167 魔王対魔王サマ
その167です。
異形と似ているモノを強いて挙げるならば、「人体」となるのだろうか。
ヒトで言えば胸・肩・腕・掌に当たるであろう部分は、城や岩山を彷彿とさせる巨大で武骨な外見であり、なるほど「魔王」という名称が持つイメージをそっくり形にしている。
だが、その下――腹・腰・足に関しては、まるで正反対。針金か糸のように細く弱弱しく、とても自力で地面に立つことはできそうにない。大槌で簡単に潰せそうな細さである。
加えて、その細すぎる足は人間のそれとは異なる。逆関節――鳥の足のように、後ろ向きに曲がるようになっている。これがまた「似て非なるモノ」の印象を濃くしていた。
マッシヴな上半身とスレンダーな下半身……極端すぎる組み合わせが強力な違和感で人々の感情を揺さぶり、胸の奥に潜んでいた不安感を掻き立ててくる。
かてて加えて、負の感情をさらに突き動かしてくるのが、身に纏った色彩だ。
一言で説明すれば「茶色」である。けれど、濃くて黒に近いモノから薄く黄色に近いモノまで揃えてあるのでカラフルと表現できなくもない。
ただ、様々な文様をランダムに寄せ集めており、しかも四角や丸なんて簡単な図形ではなく、亀の甲羅のような六角形や矢尻を連想させるもの、植物の葉のようなもの、風車に似たもの等々、様々なモザイクが正中線で対称になるように隙間なく敷き詰められている様は、文化の絶対的な違いをまざまざと思い知られてくれる代物だった。
そして、最大の違和感は、両肩から垂直に突き出た「角」である。
長い。ひたすら長い。身長(と言っていいのか分からないが)の2倍くらいはありそうな長さだ。また、背後から伸びているらしい四本の鎖らしきモノも、足(?)の下まで伸びている。何の意味があるのか、人間の理解が及ぶところではないのだろう。
ヒトに似た形でありながら、ヒトとしてあり得ない造形。野生の大型肉食獣が襲い掛かってきたとしても、今なら「あ、なんだ」程度で流せそうだ――学者であるカウニッツですら、そう感じていた。
「あー、あれか。箱根の寄木細工ってやつか。はっきり見たのは初めてだけど、こりゃまた派手だなぁ。ところどころ線に沿って赤とか青とか緑とかで発光してるし」
周囲の畏怖に震える姿など綺麗に無視した様子のヴェリヨが、完全に物見遊山な調子で声を弾ませている。
その呑気さに、シェビエツァ組は怒りやら呆れやら惑いやら諦めやらが入り乱れ、自分の視線がどこを向いているのか、周囲でどんな音が鳴っているのかすらはっきりしなくなっていた。