いたと思ったら、嵐のごとき強風がドリーネの淵から吹き込んでくる。
「ッ!?」
最終戦争の直中へ蹴り出されたような壮絶な状況に、非戦闘員のカウニッツはもちろん、手練れであるバイラーですらただ身体を硬直させて身動きができない。ひたすら「今」が素早く過ぎ去ってくれるのを祈るのみだった。
「…………」
突風はやがて凪へ変わり、断続的に続いていた雷のような音も収まった。
けれど、誰も動こうとしない。自分たちの今の姿勢が、静寂のバランスを辛うじて保っているかのような錯覚に陥っているのだ。
安堵の溜息も吐き出せないゲアハルトは、ヴェリヨの手から滑り落ちていた端末を呆然と眺める。
(なんだったんだろう? 何が起こったの? いきなり全部真っ白になって、いやちょっと待って、その前に……爆発? え? なに? もしかして、物凄い強力な魔法で結界障壁そのものを力技で貫通させたとか?)
「あー、上から急降下爆撃したのか」
「うえええええええええええええ?」
ヴェリヨの呟きに、ゲアハルトたちは素っ頓狂な声で反応してしまった。
と、いうワケで魔王との対決、終了です。