168 魔王対魔王サマ
その168です。
では、ちゃちゃっと終わらせてくるのだ――なんて軽口を残して、禍々しい巨像は真上へ上昇していく。
金属同士が衝突するような甲高い音や、クジラの鳴き声のような伸びやかな音、大嵐の直中としか思えない耳障りな轟音やらを撒き散らしながら消えていく様子に、ゲアハルトたちは喪失していた現実感が徐々に蘇ってくるのを感じた。
全身をこり固めていた緊張を解きほぐしたい衝動に駆られるのだが、そこは魔王サマの最後の警告が最高の抑止力となってくれる。
彼らが我を取り戻したことを待っていたように、ヴェリヨが軽く手を叩いた。
「ほんじゃ、ルデル様のご忠告どおり、ここでのんびり世紀の対決を見守ろうじゃないの」
表現は薄紙のように軽いが、仰るとおりで対決を見逃すなんてもったいない。ゲアハルト達はヴェリヨが持つ端末の液晶画面の前に顔を並べ、固唾を飲んでひたすら「その瞬間」を待ちわびる。
片や、この世界を何度も暗黒に覆い尽くさんとした魔王(の復活が近い魔城)。
方や、「空の魔王」を自称するに相応しい巨大な鎧(?)に身と包んだ異世界の魔王。
古い神話で語られてもおかしくない両者の激突――その目撃者となれるとは、夢にも思っていなかったというのがシェビエツァ王国勢の率直な感想だ。
そう。思ってなかったのだ。
いくらルデルが「魔王」を自称し、泰地やヴェリヨが尋常ならざる能力を発揮しているのを目の当たりにしても、やっぱり「でも、本物の魔王に対抗できるの?」と考えていた。
なにせ、ルデル様は外見上は「やけに厳つい帽子と立派で高価そうな勲章を着けた、子犬みたいな何か」でしかないからである。恐怖よりも愛嬌が完全に勝利している。
だが、あの巨像が見事に粉砕してくれた。
あれはとんでもない。何がどうなるのかは想像できないが、あのビジュアルは尋常ならざる圧倒的な力を否応なく精神に叩き付けてくれる。というか、あのぬいぐるみ的外見からのギャップが凄まじいので、余計に異常さが際立つ。
「……で、ルデル様はどこへ行っちゃったんですかね?」
どれほどの時間が経過したのか分からないが、画面上の魔城は平常運転状態である。これには、さすがのヴェリヨも苦笑いを浮かべていた。