165 魔城へ
その165です。
驚愕の連続だった。
魔王サマが少年の頭上から背中へ移ったと思ったら、一切の予備動作なしに上空へすっ飛んでしまったのだから。
満天の黒い薄雲に、ぽつんと小さな穴が穿たれた。けれど、それも瞬きの間に消えてしまう。
ゲアハルトたちシェビエツァ王国の面々が、一様にあんぐりと口を開いて空を仰ぐ。本気でワケが分からなかった。魔王サマは突飛な行動を好んでいるが、今回のは群を抜いて理解不能だ。
一分ほどは呆然としていただろうか。はっとゲアハルトはヴェリヨへ振り返る。もちろん、この巨漢は普通に平静な様子だった。慣れっこなのか事前に聞かされていたのかは分からないけれど。
とにかく説明してもらわないと、と口を開こうとしたのだが、ここで祭騎士は――いや、騎士たちも学者ですらも違和を抱いた。
「耳が……?」
何か聴こえる気がする。というか、圧迫されてるような感覚がある。
得体の知れない、しかし確実に訪れるであろう悪い予感めいたざわめきが、ゲアハルト達の冷静さを磨り潰してくる。はっきり言えば、本能が「逃げろ」と強烈に警告していた。
「ッ!」
刹那、彼らを巨大な影が覆った。
見上げた視界いっぱいに――――禍々しく巨大な異形がいた。